安倍総理の言動がひたすら火に油を注ぐ「桜を見る会」
フーテン老人世直し録(476)
霜月某日
トランプ大統領の弾劾調査を行う米下院情報特別委員会は、15日にマリー・ヨバノビッチ前ウクライナ大使を証人に公聴会を開いた。ヨバノビッチ前大使は今年5月に突然トランプ大統領に解任された人物である。
彼女は解任の裏に、バイデン前副大統領の息子の汚職調査をウクライナ政府に働きかけるトランプ大統領の顧問弁護士ジュリアーノ氏からの中傷キャンペーンがあったと証言した。ところがその最中にトランプ大統領がツイッターで「任命権は大統領にある」とヨバノビッチ攻撃を行い、そのツイッター攻撃にヨバノビッチ氏が「脅迫的だ」と応ずる一幕があった。
議会公聴会と大統領のツイッターが同時進行するドラマティックな展開は議会の歴史上なかったことである。テレビ中継を見た米国民にどのような反応が生まれるのか気になるが、民主党議員の中には大統領の脅迫的なツイッターを弾劾の理由に加える可能性を指摘する声もある。
大統領の言動が弾劾に向けて火に油を注ぐのか、それとも鎮静化させる効果を持つのか、注目していきたいと思うが、目を日本に転ずれば、「桜を見る会」を巡る安倍総理の言動は問題を鎮静化させるのではなく、火に油を注ぐ効果をひたすら発揮している。
まず8日に行われた参議院の予算委員会で田村智子参議院議員の追及に対し、安倍総理は官僚が得意とする「逃げ」を打った。「個人情報につき答弁を差し控える」と「セキュリティ情報に関わることで答弁を差し控える」を繰り返し「知らぬ存ぜぬ」で押し通した。
しかし「桜を見る会」に招待された側は誰も悪いとは思っていないから、ネット上には当時の情報があふれている。それを田村議員から指摘されても安倍総理は「蛙の面に何とか」で「答弁を差し控える」と「私は関与していない」を繰り返したのである。
もっとも笑ったのは、安倍総理は開門前に特別に地元後援会を新宿御苑に招き入れ、記念撮影をしたが、地元後援会は誰もセキュリティチェックを受けずに入場していた。そこを突かれると「セキュリティに関することで答弁を差し控える」と答弁したことである。頓珍漢とはこのことだ。
そして内閣府官房長が「名簿は破棄した」と答弁するに及んで、フーテンには「森友疑惑」の記憶が蘇る。あの時も「国有地の売却に便宜を図る事例はよくある話」と思っていたら、安倍総理が「私も妻も関与していたら総理も議員も辞める」と異様なほど気色ばみ、佐川理財局長が「すべて文書は破棄した」と明言した。
「この異様な反応は何だ」と思うところからフーテンにとって「森友疑惑」は重大問題に転化し、総理の発言が発端で文書の隠蔽、ねつ造という民主主義政治にあってはならない事態が生まれた。そして財務省職員がその犠牲となり命を絶つ悲劇を生んだ。安倍総理の言動が「よくある話」を「深刻な民主主義の危機」に変えたのである。
今度もそれと酷似している。遅ればせながらメディアが注目し始めると、安倍総理は突然来年の「桜を見る会」を中止した。何で中止するの?という疑問が生まれる。阪神大震災や東日本大震災、北朝鮮のミサイル発射予告があって中止したことはあるが、今回は理由が判然としない。
菅官房長官は「招待基準の見直しを図る」と語ったが、それをやるのに来年中止する必要はない。それより来年は見直した基準に従い国民に理解される「桜を見る会」に変えることが政治家の務めである。中止は「臭いものに蓋」の印象を与えるだけで逆に後ろめたさを感じさせる。
さらに安倍総理は15日に総理番の記者にかなり踏み込んだ説明を行った。「桜を見る会」の前夜祭としてホテル・ニュータニで行われていたパーティについて、安倍総理の政治資金報告書に収支の記載がないのは、ホテルから参加者個別に領収書が発行されているからと言ったのである。
郷原信郎弁護士はこの発言に注目している。郷原氏はニューオータニが金を受け取りもしないのに領収書を発行することはあり得ないと言う。つまり安倍事務所が予定の人数分の金を前もって立て替えたから領収書が人数分発行されたことになる。参加者は会場で参加費5千円を支払ってホテルが発行する領収書を受け取った。
それは予定された人数、つまり立て替えた人数と、実際に参加した人数が同一でなければならない。参加を予定したが実際には参加せず、5千円を会場で支払わなかった人がいれば、安倍事務所は立て替えた分を全額受け取れなかったことになる。つまり安倍事務所か安倍後援会が差額を補填したことになる。
この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2019年11月
税込550円(記事6本)
※すでに購入済みの方はログインしてください。