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サッカーゴール等の転倒事故を防ぐ その5 〜書類送検で予防はできるか?〜

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:アフロ)

 2018年12月10日頃から、サッカーゴールの転倒に関して複数のメディアからSafe Kids Japanに問い合わせがあった。なぜ今頃問い合わせがあるのか不思議に思っていたが、下記のニュースの準備のためであったようだ。

福岡県大川市の市立川口小学校で2017年1月、小学4年生の男児(当時10)がハンドボール用のゴールの下敷きになり死亡した事故で、福岡県警は21日、安全管理を怠ったなどとして、当時の校長(59)、教頭(53)、担任教員(31)、安全教育主任の教員(30)、定期安全点検実施の教員(41)、授業担当教員(34)の6人を業務上過失致死容疑で福岡地検に書類送検した。文部科学省は2013年9月に出した通知で、ゴールの転倒防止策や点検を求めていた。県警によると、このゴールは金具などで固定されていなかったうえ、毎月の点検も16年11月以降は行われておらず、校長や教頭は点検の報告を求めていなかった。6人は県警に「点検を忘れていた」「倒れないと思った」などと説明しているという。(日本経済新聞の記事の抜粋)

出典:日本経済新聞 2018年12月21日

加害者生産システム

 学校管理下で死亡事故が起こると、大きなニュースになる。しかし、その件に関するニュースを年余にわたってフォローすることはほとんどない。以前、われわれのグループで新聞データベースを用いて天窓からの転落死例のプロセス分析をしてみた(下図)。天窓の例を時系列で紹介してみよう。

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  • 2008年6月18日

東京都杉並区の小学校で6年生の児童が天窓から転落して死亡。

  • 同年6月19日

東京都教育委員会が、安全点検・施設改善・安全教育の通達発出。

  • 同日

実は同じ事故が繰り返し起きていたことが判明したが、杉並区の担当者は、「過去の事故は知らない」、「天窓に人は想定外」と発言。

  • 同年6月20日

校長が「学校設置者として責任を痛感し、心よりお詫び申し上げます」と謝罪。

文科省は、学校設備整備指針を見直すとの見解。

  • 同年6月25日

東京消防庁が3年間に同様の事故が15件あったと報告。

  • 同年9月11日

東京都教育委員長が「危険な場所であるという意識が希薄化していたことが原因。管理・指導を徹底」と指摘。

  • 同日

校長が「屋上には入らないこと」を引き継いでいないことが判明。

  • 同年9月29日

文科省が「学校における転落事故防止の留意点」の通達発出。

  • 同年12月12日

八王子市教育委員会が「はめ込み式金網」を年度内に設置すると報告。

  • 同年12月17日

警視庁が、校長と教諭を業務上過失致死の疑いで書類送検。

  • 同年12月18日

東京都杉並区教育員会が、1,800人の全教職員がパソコンでヒヤリ・ハットを共有するシステムを2009年1月から稼働する予定と報告。同日の毎日新聞は、「文科省は情報を一元的に集め、情報共有する仕組みを作るべきだ」と指摘。

  • 2010年3月30日

東京区検が校長(56)と担任教諭(51)の2人を業務上過失致死罪で略式起訴。

  • 同年4月8日

鹿児島県霧島市立綾南小学校で、小学3年生の児童が天窓から4m下に転落。

  • 同年4月9日

東京簡裁が、業務上過失致死罪で略式起訴された校長と教諭にそれぞれ罰金20万円の略式命令。杉並区教委によると、2人は罰金を納付する意向とのこと。

  • 同年11月24日

東京消防庁が、都内で2005年4月~2010年9月までに21人の子ども(12歳以下)が、天窓・ガラス製屋根から転落して救急搬送され、15人は要入院であったと報告。

  • 2011年1月31日

小学校の校長に行政処分(戒告)。

 メディアは、最初は事故を大きく取り上げるが、最後には7〜8行の記事となり、以後、この事例について触れられることはない。たまたま管理者であった人の責任にして、事故の報道や事故への対応が収束する。これらは対策にはなっておらず、また同じ事故が起こって振り出しに戻ることになる。すなわち現在は、予防ではなく、責任追及型の「加害者生産システム」となっている。

何のための書類送検なのか?

 今回は、事故が起こってから書類送検までに約2年かかっている。時間がかかりすぎではないか。これまでにも同じ事故例がある。関係者や専門家から供述調書をとるとしても、これまでとほぼ同じ内容であり、これまでの事故例への対応を踏襲するのなら、3か月もあれば書類送検できるのではないか。

 次に、何のために書類送検をするのか?当事者に刑罰を与えることによって、その人たちに罪を贖ってもらい、他の人たちには、同じことをしないように警告するために送検するのであろうが、天窓からの転落のケースのように、書類送検をして起訴し、有罪判決にしても予防の役には立たない。警察、検察は、罰することだけが仕事ではないはずだ。同じ事故が起こらないように、と思っているはずだ。であるならば、自分たちが送検したり、起訴したケースが、その後の予防に役立っているかどうか評価してみる必要がある。保育や学校の管理下で起こった死亡事故の当事者を罰しても、同じ事故の予防にはつながっていないことがわかるはずである。

 

 トフラーも指摘しているように、法律の世界の変化の速度は極めて遅いことが知られている(下図)。

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 もちろん、変えてはならないこともあるが、同じ対応をして、また同じ事故が発生しているのなら、何かを変える必要がある。これまで、現場、あるいは現場近くにいた人を罰してきたが、それが有効でないのは明白である。以降は「市の教育長」あるいは「市長」を書類送検するのがよい。次の一手を打たなければ、同じ事故を予防することはできない。現時点で教育長を法的に罰することができないのなら、法律を変えればいい。1kmの速度であっても、有効でないことがわかっているのなら変える必然性がある。加害者生産システムから、安全知識循環システムへの転換が求められている。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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