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幻惑させる音楽を生み続けるためのこだわりと矜持[北川とわインタヴュー]

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

​​“Morphine Desert -trio acoustic-”名義でアルバム『Tales of the Desert』を2022年12月にリリースした北川とわに、音楽制作へ取り組む姿勢、クラウドファンディングの使い勝手、プログレ・バンドへの参加など、気になる所業について根掘り葉掘り聞いてみました。

“デザート”じゃなくて“デゼルト”

アルバム『テイルズ・オブ・ザ・デザート』収録のようす(提供:北川とわ)
アルバム『テイルズ・オブ・ザ・デザート』収録のようす(提供:北川とわ)

富澤えいち

先日の“モルフィン・デザート”のアルバム・リリース記念ライヴ、拝見しました。非常に濃い内容で。

北川とわ

ありがとうございます。

富澤えいち

まず、“モルフィン・デザート”の紹介からしていただく、というのが順番的にはいいかなと思ったりするんですが。

北川とわ

そうですね。まずその前に、バンド名なんですけど、ちょっと不思議なバンド名で、“モルフィン・デゼルト”って読むんです、“デゼルト”。そうなんですよ、変な名前なんですけど、前にやっていたトリオ、エレキベースのトリオをやっていて、そのトリオが解散した後に、ウッドベースのピアノトリオで、私の独自の音楽を追求する、新たに始めたバンドが“モルフィン・デゼルト〜トリオ・アコースティック”になります。

富澤えいち

失礼しました。

もう2年……、3年目ぐらいになりますか?

北川とわ

いや、実はまだ1年半。

富澤えいち

1年半ですか。まだ2年経ってないんですね。

北川とわ

そうですね。

富澤えいち

“モルフィン・デゼルト”の話の前に、「トリオを解散して」という話が出たのでお聞きしたいんですけど、北川とわさんのなかで、 トリオの解散、自分のユニットの解散っていうのは、どういうきっかけでというか、タイミングみたいなのってあるのかな、と。

北川とわ

そうですね……、演奏内容がインタープレイとか、 テクニックとかの応酬みたいなことにどんどんなって、それで本来、自分は曲とか音楽の世界観とか、その楽曲のイメージしてるものとか、なんか、そういうものを見せていくような音楽を作りたかったんですけど、深めてったらどんどんインタープレイとかテクニックの応酬になってって、自分もそれはいいと思ってやっていたんですけど、ちょっと自分のやりたい方向性とずれてきたかなっていうのもあったのと、あと、岩瀬立飛さんに、前のバンドを解散する1年ぐらい前から「ウッドベースのピアノトリオをやってみないか」って言っていただいてて、「小美濃君とやってみない?」とも言っていただいていたんですね。それで、同じメンバーじゃなくて、一新して新しいメンバーでバンド始めようかなってふうに思った、という感じですね。

富澤えいち

誤解を招くような質問かもしれないんですが、あの立飛さんこそ、自由気まま、勝手に演奏するタイプのミュージシャンに見えるんですが……。つまり、とわさんの手に負えない方向に持っていっちゃう張本人のような人なのに、みたいなところが、スゴく違和感としてあったりしてるんですけど、その辺はご本人としてはどういうふうに感じているのかな、と。

北川とわ

なんだろう……。ミュージシャンが楽しむためのインタープレイと、リスナーがよりイマジネーションを広げられるような、音楽ありきのインタープレイの広げ方って、違うんじゃないかな、と。前のトリオもいまのトリオも自由という意味ではすごく自由なんですけれど、やっぱり「こういうふうに楽曲を聴いてもらいたい」というところはしっかり押さえたうえで、イメージを広げるためにインタープレイになってると思うので。

インタープレイを重視するジャンルの人って、やってること自体のおもしろさというか、演奏による会話のおもしろさを重視してるようなところがあると思うんですけど、私にはもともと描きたい物語があって、それが表現できたうえでのインタープレイはすごくいいと思うんですけど、ただ単にやってる本人たちが楽しいっていうインタープレイは、ちょっと……。私の音楽では違うのかなって。

富澤えいち

曲のテーマ性が置き去りにされちゃうインタープレイは、自分の名前のプロジェクトでやるのは違うということですね。

北川とわ

そうですね。それもあるし、あとは私のリスナーが、スゴいことをやれば喜ぶようなリスナーじゃなくて、演奏を聴いたときにイメージが思い浮かぶようなことを求めてるリスナーなので、そういう部分は大切にしたいということなんです。

『テイルズ・オブ・ザ・デザート』制作経緯

アルバム『テイルズ・オブ・ザ・デザート』チラシ(提供:北川とわ)
アルバム『テイルズ・オブ・ザ・デザート』チラシ(提供:北川とわ)

富澤えいち

で、“モルフィン・デゼルト”なんですが。

北川とわ

はい、“モルフィン・デゼルト”。

富澤えいち

“モルフィネの砂漠”という意味?

