【ホークスちょっと昔話】「おいさー!」大場翔太の超絶デビューと珍言ヒストリー
ホークスにあった数々のドラマを当時の温度のままで振り返っていく。
その名も、ホークスちょっと昔話。はじまり、はじまり~。
王ホークス最後のドラフト1位
14年続いた王ホークスの最後の黄金ルーキー。それが2007年大学・社会人ほかドラフト1位で入団した大場翔太投手だった。
6球団が1位指名で競合したアマナンバーワンの右腕だった。東洋大学時代、東都大学野球リーグでは33勝11敗、防御率2.13の成績を挙げ、さらに通算410奪三振は当時の歴代最多を誇った(のちに亜細亜大→ソフトバンクの東浜巨が420奪三振を記録)。また、明治神宮大会ではすべて完投して優勝に貢献し、「平成の鉄腕」の異名をとった。
当然、即戦力として期待された。1年目のオープン戦は3試合に投げて防御率9.22と惨憺たる結果だったが、それでも開幕ローテの座を確保した。
パ・リーグ史上初の快挙
2008年3月23日、開幕3カード目の楽天戦でプロ初登板初先発。これがプロ野球史に残るデビュー登板になった。史上28人目のプロ初戦での完封勝利を成し遂げたのだ。しかも無四球での達成となり、これはパ・リーグ初の快挙。王貞治監督は「いやー、どえらいことをやってくれたよ」と声を弾ませた。
最速150キロを記録した直球で真っ向勝負をした。圧巻は両チーム無得点で迎えた八回だった。2死走者なしで対するのは楽天4番のホセ・フェルナンデス(ロッテ、西武、オリックスでもプレー)だ。明らかに一発狙いの場面。初球はボール球になる変化球で様子を見たくなるところだ。しかし、大場は146キロ直球を投げ込んで空振りを奪った。
その後もストレート中心に組み立てて1ボール2ストライクと追い込んだ。そろそろ変化球で勝負かと思わせておいて、勝負球もやはり真っ直ぐ。低めのストレートで見事空振り三振を奪ってみせた。球数はすでに100球を超えていた。デビュー戦は独特な緊張感があり、疲労の度合いは計り知れない。それでも威力は衰え知らず。大場は「鉄腕」であるゆえんをプロ初戦でいきなり証明してみせた。
さらにプロ3戦目の登板となった4月5日のロッテ戦では7者連続奪三振を含む1試合16奪三振でまたも無四球完封勝利をマークした。この1試合16Kは現在もホークスの球団記録となっている。
「僕、右肩になります」
これはもうエース道まっしぐら、とだれもが期待に胸高鳴らせた。しかし、ルーキーイヤーは終わってみれば13試合3勝5敗、防御率5.42と平凡な成績だった。
調子の波がとてつもなく大きかった。上記のような無双ピッチングもあったが、一発病に泣く場面も多かった。無四球完封を2度記録したが、制球力で勝負するタイプではなかった。被弾を警戒し始めてコントロールを気にするあまりに徐々に腕が振れなくなり、生命線ともいえる直球の威力が消えた。大場にとってこれは痛恨だった。
気づけばマウンドでの投球よりも不思議キャラの方が注目されるようになった。例えば、1年目オフに行われたトークショーでの一幕。
また、ある年の秋季キャンプ中。スポーツ紙でトレード話が成立間近と報じられた。大場は朝からずっと狼狽。昼頃に当時の秋山幸二監督が通りかかったのを見かけるとそこに駆けつけて「監督、僕頑張ります。監督の右肩になりますから」と残留を懇願した。突然のこととあまりの迫力に指揮官は生返事をしていたが、「右肩じゃなくて右腕だろ? でも、それってコーチのことじゃないのか?」と苦笑いしていた。ちなみにこの時の大場のトレードの事実はなかった。
ただ、立場が苦しかったのは事実。3年目の2010年は未勝利に終わっていた。
山笠ヘアで絶叫パフォ
しかし、迎えた2011年に復調を見せる。8月には4勝1敗、防御率1.71の好成績で自身初のパ・リーグ月間MVPを獲得した。
その同月11日の試合。お立ち台での名(迷・・・)パフォーマンスが誕生した。
「自分の髪形はこの日のために、福岡ということで『山笠ヘア』にしてきました。川崎選手の真似じゃないですが、やっていいですか?」
スタンドの3万人超のファンに総立ちを求め、気持ちよさそうに絶叫した。
「1、2、3、おいさー!」
よほど気に入ったらしくその後もお立ち台のたびに行っていたのだが、翌年のヒーローの際はなぜか左手にセリフをペンで書き込みカンペを作成。何度も行っていたのになぜ?とみんなの首を傾げさせた。ほかにもお立ち台で「今日は勝ちたかった・・・岡部くんの誕生日だったので」とご満悦だったが、本人以外は「誰?」とキョトン。まあ、色々と楽しませてくれた投手だった。
そんな大場投手はその後中日ドラゴンズで1シーズンプレーし、2016年をもって現役を引退した。当初、セカンドキャリアとして競輪選手を目指したが断念し、現在はユーチューバーとなっている。意外な転身・・・いや、そうでもないかもしれない(笑)。