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年末年始は「倒産」が増加! 「労働者はどう対処できるか」を弁護士に聞いた

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです。(写真:アフロ)

 東京商工リサーチが12月8日に発表した先月の企業倒産件数(負債額1000万円以上)は、前年同月比38%増の807件に上った。倒産件数の増加は20カ月連続となっている。また、帝国データバンクによれば、「2023年上半期(1~6月)の倒産件数は4006件(前年同期3045件、31.6%増)となり」、「上半期としては5年ぶりに4000件超え」という(帝国データバンク「2023年上半期報」)。

 特に、建設業や物流業、サービス業で状況が深刻化しており、中でも物価高を価格に転嫁しづらい中小企業が倒産に追い込まれていると見られる。倒産の拡大は今後も継続していくものと予測される

 こうした中で、私が代表を務めるNPO法人POSSE でも、9月頃から賃金未払いや支払い遅れ(遅配)の相談が増え始めている。倒産に伴う賃金未払いは、その性質上深刻なとなる傾向があり、1か月分の基本給を含むすべての賃金が未払いなっているものや、8月分から一切支払ってもらえなくなったというケースもみられる。また、賃金遅配を何回も繰り返しており、明らかに企業活動の先行きが不透明になっている場合もある。当然、賃金の遅配が起きている場合、企業に倒産に至る可能性は高まっている。

 企業は、労働者の賃金だけではなく、原材料費、物件費などを賄うため、多額の債務をかかえながら活動している。経営が厳しくなり、手元にある現金や預金が少なくなれば、それらの債務の支払いが滞り、やがては銀行との取引も停止されてしまう。銀行との取引が停止されてしまえば、企業活動を継続することが不可能となり、企業はいよいよ倒産となる。さまざまな債務の期限が生じる年末年始は特に倒産が多くなる時期である

 今回の記事では、倒産に伴う賃金未払いや賃金遅配に対してどう対処できるのか、解説していく。また、後半では倒産問題に詳しい指宿昭一弁護士へのインタビューから、法律上のディープな論点も紹介する。

いち早く倒産の危険をキャッチすることが大切

 最初に覚えておいてほしいことは、倒産には必ずと言っていいほど「前兆」があるということだ。その前兆をとらえておけば、早めに専門家に相談して対策をとることも可能になる。

 すでに述べた賃金の遅配や未払いはその最たるものだが、そのほか他にも次のようなことがあれば、倒産の兆候の可能性がある。

  • 事務所の家賃や材料費などが不払いになり、催促が届く
  • 不渡り手形が出たなどの話がでる
  • 税金や社会保険料が未払いになる
  • 大口取引先との取引停止や取引条件の極端な悪化が起きる
  • 普段見ない人物が良く社内を出入りする
  • 経営中枢の人物がやめる
  • 親会社からのこれまでいなかった役員が送り込まれてくる

 こうした兆候が捉えられた場合には、倒産を疑い、同僚と協力して会社の経営状況について情報を集め、倒産のリスクが明らかになった場合にはすぐに専門家に相談したほうがよいだろう。

会社に財産がない中でどう未払賃金を取り返すのか?

 会社が倒産の危機にある中で多額の未払い賃金が生じた場合、会社は資金繰りに苦しんでおり、賃金を払おうにも支払う能力がない場合もあり、未払い賃金を支払わせることが困難な場合も多い。

 そうした場合には次の2つの対応方法がある。

①「未払賃金の立替払制度」を利用する 

 第一の手段は、未払賃金の立替払制度を利用することだ。

 この制度は、企業倒産により未払いとなった賃金の一部を立替払する制度で、独立行政法人労働者健康安全機構が運用している。この制度の利用によって、退職日の6か月前から請求日の前日までに支払期日が到来している未払賃金の80%を国が立て替え払いしてくれる(上限額あり)。

 ただし、この制度が使えるのは、会社が法律上の倒産となった場合(破産手続開始の決定(破産法)、更生手続開始の決定(会社更生法)など)の他に、労働基準監督署が「事実上の倒産」を認定した場合に限られている。「事実上の倒産」は、事業場が閉鎖される、労働者全員が解雇されるなどの事情で事業活動が停止しているうえに、事業主に賃金支払能力がないと認められた場合のことだ。

 また、破産や民事再生など、会社が倒産時に採る法的手続きの種類によって、請求に必要な書類が細かく変わってくるので、まずは労働基準監督署に出向いてアドバイスを受けるとよいだろう。