北川とわ

そうですね。

富澤えいち

これはどういう世界観なんでしょうか。

北川とわ

実はいま、新しい名前を募集してるんです。

最初、とにかくスゴい名前を付けようと思ったんですけど、自分では思い浮かばなかったので、応援していただいている方が「“モルフィン・デゼルト”ってかっこいいからよくない?」って提案してくれたんですよ。

私、意味も調べもせず、「かっこいい! じゃあ、それにしよう」って決めちゃったんですけど、ちょっと読みづらいし、呼びづらいので、なんか新しい名前があったら変えたいなって(笑)。

一応、自分のなかでは、ものスゴく変態的で、スゴい音楽をやってやろうみたいな気持ちがあって、だから、それに見合う変な名前がいいなと思っていて、“モルフィン・デゼルト”って言われたときに「すごい!」「変態でかっこいい!」って思ったんですけど……。

富澤えいち

じゃあ、バンド名は変わるかもしれない?

北川とわ

はい、募集中です(笑)。

富澤えいち

“モルフィン・デゼルト”でアルバムを作った経緯は?

北川とわ

今年(2022年)、“モルフィン・デゼルト”で関西ツアーを組んでいたんですけど、1ヵ所中止になってしまって、それで、関西で1日、ポコッと予定が空いてしまったんですね。

以前から関西のエンジニアの五島昭彦さんとか信頼している方が何人かいて、その方々と作品を作りたいっていう気持ちがあったので、そのツアーの、1日ポコって空いちゃったときに、「じゃあ、その日にレコーディングしたいな」ということで……。

富澤えいち

そうだったんですね。

北川とわ

はい、そういう感じですね。でも、1日だけだと録り切れなかったから、もう1日、かながわアートホールを確保して、関西から五島さんを呼んでもう1日、収録しました。

富澤えいち

今回もクラウドファンディングを?

北川とわ

あ、そうですね、クラウドファンディングでやってます。

富澤えいち

使い勝手はどうですか? 収支がどうだったのかというのではなくて、ミュージシャンにとって作品を作るうえで、クラウドファンディングの使い勝手について、当事者としてはどういうふうに感じられているかをうかがいたくて。

北川とわ

そうですね……、私は普段から、音楽以外の方、実業家とかそういう方の本とかYouTubeとかをけっこう読んだり見たりしているんですけれど、作ったものの売上で次のものを作ろうって思うと、 売れなかったら次のもの作れないじゃないですか。

富澤えいち

進まなくなりますね。

北川とわ

でも、次のために売れるものを作ろうとすると、本当に自分が作りたいものじゃなくなってしまう。

私は“売れるもの”じゃなくて、“自分が作りたいもの”を作るアーティストになりたいので、だったらもう、前作の売上で次の作品を作るのはやめよう、と。

富澤えいち

なるほど。

北川とわ

CDの売上で儲けを出すのって、けっこうたいへんなことなんですよね。1枚2,800円で、何千枚売れば次の予算に達するのか、みたいな。そうじゃなくて、CD制作の過程でマネタイズできる方法があることを学んで、それでクラウドファンディングを選んでいる、ということなんです。

だから、クラウドファンディングをただお金を集めるだけの方法だとは考えてなくて、どうすれば作品制作に結びつくかを自分のなかで考えながらやっていってるんです。

おかげさまでクラウドファンディングはうまくいってて、本当に自分が心から作りたいものが作れて、応援してくれるリスナーはリスナーで、CDを作る過程も一緒に楽しんでもらえるという、お互いの関係もビジネス的にもうまく回っているんじゃないかと思います。

うまくいかないという声も聞いていますが、それはおそらく、クラウドファンディングを“お金集め”だと思ってやってるからなんじゃないですかね。

富澤えいち

プロセス・エコノミーの視点が欠けているということですね。とわさんにとって、創作活動とリンクさせることによって、より自分の世界観を伝えやすくなるっていう効果も実感できている、と?

