『シン・ウルトラマン』考察。1発殴られたら640倍返し!? 容赦ないスペシウム光線の威力にびっくり!
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。
5月13日に公開された『シン・ウルトラマン』が大ヒットしている!
56年前の元祖『ウルトラマン』の雰囲気を残しながら、現在ならではのアレンジを施し、「もしウルトラマンが存在したら……」という世界をていねいに描いているスバラシイ作品だ。
ウルトラマンが人間についての情報を集めようとする(難解な『野生の思考』を1秒に1ページくらいのペースで読む!)など、斬新な視点も面白かったし、団地や居酒屋など妙に昭和っぽい舞台がちょいちょい出てくるのも楽しかった。
しかし、筆者が見る前から興味津々だったのは、シン・ウルトラマンの体格や能力である。
1966年の元祖ウルトラマンは、身長40m・体重3万5千t、マッハ5で空を飛ぶ。活動時間は3分間。
幼い頃にこれらを知った筆者は心底ビックリして、そのオドロキを出発点に理科好きになった、といっても過言ではない。
その後、計算ができるようになると、ウルトラマンの体の密度が40kg/Lを超えることや(実在する生物の密度は1kg/L前後)、3分ではマッハ5でも300kmほどしか移動できないこと(東京~琵琶湖くらい)に気づいて、ますます驚いた。
大人になってからは、それらを『空想科学読本』に書いて、筆者はもう半世紀以上にわたって、驚異のウルトラワールドを楽しませてもらってきた。
では、とっても気になるシン・ウルトラマンの身長、体重、能力は……!?
◆科学的にナットクの体格だ!
『シン・ウルトラマン』において、ウルトラマンは初め、正体不明の物体として描かれた。
禍威獣(かいじゅう)ネロンガが暴れるなか、空の彼方から迫ってくる。劇中での報告によると、その速度は時速1万2千km! 計算するとマッハ9.8だ! これはモーレツに速い。
そして「急激に減速します」という報告に続いて着地していた。
周囲の安全に気を遣ったのだと思うが、それでも着地の衝撃はすごかった。
これ、ウルトラマン自身も大変である。仮に、上空10kmから減速を始めてマッハ1で着地したとしても、ウルトラマン本人には56G(体重の56倍)ものブレーキ力がかかったはずなのだ。
人間が意識を保てるのは10Gまでだから、人間なら失神したまま地面に激突してご臨終だろう。
だが、ウルトラマン(このときはまだ銀色の巨人)は、土煙のなかからその巨体を逞しく現した。
これだけでも、ウルトラマンが驚異的な存在だとわかる。スバラシイ登場シーンである。
さて、気になるウルトラマンの身長・体重だが、これについては、戦いの後に、禍特隊(禍威獣特設室専従班)の船縁由美(ふなべり ゆみ)がこう分析した。
「身長60m、着地点の陥没の具合から体重2900t」。
おおっ。おおおおっ。
身長60mとは元祖ウルトラマンの1.5倍。なのに、体重は元祖の12分の1の2900tしかない。
計算してみると、この体重は「身長185cm・体重85kg」の人間が、身長60mに相似拡大した場合と、ピッタリ同じである。
すると当然、密度も1kg/Lほどと思われる。ってことは、空想科学的にもナットクできる体格ということだ。
でもナットクできすぎて、もう『空想科学読本』で筆者がツッコむことはできません……。
さらに感動したのが、ネロンガを倒して空に飛び立つ場面だ。飛翔するウルトラマンの周囲に、雲が発生している!
これはおそらく「ベイパーコーン」。物体が空気中で音速を超えると、衝撃波が発生し、物体といっしょに空気中を進む。衝撃波は圧力が非常に高いので、通過の直後は空気の圧力が急低下する。すると断熱膨張で温度が下がり、空気中の水蒸気が凝結してコーン型の雲になる。
このべイパーコーンが発生したということは、ウルトラマンが超音速で飛んでいることの証に他ならない。超音速飛行が「見える化」されているわけで、この表現はまことに斬新だと思う。
◆容赦のないウルトラマン!
『シン・ウルトラマン』の登場人物のなかで、筆者が他人とは思えなかったのが、禍特隊の非粒子物理学者・滝明久(たき あきひさ)だ。
ウルトラマンがネロンガの放電を受けても平然としているのを見て「50万kWはあるのに!」と驚き、スペシウム光線が周囲の山ごとネロンガを爆破すると「いったい何GJ(ギガジュール)あるんだ!?」と疑問を口にする。
いちいち数字にするのが、まるで自分を見ているようだ。
その彼が口にした、ネロンガの放電「50万kW」とは、いかなる威力なのか?
大型原子炉の出力が150万kWだから、その3分の1。しかも劇中の印象では、ウルトラマンは放電を30秒ほども浴びていた。
[kW]とは「1秒に発生するエネルギー」=「仕事率」の単位で、秒数をかければエネルギーになる。50万kW×30秒=1500万kJ=1万5千MJ(メガジュール)=15 GJ。
つまりネロンガの放電は、15GJ。雷10発にも匹敵するようなすごいエネルギーである。
では、スペシウム光線の威力はどれほどか?
劇中、ウルトラマンはかなり離れたところからスペシウム光線を放ち、射線上の山をボカンボカンと吹き飛ばしていた。まことにカッコよかった。
映画の描写から、山の高さが180mほど(=身長の3倍と仮定)で、吹き飛ばされた距離が600m、幅が60m……だったとしよう。
それだけの現象を起こすエネルギーを計算してみると、なんと9600GJである。
前述したネロンガの放電15GJの640倍! 1発殴ってきた相手に、640発殴り返すようなものだ。このヒーロー、容赦というものがまるでない!
これについては、地球に来たばかりで、加減というものがわからなかったとも思えるし、劇中の「禍威獣」の設定を考えれば、容赦している場合ではなかった、とも考えられる。
このあたりも、さまざまな見方ができて、『シン・ウルトラマン』はまことに面白い。
そして、登場人物がしばしば『空想科学読本』みたいな数字を口にするので、筆者は「それを劇中の人々が言ったら、もうワタクシの出番がなくなります~」とドキドキしながら見ていたのだが、それも含めてこの作品の魅力に他ならない。
――最初の放送から56年経って、ウルトラマンはここまで来たのだ。しみじみ嬉しい。