独立行政法人労働者健康安全機構パンフレットより
独立行政法人労働者健康安全機構パンフレットより

立て替え払い制度を利用する場合の注意点

 請求できる立て替え払いの「額」には注意が必要だ。普通に請求すると、所定の賃金の8割しか支払われないため、過去6か月に残業をしている分は自ら証拠を整え、計算して申請しなければならないからである。この作業は割と大変で、専門家の相談を受けたほうがよいだろう(末尾も参照)。

 また、倒産の事実確認がスムーズにいかない場合もある。倒産状態に陥ると、経営者に連絡が取れなくなることもしばしばあり、零細業者のように、そもそも経営実態が証明できないような事業所では、労基署に申請しても「実在する事業所かわからない」と申請そのものができないこともある。そのような場合には、経営者を探し出し、未払い賃金の存在を認める書類に署名・捺印させることで、申請を通さなければならない

 実際に、後半でインタビューを紹介する指宿弁護士も、賃金未払いのまま経営者と連絡が取れなくなったキャバクラで、何とか経営者を探し出して、未払い賃金を証明する書類に署名・捺印させることで立て替え払い制度を利用することができたことがあるという。

 その際の説得方法は、未払い賃金の存在を認めたからと言って、「使用者が法的・経済的に不利になる点はほとんどない」説くことだという。未払い賃金が建て替えられた場合、個人経営者であれば立て替え分を請求されることはあり得るが、実際には破産してしまうことも多いため、そうした請求は実務上まれだということだ。

②労働組合を作り、職場を守りながら事業再建をめざす

 未払い賃金を確保する第二の方法は、会社が事業継続できなくても、労働組合で職場を守り事業を継続する方法だ。一人ではなかなか難しい方法だが、職場の主力を担う労働者が団結できれば、この方法も可能な場合がある。

 労働組合による労使交渉は、その内容や方法が柔軟に選択できる。そのため、労働組合による倒産対策には様々なケースがあり得るので、実例を示した方が分かりやすいだろう。

 一つ目に紹介するのは、全国一般東京東部労組が争った「めがねおー社」のケースである。

 この眼鏡店は、コロナの影響で経営が悪化したことを理由に、会社が解散し、従業員全員を解雇するということを一方的に通告した。これに対し、組合の側は、もし解雇にするのなら、ストライキなどを含めた徹底抗戦すると応じ、団体交渉の中で社長に組合員に対して眼鏡店の事業を譲渡することに合意する形で事業継続を実現することになったのだ。

 下記のブログに店舗の譲渡を受けた組合員のインタビュー動画もあるが、この組合員は「14・5年勤めてきて、いくらコロナとはいえ、納得いかなかったので闘った」という。また、労使交渉を通じ、「一生懸命な気持ちが社長にも伝わった」と回顧している。労働者側の自発的な行動が倒産問題の「よりよい解決」への第一歩なりえるということを示しているだろう。

参考:コロナ廃業・解雇に負けない!労働組合が守った眼鏡店(東部労組ブログ)

 2つ目に紹介するのは、カレー店「シャンティ」の事例だ。

 シャンティでは、運営会社が倒産し、賃金が未払いになり、労働者には解雇が言い渡された。しかし、現場の労働者はシャンティ労働組合を作って職場にとどまり、当面の生活を支えるために自主的にカレー店を運営しながら社会的に支援を訴え、寄付などで生活を維持しながら店舗の継続を求めた。

参考:シャンティ労組がカンパの訴え!~「解決するまで出ていかない」(レイバーネット)

 この交渉には指宿昭一弁護士も協力し、店舗に泊まり込んで闘う労働者の姿はひろく伝えられた。その結果、「賃金未払い・倒産解雇」から約2カ月後、3社が労働者をまとめて雇いたいと名乗りを上げ、労働組合側のイニシアチブで別の会社へ全員が移籍することができた。

参考:「とてもハッピーです」~シャンティ従業員の雇用継続が実現!(レイバーネット)

 あまり広く知られることがないが、ほかにも倒産や事業所閉鎖に対して現場の労働者が労働組合を作って職場を守り、事業譲渡や自主再建を実現した事例は数多くある。例えば、2008年のリーマンショックを機に倒産した東京・品川駅前の京品ホテルでも、労働者たちが職場を占拠し、3か月に及ぶ「自主営業」を行い大きな社会の注目を集めた。

 さらに、昨年には労働者協同組合法の成立したため、労働者協同組合で事業を継続するという選択肢も加わった。今後、ますます労働者への「倒産→事業譲渡」というケースは増えていくだろう。

労働組合はどこまで行動を起こせるのか?

