新ムンク美術館の隣に、巨大な高齢の母親が出現!現地で「美しいか・不自然か」議論
ノルウェーでまた「美しいか、醜いか」議論が再燃している。
「醜い」と批判を浴びた新ムンク美術館のすぐ隣に、大きな女性の像が設置された。
次は、この女性が「美しいかどうか」で現地で議論となっている。
ノルウェーでは新しいムンク美術館、国立美術館などがオスロフィヨルド開発地区で次々とオープンしている。アート好きの観光客にとっては、オスロは今見逃せない場所だ。
巨大な母親に驚き
新ムンク美術館のすぐ側に立つこの作品は、とにかく巨大。
高さ9メートルで18.2トンの重さだ。
裸の女性は、『母』と名付けられた。
あまりも巨大な女性の像が新ムンク美術館の隣にある光景は、
- アンバランスで、
- 奇妙で、
- 小さい試作品だったら良く見えたかもしれないが、ここまで大きいとおかしい!
など、設置前から酷評を浴びていた。
実は新ムンク美術館も、当初のイラスト画とは完成した姿がちょっと(?)異なり、「醜い!」と酷評された。
だから、予想よりも醜く仕上がった美術館の隣に、さらに巨大な女性の像が立ち、「一体なんなんだ」と、余計に違和感を感じる人もいるようだ。
「公共アート、美しいか醜いか」議論が好きなノルウェー
ノルウェーの人は高い税金を払っていることもあり、「税金で買われている公共アートに一言モノ申す」のが好きだ。
しかもムンクとなると、この国の人のアイデンティティや誇りに関連してくるので、「ムンク美術館がどうあるべきか」、とにかく市民は熱くなる。
新ムンク美術館のことも『母』のことも、「美しいか、醜いか」「正しい税金の使い方か」と自分で考えて意見を言う。「みんなで批判する現象」を楽しんでいて、それもノルウェー流のアートの楽しみ方だ。
さて、『母』がとうとう新ムンク美術館の前に設置された瞬間は、駆け付けた人々が拍手で歓迎していた。
『母』は高齢の女性?
作品を手掛けたのは、イギリス人アーティストのトレイシー・エミンさん。
ノルウェーで批判を受けていることも彼女は知っている。
ムンク美術館での記者会見で、こう話した。
「『母』は高齢の女性のようにも見えます。
80~90歳の女性にも見えます。
作品は私自身のようにも見えます。
作品の中には私の母親もいます。
見ていると自分の母親が見えるといいな、と思っています。
私たちをこの世界に連れてきてくれた人が作品の中にいるのが、皆さんに見えるといいなと思っています。
今、世界がなによりも必要としているのは寛容な女性です」
「この母親が好きではないという方がいたら、
ご自身のお母さまを思ってください。
ご自身の妻を思ってください。
歳を重ね、衰えた時に、女性であるとはどういうことか考えてみてください。
私の『母』は、全ての人を歓迎し、ムンク美術館を守ってくれることでしょう」
「恐らく、作品がこれほどの規模の大きさで、
80歳以上の女性に見える作品でもあり、
しかも裸で、
女性によって作られている。
世界で初めてではないでしょうか。
わたしも80歳を超えたときには良い人生を迎えていたいものです。
それが私のインスピレーションでもありました」
ムンクのことは大好きで影響を受けてきたが、コンペティションに応募した時に選ばれるとは全く思っていなかったとも語る。
オスロ市のコンペティションに応募するからといって、いつもの自分らしさを捨てて、パブリックアートとして選ばれるために自分を変えるようなことは一切しなかったそうだ。
「誰かに『こうして』と頼まれても、私は自分を曲げたりはできません。
私のマインドは、だれか他の人のマインドではありませんから。
だからこそ、コンペティションで選ばれるとも思っていなかったんです。
オスロに『トレイシー過ぎるモノ』が出現することは、
望まれないだろうな、と思っていたので」
「この世界には男性の像が多すぎる」
「父親も作りますか?」という記者からの質問で会場は笑いに溢れた。
「この世界には至る所に男性がもう多すぎると思うの。
どこの広場に行っても、むっとした顔の高齢の男性像ばかり」
デンマークには小さい人魚姫、ノルウェーには大きな母?
「そうだ、空からも『母』が見えますよ。
まるで小さい人魚姫のようにね。
『私たちには大きな母親がいますよ。
あなたたちのところには小さな人魚姫がいますね』と
デンマークの人に今度から言えるのではないでしょうか」
『母』を見て、あなたは何を思いますか?
この記事を読んでいる皆さんの中にも、いずれオスロに観光にきて、新ムンク美術館に『叫び』を見に来る人がいるだろう。
『母』はその大きさ故、ムンク美術館に来る人なら絶対に目にすることになる作品だ。
「美しいか、醜いか」とノルウェーの人のように自分の世界に浸ってみたり、『母』を見て、自分・自分の母親・女性としての人生を思ったり、
この世界に女性による作品がまた一つ増えたなと、ジェンダー平等の観点で考えてみてもいいかもしれない。
いつかオスロに来る日、あなたはきっとこの『母』にも出合うだろう。