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最終盤を迎えた「桜を見る会」安倍首相“詰将棋”、「決定的な一手」は

郷原信郎郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
(写真:つのだよしお/アフロ)

先週金曜日の夕刻、安倍首相が、官邸での「ぶら下がり会見」で、

夕食会費用については、安倍事務所職員が一人5000円を集金してホテル名義の領収書を手交。集金した現金をその場でホテル側に渡すという形で、参加者からホテル側への支払いがなされた。

と説明したことについて、土曜日(11月16日)の記事【「桜を見る会」前夜祭 安倍首相の「説明」への疑問~「ホテル名義の領収書」の“謎”】で、

「ホテル名義の領収書」が渡されたのであれば、その領収書の額面の金額に見合う支払いが、安倍事務所職員からホテル側に前もって行われたはずだ。

と指摘した。

週明け月曜日の朝、安倍首相は、再び「ぶら下がり会見」に応じた。

(毎日)「国会対応は党に任せている」桜を見る会 改めて首相釈明、主なやりとり】によると、安倍首相は、「領収書」に関して、

桜を見る会の前日の夕食パーティーについて、安倍事務所も後援会にも、一切入金、出金はございません。領収書を発行していないし、領収書を受け取ってもいない。

と答えた。

そして、その後、この点に関して、以下のようなやり取りがあった。

記者 領収書のことだが。

首相 ちょっとすみません、時間がありませんので、最後の質問にしてもらえますか。

記者 安倍事務所の方が受付で領収書を渡していたとのことだが、ホテル側から領収書をもらうためには先に支払いをしないといけないという指摘がある。先にホテル側に支払ったということは一切ないのか。

首相 それはありません。

記者 総理、一つだけ。

首相 ちょっとすみません、これ最後にしていただけますか。

 「先にホテル側に支払ったということは」という記者の質問に対して、安倍首相は「それはありません」と答えたものの、それに続く質問を、「これ最後に」で打ち切った。

 そして、この「ぶら下がり」で、安倍首相が、夕食パーティーについて、「安倍事務所も後援会にも、一切入金、出金はございません。領収書を発行していないし、領収書を受け取ってもいない」と述べた点について、私は、昨日夜の記事【「ホテル主催夕食会」なら、安倍首相・事務所関係者の会費は支払われたのか】で、以下のような指摘を行った。

ホテル側が主催する立食の夕食会であれば、安倍首相夫妻や事務所関係者、来賓も、参加者の人数に含まれる。これらの人達も、すべて自分で夕食会費を支払ったのだろうか。もし、後援会が支払っているとすれば、その分、その「桜を見る会」前夜祭に関する安倍後援会側の「支出」が発生する。支払っていなければ、安倍首相や関係者は「無銭飲食」をしたことになる。

 昨日の「ぶら下がり会見」を打ち切る直前の質問については、改めて、「本当に、支払っていないのに『ホテル名義の領収書』を受領したのか。事務所に確認したのか」という質問を受けることになるだろう。もし、安倍事務所側が本当に支払っていないとすると、ホテルニューオータニは、「支払を受けないで領収書を前渡しした」という重大なコンプライアンス上の問題を抱えることになる。

 安倍首相は、夕食パーティーが「ホテル主催」であったかのような説明を続けるのだろうか。そうなると、「ホテル主催の夕食パーティーなら安倍首相や事務所関係者の支払はどうなったのか」との新たな疑問に、どう答えるのであろうか。前日の「安倍事務所も後援会にも、一切入金、出金はございません」という答えを撤回することなく、説明をすることが可能なのだろうか。

 

 加計学園問題では、(安倍首相への「忖度」で利益を受けたことが疑われた)安倍首相の親友の加計孝太郎氏が、「説明」から逃げ続けた。

 森友問題では、(安倍首相の意向を「忖度」した疑いがある)財務省が、「説明」の矢面に立たされ、自殺者まで出た。「忖度」される立場だった安倍首相は、直接の「説明」から逃げることができた。

 しかし、今回の「桜を見る会」の前夜祭パーティー問題は、安倍首相と、その後援会が直接の当事者である。安倍首相は、「説明」から逃げることができない。盤面の展開が殊の外早いのはそのためだ。

 官邸で「番記者」に囲まれて、慌ただしく都合の良いことだけを述べる、ということを繰り返してきた安倍首相だが、その表情には、徐々に「余裕のなさ」が目立ってきている。それは、この問題をめぐる「詰将棋」が、“最終盤”に差し掛かっていることを示しているようにも思える。

 安倍首相や後援会が、ニューオータニ側に「値引き」や「領収書前渡し」の便宜を図ってもらったことを強調し続けると、さらに「決定的な一手」となる質問が待ち構えている。

 それは、ホテルニューオータニが、安倍首相の職務権限による「何らかの見返り」を期待する関係にあったのではないか、ということだ。

 具体的には、次のような質問だ。

ホテルニューオータニに対して、「首相官邸や内閣府からの発注」は行われていないのか。

 

郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『歪んだ法に壊される日本』(KADOKAWA)『単純化という病』(朝日新書)『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

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