北川とわ

そうですね。それに、いまの世の中って、ただ作品を見るよりも、その人やその作品ができる物語を知ることによって、より、その作品が楽しめるっていうところが大きくなっているんじゃないかなって。

それもあって、こういうやり方にしているというところですね。

富澤えいち

クリエイターのなかには、制作過程を見せたくない人と、過程も含めて自分の作品だという人の2種類いるのかなっていう気もしますけども、そういう意味では、クラファンを含めてとわさんの作品への向かい方っていうのは、表現方法ととてもマッチしてるということなんですね?

北川とわ

そうですね。

トリオのための作曲術

アルバム『テイルズ・オブ・ザ・デザート』収録のようす(提供:北川とわ)
アルバム『テイルズ・オブ・ザ・デザート』収録のようす(提供:北川とわ)

富澤えいち

では、アルバム『テイルズ・オブ・ザ・デザート』についておうかがいしたいと思います。収録曲は、“モルフィン・デゼルト”のために書いた曲なんですか?

北川とわ

そうです。全曲、このトリオのために作った新曲になります。

富澤えいち

曲調って、バンドの編成とか参加ミュージシャンに影響されたりするものなんですか? つまり、前のトリオとはやっぱり違う曲ができたなっていう感触があるのかな、と。

北川とわ

“モルフィン・デゼルト”のための曲という意味では、よりクラシカルな方向性になったというか、ウッドベースが入ることによって弓の表現もできるので、現代音楽的というかクラシック的なサウンドの曲が出てきているかなって自分でも思っています。

富澤えいち

どの程度書き込んでるんですか、譜面は?

北川とわ

ピアノのテーマは書いて、ピアノとユニゾンしてほしい、ちょっと独特なリフとかは、「ベースとユニゾン」って書いてあるんですけど……。で、もちろんドラムについてはまったく何も書いてません。

私の曲は基本的に複雑な曲ばかりなんですけれど、メロディの右手はぜんぶ書いてあって、インプロのところはコードが書いてあって、それとユニゾンしてるところ以外は何も書いてないですね。

富澤えいち

ほぼほぼ、じゃあ、いわゆるジャズで言うメロ譜、メロディ譜?

北川とわ

あ、そうですね、

富澤えいち

それであれだけユニゾれるというのが……。

北川とわ

あ、ユニゾンのフレーズは書いてありますよ。

富澤えいち

いや、「書いてある」とさらっとおっしゃいますが、超難易度のメロディをユニゾンでやるってのは、かなりメンバーにも負担が大きいのかな、と(笑)。

バンドの音楽性を見抜いたゲスト

2022年11月25日の溝口恵美子が参加したライヴのもよう(東京・渋谷:公園通りクラシックス、写真提供:北川とわ)
2022年11月25日の溝口恵美子が参加したライヴのもよう(東京・渋谷:公園通りクラシックス、写真提供:北川とわ)

富澤えいち

今回のアルバムは溝口恵美子さんをゲストに迎えていますが、ボクが観た11月25日のライヴのときにおっしゃってましたけど、アルバムには後録りで入ってるんですよね?

北川とわ

そうなんです、ヴォーカルだけはバンドとは別に後で収録しています。スケジュールのこととかもあったんですけれど、でも、それだけじゃなくて、溝口さんの考えで。

さすがだなぁ、スゴいなぁと思ったんですけど、“モルフィン・デゼルト”の音楽はジャズのようなインタープレイじゃないからって。モルフィン・デゼルトがめざしている音楽性や世界観に寄り添いたいっていう溝口さんの考えを伝えていただきました。

ヴォーカルが入ってスキャットを始めると、どうしてもほかのみんながそれに反応してインタープレイを始めちゃうから、それってとわさんの思ってる音楽性となんか離れちゃうんじゃないかって言ってくださった。楽曲はシンプルじゃないんですけど、シンプルに私の世界観を見せていきたいから、その意味でも一緒に録らない方がいいと思うって。それを初めに言ってくれたから、スゴい人だなと思いましたね。

富澤えいち

うん、わかってらっしゃる。

じゃあ、溝口さんのパートは譜面には書いてないんですか?

