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契約更改に見た「リリーフ評価」の難しさ。登板過多を嫌う首脳陣、50試合が目安のフロントとの「差異」

田尻耕太郎スポーツライター
ソフトバンク・藤井皓哉投手。中継ぎ陣では「柱」的な存在(筆者撮影)

 プロ野球の本格的なオフシーズンは12月いっぱい。年が明ければ温暖な地を中心に選手たちは自主トレを開始して、来たる2025年のシーズンに備えることになる。

 その新シーズンに向けた契約更改もほぼ大詰めの中、12月26日には福岡ソフトバンクホークスのリリーバー、藤井皓哉投手が契約交渉に臨み1400万円アップの年俸7000万円でサインした(金額は推定)。

 今季は40試合に登板し2勝1敗19ホールド、防御率1.80。シーズン終盤は腰痛で離脱し、日本シリーズなどのポストシーズンには登板できなかったものの、チーム4年ぶりのリーグ優勝に欠かせない戦力の1人だった。

交渉の席で球団へ切実な訴え

 契約更改後の会見。藤井は浮かない表情を浮かべていた。「来年はとにかく怪我をしないこと」。大事な時期に故障で戦列を離れた悔しさが今も心の中に残っている。ただ、それ以外にもう1点、交渉の場で球団へ要望していたことを明かした。決して怒気などを含んでいたわけではなかったが、1人のリリーフ投手としての切実な訴えだった。

「いま、球界全体を見てもそうですし、ホークスを見ても50試合登板のハードルが上がっていると思うので、それを下げてもらえないかと。リリーフをやっていくうえで50試合を投げるのが1つの目標のようになっていますが、現場(チーム首脳陣)は投げさせすぎないようにというのを感じました。少し今までと変わってきているのではないか、という話をしました」

「2連投もさせたくない」

 今シーズンのソフトバンクは特に、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)の方針に基づいて3連投は禁じ手とされ、シーズン中の取材では「2連投もしないようにしたい」と語るほど、リリーフ投手の登板過多を避けるために注意が払われていた。その結果、今季のソフトバンクでは藤井が言うようにリリーフ投手全体の登板数は減少し、チーム最多は松本裕樹投手と杉山一樹投手の50試合となった。

 これは過去10年を振り返っても最も少ない。

 また、藤井は「球界全体を見ても」と語っている。実際にどうなのか。過去10年のパ・リーグ(セ・リーグはDH制がないことを考慮し今回は除外)を調べてみると明らかだった。

パ・リーグ、シーズン最多登板投手と試合数【※<>内は50試合以上登板した人数】

2015年 増田達至(西武)72試合 <20名>

2016年 福山博之(楽天)69試合 <22名>

2017年 岩嵜翔(ソフトバンク)72試合 <21名>

2018年 加治屋蓮(ソフトバンク)72試合 <19名>

2019年 平井克典(西武)81試合 <25名>

◆2020年 平良海馬(西武)、益田直也(ロッテ)54試合 <8名>

2021年 益田直也(ロッテ)67試合 <13名>

2022年 西口直人(楽天)61試合 <16名>

2023年 鈴木翔天(楽天)61試合 <15名>

2024年 則本昂大(楽天)54試合 <11名>

◆2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で120試合の短縮シーズン

 2010年代のパ・リーグではシーズン70試合以上登板する投手が散見され、かつシーズン50試合以上登板の数も多かった。しかし、登板過多による投手故障を防ぐ声が高まったのも事実。2021年以降は明らかに減少しつつある。

藤井の考えと球団フロントの声

 ただ、そんな現場首脳陣の起用傾向に対して、球団フロントにはまだ「50試合」という目安が根強く残っているように感じる。藤井は「ソフトバンクに入団した(2022年)頃に球団から50試合が1つの目安になるという話をされた」と明かしている。そのためその数字はソフトバンクのリリーフ投手陣の共通認識となっているようで、今オフの契約更改でも長谷川威展投手や田浦文丸投手、木村光投手らが「来季は50試合」という目標値を掲げていた。

 藤井は交渉の席で「登板イニングを見てほしいと言いました。今年は特に回跨ぎも多かったし、回跨ぎなら少しプラスになってもいいんじゃないかという話もさせてもらいました」と自身の考えを伝えたという。

 三笠杉彦GMも藤井の考えには一定の理解を示しているようだった。「年々、見直しはいろいろとかけています。たとえば先発投手も規定投球回に達して一人前という考えもありましたが、今、達している投手は12球団でも数人しかいない。中継ぎも50試合、多い時は70試合とかありましたけど、ほとんど3連投もなくなっていたりします。状態を見極めて登板をシェアするようになってきています」。ただ、そのうえで「緩やかにその方向に進んでいるとはいえ、今年起こったことが、すなわちトレンドだと考えるのはやや早計かなと思います。全体を見渡しながらやっていきたいと思います」とも話した。

 契約更改の時期にリリーフ投手が待遇改善を訴えるのは、20年以上のプロ野球取材の中で毎年のように耳にしている。野球のあらゆるポジションや役割の中でもリリーフ投手の声を聞く機会が多い。

 投手分業制がより細分化され、リリーフ投手の重要性がより増していく中で“やりがい”をいかに持たせるかは重要だ。プロ野球界の課題がまた浮き彫りになった今オフだった。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。「Number web」でのコラム連載のほかデイリースポーツ新聞社特約記者も務める。2024年、46歳でホークス取材歴23年に。 また、毎年1月には数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。

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