飲食店も格差が拡大~高級店は予約でいっぱいなところも
新型コロナウイルスのまん延防止等重点措置が解除されて、1か月以上が経過し、街には多くの人が戻っているようですが、飲食店経営者に話を聞くと、「格差」が大きくなっているようです。
・高級店は予約でいっぱい
「客単価が1万円から3万円クラスの高級店は数か月先まで予約が入っているところも少なくありません。」ある外食産業の経営者は、そう話します。
この経営者や、東京都内、京都市内などの外食産業の経営者に話を聞いても、ほぼ同じような回答が返ってきました。京都の高級料理店の経営者は、「まん延防止策が終わってから、東京方面からのお客様も戻ってきてます。金融機関など企業の御接待も少しづつですが、お越しになる方が増えていますが、以前と違って少人数ですね」と話します。
別の料理店の経営者は、「外食の機会が減って、せっかくの外食にはどんとお金をかける。しかし、以前と違って、ごく親しい人とだけという人が多いようです」と言います。高級店の予約も、以前のような接待だけではなく、個人客も多いようです。「一見客お断り」、「事前予約のみ」、「少人数貸し切り」の三つが、こうした高級店のキーワードのようです。富裕層の特別感を満たすだけではなく、新型コロナの感染への警戒感もあると考えられます。
・「新富裕層」の消費は堅調
Black Card I株式会社が2022年3月に発表した調査結果によると、カード会費が数万円から十万円台と高額で、会員の平均年収は1700万円というラグジュアリーカード(チタンカード、ブラックカード、ゴールドカードなど)の保有者である「新富裕層」に対する調査結果を見ると、コロナ禍の2021年のカード利用額は伸びており、特に2021年12月は昨対比197%アップの最高記録に達している。
ラグジュアリーカードは、外食、バー・クラブなど接待などでの利用や法人利用の大型決済時に使われることが多かったのですが、コロナ禍によってネットショッピングや日常の買い物などにも使われるようになっています。2020年になると、外食や百貨店などでの利用が戻ってきているのに加えて、納税での利用も増え、利用額が大きく伸びたと調査報告では分析しています。
このように「新富裕層」は、コロナ禍においても旺盛な消費意欲を持っており、高級料理店の予約が埋まっているという話と合致します。
・「外食」は特別な機会に
まん延防止策の解除によって、顧客が戻ってくることを期待する声を飲食店経営者から耳にすることが多くあります。
先に書いたように客単価の高い料理店では、コロナ禍においても顧客の来店が見られています。ボスタス株式会社が発表した「飲食手売上動向POSデータ定期レポート 2022年3月」によると、2022年2月の飲食店のジャンル別売上を見ると、多くが前年割れしているのに対して、「沖縄料理」、「フランス料理」、「鉄板料理」が前年対比100%を上回っています。これについて感染者減やまん延防止策の解除などで売上が伸びた沖縄県の沖縄料理店を別として、「フランス料理と鉄板料理は以前から自粛期間中にも売上が落ちにくい傾向があることから、時間などの制限があったとしても、やはり特別な食事には外食を利用したいと考える消費者が多いようだ」と分析しています。
・「サラリーマンの憩いの場」は苦戦が続く
特別な機会としての「外食」を担う高級店と、学生や若い世代の会社員などが行く低価格の居酒屋などは盛況です。
「客単価が3千円から5千円といったいわゆるサラリーマンの憩いの場となる居酒屋では、苦戦が続いている」と関西地方の飲食店経営者が言います。「まん延防止が解除されて、やっと常連客も戻りつつあるが、大企業などでは在宅勤務が定着しつつあるし、仕事終わりに一杯という習慣が無くなっているようで、いつになったら前のように客が戻るか不安で仕方ない」とも言います。
首都圏の飲食店経営者は、さらに「原材料費の高騰が続き、利益幅が大きく下がっている。だからといって、値上げをすれば、やっと戻ってきたお客が離れるかも知れないと踏み切れない」と話します。
株式会社リクルートの「ホットペッパーグルメ外食総研」が発表した2022年2月度の「外食市場調査」によれば2月の外食市場規模は、1603億円でした。3カ月連続で前年同月比(以下、前年比)は241億円プラスとなっています。しかし、前々年比(2020年2月)では52.4%とマイナス幅が拡大しているのです。
外食実施率、頻度、単価ともに前年比では伸びていますが、前々年比では、前月よりマイナス幅が拡大しています。特に、「居酒屋」など飲酒主体業態で、コロナ前との比較で悪化が止まらず、苦戦が続いています。
・「帰りにちょっと一杯」は過去のものになる?
「コロナの二年間で、すっかり変わりました。仕事が終わったら、定時に帰りますし、前のように帰りに一杯と同僚や部下に声をかけることもなくなりました」と話すのは、首都圏の企業に勤務する50歳代の男性です。営業を再開した居酒屋の経営者も、「以前と違って、8時を過ぎて、9時になると多くの客がそわそわして帰り始める。お客に聞いても、二軒目、三軒目とはしごをするのが減ってしまったようです。こういうのは習慣として定着するんじゃないですかねえ」と言います。「帰りにちょっと一杯どうだいなんて言うのも、パワハラとか言われそうですね。毎日のように帰りに居酒屋に寄るなんて、昭和の風習になるんでしょうねえ」とこの会社員は笑います。
・ライフスタイルの変化が大きな影響
都内のオフィス街に店舗を構えていたある居酒屋経営者は、コロナ禍の中で都心部でも高層マンションなど住居の多い地域に店舗を移転開業させました。「オフィス街から人がいなくなり、常連客に聞いても当分の間は元に戻らないようです。飲みに出かけるのも、家の近所が多くなったというお客も多く、決断しました」と言います。
一方、40歳代の女性会社員は、「コロナ禍になって、家で食べたり、飲んだりすることが、思いのほか、安くて、美味しいことを知ってしまった。同僚たちの話を聞いても、男性たちも料理を楽しむようになって、外食についてもコストパフォーマンスに厳しくなっているんじゃないですかねえ。この値段なら、家で食べた方がって」と話します。
特別な機会としての「外食」に対応する高級店と、若い世代などが手軽な低価格店の両極端になりつつあり、その中間に位置する客単価3千円から5千円台の中高年相手の居酒屋が苦戦しているというのが現状のようです。コロナ禍の中、こうした居酒屋の経営者たちの中には、こうした問題点を乗り越えようと新たな料理やサービスへの取り組みを始めている人たちも増えています。
このようにライフスタイルの変化によって、飲食店も業種や業態でコロナ禍からの復興に差がついていきそうです。