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兵庫県「斎藤知事再選」は妥当。知事再選率はほぼ100%+「無所属」「総務省出身」という強力な属性

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
実は順当だった?(写真:アフロ)

 パワハラ疑惑などで議会から不信任決議を突きつけられて失職を選び「出直し知事選」で再選された斎藤元彦兵庫県知事。その後も何かと話題が絶えないキャラクターで注目を浴びているのはご存じの通り。

 ところで再選という結果に「意外」「ビックリ」という反応が当初表立ち、兵庫県民の選択にも議論が起きました。でもそんなに驚くような話であったのかというのが今回のテーマです。「再選(=2選)」「無所属」「総務省出身」および初当選時の「自民党推薦」といった斎藤知事の強力な属性から考察すれば、むしろ平凡な結果とすらいえそうです。

近年のデータでは知事再選はほぼ100%

 斎藤知事は出直し選がなくとも来年7月には任期満了で既に任期4年の4年目に入っていたから「ほとんど任期満了」です。近年の知事選における再選(2選)は現職がべらぼうに強いというデータを47都道府県全てから分析してみましょう。

 現職が1期目だと再選の結果がわからないので、その場合のみ前職の再選時で比較すると(※注)再選当選は47人。つまり100%(無投票を含む)で1人も落ちていません。他方、投票率が初当選時より上がったのは6人に過ぎず、再選濃厚で有権者が投票所に向かわなかったとも推測できるのです。

 では現在の知事が新人で初当選した際に現職を破ったケースはどうかというと4例あって現職再選を破ったのは1例のみ。他の3例は現職4・5・6選時。多選批判が出る頃に当たります。

 すなわち斎藤知事の再選は珍しくも何ともなく、むしろ落選したら際立ってレアなケースであったとみた方が正確です。

不信任決議を受けての出直し選挙であっても妥当

 議会の不信任決議を受けての出直し選挙であったという特殊性を考察しても斎藤再選はさほど驚くべき結果ともいえません。

 過去に不信任決議された知事は5人。うち失職を選んで出直し知事選に挑んだのが斎藤知事を含めて3人。うち2人が当選しています。落選した唯一の1人は再選での敗北とはいえ、そもそも初当選が与野党相乗りの前職が汚職で逮捕されて辞職した後の選挙で議会にほとんど足場のない非自民系でした。議席で圧倒する自民・公明による不信任決議の結果、自公推薦の候補に敗れたのです。それでも大接戦には持ち込みました。

 辞職を選んだ2人はいずれも刑事事件がらみで出直し選には出馬していません。

 斎藤知事は後述のようにやや不安定とはいえ議会に足場はあったし刑事事件を理由とした不信任でもなかったので過去事例を鑑みても妥当。少なくとも「おかしい」というほどではないようです。

47人中中央省庁出身は27人で最多が総務省の11人

 次に出身母体。斎藤知事は「総務省」。現職知事の最多は中央省庁(「○○省」)出身で27人と57%を占めます。そのなかでの最多が斎藤知事と同じ総務省出身で11人。ちなみに斎藤氏の前任である井戸敏三知事、21年知事選で斎藤氏と争った元副知事も総務省出身。

 知事に総務官僚が多いのには理由があります。同省は2001年の中央省庁再編で郵政省、自治省、総務庁が一緒になって誕生し、知事など自治体首長を多く輩出しているのが「旧自治省系」です。

 戦前、知事は選挙でなく政府の任命で主に内務省という役所の官僚が務めていました。戦後、同省が解体されるも、地方選挙や地方公務員のありようや地方財政(交付金など)および税務(地方税など)の企画・立案を担う中央省庁として登場したのが自治省。総務省もそれを受け継いでいます。ゆえに入省すると自治体の幹部級へ出向して行財政を現場で知るのが当たり前のコースとなり「国とのパイプ役」としても機能しやすい人材となり得るため首長のバックグラウンドとして重宝するのです。

