Yahoo!ニュース

WBSS準優勝者が語るファイトマネーとの付き合い方「破産するボクサーにはならない」

杉浦大介スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

モーリス・フッカーは”間違いなく勝てる相手”

ーーアメリカのボクシング界はしばらく完全にストップし、厳しい状況でしたが、どう過ごしていましたか?

レジス・プログレイス(以下、RP): 僕は大丈夫でしたよ。ロサンジェルスに住んでいるのですが、トレーニングもできていましたし、何とかやっていました。

ーー普段よりは自由時間もあったのではないかと思います。SNS上ではクリフダイビングの動画も見ました。

   

RP : そうですね、崖から飛び降りたり、水の中に飛び込んだりしていました(笑)。あとは自宅で子供たちの宿題を手伝ったり、妻とチェスをやったり、様々なことをしてましたよ。

ーー地域によっては練習場所の確保に苦労している選手もいますが、ジムには行けていたんですね。

RP : ジムの鍵を預かっていたので、誰もいない夜の時間帯にジムに行き、トレーニングをこなしてきました。たいていそこにいるのは僕とトレーナーだけ。ただ、(パートナーがいる日は)スパーリングもできていました。

ーー4月に予定されたモーリス・フッカー(アメリカ)戦は残念ながら延期されてしまいました。試合を配信予定だったDAZNの意向次第でもあるのでまだ難しいと思いますが、今後のプランは考えていますか?

RP : まだ具体的なプランを立てるには至っていません。次の試合がいつになるかも完全に未定。そんな状況で僕にできるのはトレーニングを続け、準備しておくことだけです。

ーー元WBO世界スーパーライト級王者のフッカーは実力者ですが、印象は?

RP : いい選手ですよ。元王者なのだから、リスペクトされてしかるべきです。まとまったボクサーだし、勝ちにくるでしょう。ただ、私なら楽に勝てる選手だと感じています。いや、もちろんトレーニングキャンプなどでしっかりと身体を作らなければいけないわけですから、楽に勝てると言うべきではないのでしょうが、間違いなく勝利を手にできる相手だと思っています。

ーーインターネット上ではイギリスのWBAインターコンチネンタル王者ルイス・リッツォンとの試合も話題になっていましたね。

RP : その通りですが、実際にはリッツォンのことはほとんど何も知らないんですよ。イギリス人で、確固たるファンベースを持った選手だということは知っています。エディ(・ハーン・プロモーター)が彼の話をしている時に、僕の名前を出していたので、それに応えただけ。イギリスで彼と戦ったら、大きなイベントにはなるのでしょう。

戦い、稼いでも、破産したら意味はない

ーー昨年10月、ロンドンでのジョシュ・テイラー(イギリス)戦では0-2の判定で初黒星を喫しました。惜しくも接戦を落としたわけですが、イギリスに対して悪い感情は持っていないんですね。

RP : イギリスでは素晴らしい経験をさせてもらいました。テイラー戦ではロンドンのO2アリーナに2万人以上のファンが集まり、僕も新たなファンベースを構築できたと感じています。気分良く過ごせたし、またイギリスで戦うのだってまったく問題ないですよ。

ーーそうやってエキサイティングな試合をし、ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズでも決勝まで勝ち進む中で、すでに多くのファイトマネーを稼いだと思います。去年のクリスマスにはお母さんに新居をプレゼントし、鍵を渡す動画が話題にもなりました。そうやってお金を得ることで、変わったことというと何でしょう?

RP : お金が入ってくるようになって、多くのことが変わりました。本当にたくさんのことが変わったと思います。もちろんメリットの方が大きいですが、ここでデメリットを挙げると、周囲のみんなに僕が“解決手段”だと思われてしまうことです。多くの人に金銭援助を求められ、“ノー”と答えるとその人は激怒するんです。そういった人たちは、僕がどれだけ多くの人に助けを求められているかを理解しないんです。そこで僕が思いついたのは、希望された金額よりも低額を渡すこと。そうするとひどい言葉で罵られたりもしてしまうんですが、気にはしません。僕はみんなの解決策にはなれないんです。

ーーいわゆる有名税ですが、残念なことですね。

RP : 他の多くのボクサーたちと同じように、僕もまったくお金がないところからキャリアをスタートさせました。今ではお金が入ってくるようになって、周囲が助けを求めてくること自体は理解できます。しかし、まるで僕が“銀行”であるかのように見られてしまうのは残念なことです。

ーーそういった環境では、お金の管理が重要になりますね。

RP : 僕は普段からボクシングの歴史を学び、破産してしまった選手がたくさんいることも知っています。大金を稼ぎ、すべて費やしてしまった過去のボクサーのようにはなりたくありません。どこで費ったかもわからないような形で費い、破産し、同時に現役時代のダメージから痴呆を患うケースもあります。脳や身体を痛めつけながら戦い続け、財産が残せればまだ良いですが、破産してしまったらもう何も残らないですからね。

ーー最初にお金持ちになることのデメリットを話して下さいましたが、一方でメリットは?

RP : これまで話したこと以外、すべては良いことばかりです(笑)。長々とネガティブな面について話してしまいましたが、実際はもちろん良いことの方が多いですよ。今ではやりたいことが何でもできますからね。現在はロサンジェルスに住んでますが、その気になればハワイで優雅に暮らし始めることだってできます。自由だし、選択肢がたくさんあるのは良いものです。

ーー自分を見失いさえしなければ、お金があれば生活が潤うのは間違いないですものね。

RP : みんなに援助を期待されるのがデメリットという話をしましたが、自分の大切な人たちを助けられるというのはもちろんメリットです。僕はお金がないファミリーの出自で、そんな家族を今では助けることができる。諸刃の剣ですが、周囲を支えられるのは幸せなことです。

 後編「プログレイスが出演したハリウッド映画とは?」に続く

 レジス・プログレイス(アメリカ)

 1989年1月24日生まれ(31歳) ルイジアナ州ニューオーリンズ出身

 元WBA世界スーパーライト級スーパー王者

 プロ戦績は24勝(20KO)1敗。サウスポーのボクサーファイター。ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)のスーパーライト級にエントリーし、2019年4月の準決勝でキリル・レリック(ベラルーシ)を6回TKOで下して決勝進出。このレリック戦で初めて世界タイトルを奪取した。 12月の決勝では敵地で惜しくもジョシュ・テイラー(スコットランド)に敗れたが、その実力は依然として高く評価される。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

杉浦大介の最近の記事