 労働組合が倒産対策に有効だということは、実例からご理解いただけただろう。「職場占拠」が実務上必要な理由は、事業場をそのままにしておくと、他の債権者によって事業場の物品が勝手に「回収」されていってしまい、賃金分が取り戻せなくなってしまうからだ。また、事業継承を求めるにも、職場がすぐにひきはらわれてしまっては、そうした交渉の可能性も閉ざされてしまう。

 そのため、実務上は、労働組合は団結してストライキを起こすだけではなく、「職場占拠」を行うことで賃金債権を取り戻したり事業譲渡が勝ち取られてきた。とはいえ、職場の占拠などの強硬手段はどこまで許されるのだろうか。

 今回はこの点について実務経験が豊富な指宿昭一弁護士にインタビューを行った。まず、そもそも倒産時の労働者による職場占拠は適法なのだろうか(以下、「」内は指宿弁護士)。

「経営者が法的な手続きを取れば、仮処分をかけて強制執行で労働者を追い出すこともできますが、まずそういうことはありません。倒産の場合、経営者側に負い目があるし、そもそも強制執行をかけているお金も時間もないからです」

「そうであれば、労働者は職場を適法に占有していることになるわけです。社長が出かけている状況で、労働者が働いてる状況とある意味変わらないわけです。だから、取引先とか第三者とか、あと不審人物が来たら、追い出していいということになります。もちろん、使用者の指示を受けている人を追い返すことはできませんが、過去の事例では、「社長から頼まれた」と主張するいろんな人物が何度も職場に入ろうとしても、「それを証明してくれ」と言って証明できなかったら全部追い返したこともあります。社長の兄弟が来たケースでも、社役員でも何でもないので勝手に立ち会わせることはできないって言って追い出したことがあります」

「そもそも倒産状態にある会社は、一部の債務者に勝手に弁済することができません。財産は法律に従って分配すべきで、そのとき労働債権は優先債権ですから、そういうことを説得して追い返すことができます」

 では、社長本人やその代理人弁護士などが来て、財産を回収した場合はどうなるのだろうか? これについても、指宿弁護士によると、そもそも社長側がそうした行動をとることはまれだという。

「普通は倒産した会社の社長は立場的に弱いので、なかなかそこまでしません。もしそんなことがあったとしても、「ちゃんと破産手続きしろ」って言ったらすごすご帰るし、まして弁護士だったら、破産手続きもしてないのに、勝手に一部の債権者に弁済するつもりなのか、社長がそれ持って逃げたらどうするんだといえば、普通は帰ると思いますけどね。特に財産の持ち出しについては、使用者であっても、説得して追い返すこと、強い説得をして追い返すというのが普通じゃないかと思います」。

 さらに、労働組合には争議権を行使することもできる。争議状態に入れば、労働者が職場に滞留する法的な正当性が高まるのだ。労働者は労働組合法の力も使い、あくまで社長との話し合いで解決することを求めるべきだという。そして、指宿弁護士が最後に強調していたのは「社会を味方につける」ことの重要性だ。

「倒産事件で大切なのは、社会を味方につけることです。シャンティのときもそうでしたが、倒産した会社の労働者には社会の理解というか、共感が集まりやすいので、そういうのを背景にすると、警察が不当に介入したり、倒産させた使用者が、何か強引なことをやってくるのをはね返しやすいのです。情報発信をしっかりして、可能だったらメディアにも報道してもらって、社会的に支持を得ながら闘うのがよいと思います」

 こうした「社会的」な闘いで権利を守るためには、いくつもの事例で示してきたように、労働組合に加入し、労働組合法の権利を合わせて行使していくことが重要になるだろう。

おわりに

 倒産という最悪の事態が広がる中、労働者は自らの権利を守るため、自ら行動しなければならない。その際には、専門家の力を借りることも大切だ。私が代表を務めるNPO法人POSSEの他、さまざまな弁護士・労働組合・NPOなどが相談に乗ってくれる。行政の力を借りるにせよ、労働組合で交渉するにせよ、ぜひ後悔しない対応をしてほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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