経済産業省や国土交通省も人気化

 したがって出向時点の年齢は役職に比して相当若いのが通例。自治体職員もそれはわかっていてプロパーは陰で「殿」「若」「姫」などと呼び習わし、出向中に不祥事などで傷つけぬよう気を遣いつつ無事に本省へ戻っていただくのが最善と心得ます。その過程で勘違いして尊大に振る舞うケースも時に起きるのです。

 なお近年は経済振興を担う経済産業省(旧通商産業省)出身(5人)や公共事業の発注者たる国土交通省出身(5人)あたりも人気化していえ以前のように旧自治官僚ばかりでなくなっているとはいえ最大勢力には変わりありません。

「無所属・自民推薦」は鉄板

 知事は広範な地域のシンボルという側面もあるため党派性を嫌って立候補時はたいてい「無所属」を名乗るのが通例で斎藤知事を含む現47知事のうち45人が該当。例外が国政政党「日本維新の会」公認1人(奈良県)、「日本維新」の母体たる地域政党「大阪維新の会」公認1人(大阪府)。

 とはいえ応援する政党があるのは自明で多くが「推薦」です。大半が自民推薦で与野党相乗りを含めると何と36人。初当選時は非自民系でも再選後に相乗りとなるのも珍しくありません。他に自民系同士の戦いとなった保守分裂で当選した3人を加えると39人。非自民系と言い得るのは維新の2人を除くと6人しかいないのです。まさに鉄板。

 初当選時の斎藤知事は鉄板の自民と「例外」と紹介した維新の両党が推薦しました。維新は本拠地の大阪とその周辺に地盤を築きたいので兵庫に食い込みたい。斎藤氏の初当選時は対立候補を応援した自民県議もいたので保守分裂に分類してもいいかもしれません。

「維新」という関西圏特有の波乱要因

 この構図が百条委員会設置にも影響したのです。そもそも何で自民推薦知事が圧倒的かというとほとんどの都道府県議会の多数派を占めるから。たいていは国政と同様に「自民・公明推薦」となるところ21年知事選がほぼ保守分裂であったから公明が推薦を出せませんでした。

 兵庫県議会の構成は自民会派が最多とはいえ過半数を持たず、維新を足して達します。対して他の大多数の知事が「自民・公明推薦」で過半数。百条委は議会の過半数の賛成がないと開けないので、この図式で当選していたら起きない結果といえます。

 兵庫県議会の自民および公明会派にとって維新の存在は味方にしていたら安定する半面で自身の議席を議会選挙で奪いに来るライバルでもあるのです。関西圏特有の波乱要因といえましょう。

 斎藤知事の百条委員会は非自民系+自民会派が賛成したから開催の運びとなりました。公明と維新は反対。21年知事選の保守分裂のしこりが背景にあったと察せられるのです。

市長から知事転身するには県庁所在地ないしは政令指定都市の首長が圧倒

 出直し知事選で斎藤候補が勝つ可能性も同じような図式で説明できます。まず自民が自主投票を決め込んで自民票が宙に浮きました。維新系候補が出馬するも維新自体が同候補を推薦せず。維新票もばらつきます。支持者にすれば他に推薦候補がいない以上、1期目では推薦された斎藤知事へ消極的にせよ票を投じる蓋然性が高い。

 当初有力な対立候補とみられていた前尼崎市長は非自民系が応援するも及ばず。都道府県内の市長経験者が知事に立候補するケースは比較的多く、現在の知事でその経歴を持つ転身組は10人います。ただ内訳は県庁所在地ないしは政令指定都市の首長が7人と圧倒していて、残る3人のうち1人が国土交通省出身でもあり、もう1人は維新公認の奈良県知事です。

 つまり県庁所在地でも政令指定都市でもない尼崎市長からの転身は普通の任期満了に基づく知事選ですら厳しいとわかります。

※注:青森・千葉・石川・静岡・三重・奈良・和歌山・徳島・香川・福岡・長崎・熊本・大分の13県

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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