北川とわ

はい、溝口さんのパート、書いてないですね。なのにやっぱりスゴくて、ちょっと曲を聴いただけでイメージしてくださったんですよ。完全にインプロでやっていただいてます。もう、ワンテイクでオッケーという感じでした。

富澤えいち

こういうとなんか、ジャズを聴いてるオヤジっぽいんですけど、溝口さんのヴォイスがはいるとリターン・トゥ・フォーエバーのフローラ・プリムを想起させたというか……。そうなると、チック・コリアの変拍子の系譜のなかに、とわさんも組み込まれている部分があったりするのかなと(笑)。

北川とわ

おお、嬉しいです。そんなことを言っていただけるなんて。

富澤えいち

生声を入れようというアイデアはどこから?

北川とわ

えっと……、実はこれも、私、けっこうビビッときて衝動的に動くところがあって、溝口さんってとんでもない、スゴい人っていうのを思ってたんですよ。だから、この人が参加してくれて、なんかスゴいこと起こるんじゃないかみたいな感じで、お願いしよう、と。

富澤えいち

“曲ありき”“アルバムありき”というよりは、“人ありき”みたいな?

北川とわ

あ、そうですね、溝口さんじゃなかったらヴォーカルは入れなかったですね。

富澤えいち

音楽の構造的には、リフレインを活用していたりする点で、ミニマル・ミュージックやヒーリング系と言われているジョージ・ウィンストンやポール・ウィンターとかに近いのかなと思ったりしました。まぁ、こういうのは、外野でボクらみたいなのが勝手に言って勝手に思って勝手に騒いでいればいいことなんですけれど。

北川とわ

そうですね……、なんか、特にそういう影響を受けたというのはないですけど……。強いて言えば、そのやっぱリゲティとかスティーヴ・ライヒとか、ミニマル・ミュージックについては、クラシック系の現代音楽が好きなので、影響という意味ではそちらかもしれないですね。

アコアス参加の真相と所感

富澤えいち

アコースティック・アストゥーリアスのお話をうかがえますか?

北川とわ

はい、どうぞ。

富澤えいち

どのような経緯で参加することになったんですか?

北川とわ

発端は、新型コロナで中止になっちゃったライヴだったんですけれど、アストゥーリアス・グループのなかのひとつのバンドと対バンする企画があって、面識がなかったから大山曜さんに挨拶しておこうと思って、Facebookのメッセンジャーでメッセージを送ったんですよ。そうしたらその返信に「アコースティック・アストゥーリアスのピアノやりませんか」って。それでスタジオで音出しをすることになったんですが、そのときに演奏する曲が送られてきて、実際に演奏してみたら、すごく好きな音楽だったし、それにスタジオに集まってみんなで演奏してみたら、人間的にも音楽的にもすごくいいメンバーだなと思ったので、「ぜひやらせてください!」ってメンバーになりました。

アコースティック・アストゥーリアス オフィシャルサイト

https://asturias754.wixsite.com/acoas

富澤えいち

メンバーになるって、ちょっといままでの活動とは、テイストが違うんじゃないかと思うんですけど、その辺はどうお感じになってますか?

北川とわ

そうですね……。各方面から「こういう人と演奏しませんか」というお誘いはあるんですけれど、自分としては、自分をブランディングしてるというか、自分の見せ方とか、あと、自分のやること、やらないことを決めてるので、そういう意味では“やらない”ことだったんですけれど、でも、大山さんの楽曲や音楽の方向性があまりにも素晴らしくて、あまりにも自分の琴線に触れるというか……。それがやっぱり大きかったかもしれないですね。自分が心からすごく好きで、「ぜひこの音楽を演奏してみたい!」っていう音楽だったので、共演について自分がいろいろと考えていた部分を超えて、「えいっ!」と、やらせていただきたい、という気持ちになったという感じですね。

富澤えいち

アコースティック・アストゥーリアスに参加することによって、“北川とわ”はアコースティック・アストゥーリアスにハマるというか、染まるんですか? それとも、そこに“北川とわの個性”をぶち込んで、混ぜ込んでいこうと思っているのか、についてはどうですか。

北川とわ

それについては、2つありますね。大山さんのデモを聴きながら、私だったらもっとこんな感じに表現できるかなってところもあるし、だからといって、自分の思ったことだけをやると、世界観が崩れちゃうところもあるので。なので、よくある話になっちゃうんですけど、自分の持ち味も出しつつも、やっぱりいちばん大切にしたいのは、その音楽で描こうとしてる世界観とかカラーだと思うので、そこを大切にしつつ、自分の良さも出していけたらなと思っています。

富澤えいち

北川とわさんのアコースティック・アストゥーリアスへの参加はファンにとってもビッグなニュースだったと思いますが、一方ではまたまたとわさんの音楽を“プログレ”に押し込めてしまうバイアスにもなっちゃうんじゃないかと心配しています。そのへんのヘンなレッテルが貼られないように、なにか良いキーワードみたいなものを見つけるのがボクのようなライターの仕事だと思っているのですが……。

北川とわ

確かに……、自分の活動もプログレのようだと言われたり、やっぱプログレじゃないって言われたりしてます。でも、ジャズの方面へもっていくとジャズじゃないって言われるんですよね。で、クラシックへもっていってもクラシックじゃないから(笑)。

富澤えいち

自分では、それは別に大した問題じゃないと思ってらっしゃる?

北川とわ

そうですね。私、世の中の人がすごく怒ったり討論したりしてても、「そんなのどうでもいいじゃん」って思うことが多くて……。聴いてくれた人が自由にいろんなこと思ってくれるのって、それはそれで素晴らしいことだし、嬉しいなって思うので。

富澤えいち

伝わってないことで、悲しかったり怒ったりすることってあります?

北川とわ

伝わってないと思うことがあまりないですね。でも、結局、こっちがスゴいこだわりをもってやってることでも、相手がわかんなくて当たり前だと思うんですよ。ただ、わからないからってスゴいこだわりをもって伝えようとすることをサボっちゃったら、結局は聴いてもらったときに感動できるものが生まれないと思っているんです。だから、最後の最後までこだわって、それはもう誰にもわからないぐらいの、誰も気づかないぐらいのレベルだけど、そこにこだわることによって感動するものってできると思うので、そういう意味で、ぜんぜん相手に気づかれなくてもいいと思っている、っていうところはありますね。

富澤えいち

100ぐらい仕掛けを作ったんだけど、誰も気付かないから、もう仕掛けを作るのはやめたり、もっとわかりやすいものにしたりするんじゃなくって、1つでも気が付いてくれればいい、と?

北川とわ

仕掛けに気付いてもらうというよりは、全体を見たときに、「なんかいい気がする」でいいのかな、と。それって、多分、その100の仕掛けがあるおかげで、パッと聴いたときに、なんかすごくおもしろいっていうものができるんだと思ってるので。

作り手側が、これは素晴らしいんだからとか、受け手のレベルが低いとか、これはホンモノなのにわからないのかとか言って、怒ったり主張したりすることもあるようですけれど、私は人それぞれ、好きなアーティストとか、音楽とか、物語を好きに楽しめば良いと思うんですよ。これはホンモノじゃないからダメだとか、これは優れてないからダメだとか、こっちのほうが優れてるのに、なんでこっちを評価しないんだとかってみんなが喧嘩しだすから、なんかおかしな状態になるのかなと思って。

別にB級の焼きそばだって、すごい上質な焼きそばじゃないのはすぐわかるけど、「美味しい!」とかあるじゃないですか(笑)。

だから、それぞれが好きなことを好きに楽しめばいいのになぁ、って思うだけなんですよね。

モルフィン・デゼルト・ツアーのチラシ(提供:北川とわ)
モルフィン・デゼルト・ツアーのチラシ(提供:北川とわ)

北川とわ

北川とわ(写真提供:北川とわ)
北川とわ(写真提供:北川とわ)

コンポーザー、ピアニスト。

国立音楽大学卒業、桐朋学園大学研究科作曲専攻修了。在学中より、ストリングス、オーケストラアレンジの仕事を始め、TVドラマ収録、レコーディングに多数参加。

2015年から自身の音楽性を追求するために“プログレッシヴ・ジャズ・ピアノ・トリオ”Trussonicを始動。毎年全国でライヴツアーを展開し、5枚のアルバムをリリース。2018年の2nd album収録曲「Biorhythm」はInternational Songwriting Competitionで1万曲以上の応募曲のなかからファイナリストに選ばれる。2021年3月にTrussonicは活動終了。2021年4月から自身初のアコースティック・プロジェクトMorphine Desert (モルフィン・デゼルト)-trio acoustic- を始動。全国でライヴ活動を展開し高い評価を得る。2022年8月に実施したクラウドファンディングによるCD制作は多くのファンからの熱い支持を得て大成功となり、同年12月にファン待望の1st album『Tales of the Desert』を全国リリース。

公式ホームページ:https://www.kitagawatowa.com/

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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