「高尾」より遠い茨城県の「つくば」で、大規模マンションが次々に完売している不思議
首都圏の場合、都心への通勤可能な場所となると、「東京駅からの路線距離でだいたい60キロメートルまで」が限界だろう。JR中央線の高尾駅で約53キロメートル、JR東海道線の茅ケ崎駅で約58キロメートル、「借りて住みたい街」で脚光を浴びる小田急小田原線の本厚木駅が約55キロメートルだ。
いずれも東京駅から路線距離で60キロメートル以内なのだが、乗り換えなしの直通ならまだしも、乗り換え込みでは「遠すぎる」とマイホーム購入を断念する人が多くなる場所でもある。
ところが、それよりも遠く、東京駅から乗り換え込みで60キロメートルの場所なのに、新築の大規模分譲マンションが次々に早期完売している場所があるのをご存じだろうか。
それは、つくばエクスプレスのつくば駅周辺。埼玉県でも千葉県でもなく、茨城県の街である。
200戸以上の大規模マンションが次々に完売
今年3月、「TUKUBA TERRACE(つくばテラス)」というマンションが完売した。総戸数は320戸。昨年夏に建物が完成していたため、完成後半年で完売となる。東京駅から60キロメートル、全320戸の大規模であることを考えれば、「好調に売れたマンション」となる。
それ以前、2021年には「レ・ジェイドつくばStation Front」が発売開始からわずか5カ月で完売した。こちらも全218戸の大規模マンションである。
いずれも、つくば駅から歩いて5分以内という便利な場所で、歩行者専用のペデストリアンデッキ(空中廊下)」で駅まで安全に行き来できるし、その途中に商業エリアが広がるなど、好条件を備える。
ということは、「好条件で、価格が安かったから売れた?」と思う人も多いだろう。つくばエクスプレスで都内から埼玉県や千葉県を抜け、茨城県に入って終点のつくば駅。都心から遠く離れているし、茨城県なので、新築マンションも安いはず。だから、人気物件が続出しているのだ、と。
たしかに、つくば駅周辺では「価格の安さ」をセールスポイントにしたマンションがいくつも販売された時期があった。
ところが、近年、売れ行き好調の大規模マンションは価格の安さをウリにしているわけではない。
「TUKUBA TERRACE(つくばテラス)」の場合、5000万円前後の3LDKが多くなり、4LDKは6000万円台から9000万円台という設定。2年前に販売された「レ・ジェイドつくばStation Front」も3LDKが5000万円台で、4LDKは6000万円台が中心となっていた。
決して安くないし、都心からの距離や茨城県アドレスであることを考えれば、むしろ高いのでは、と思える金額なのである。そのため、不動産業界では「なぜ、つくばで?」と、首をかしげる人が多くなっている。
より広く、高規格の建物を求める人が多い地域特性
つくば駅周辺には、独自の地域特性がある。
それは、国家的プロジェクトとして開発された筑波研究学園都市の中心エリアであるということ。先進の街づくりが行われている場所であり、住民には学者や研究者が多い。
その子供たちが集まるためか、公立小中学校の評価が高い。そして、つくばエクスプレスの運行速度が速いため、都心からの距離は離れているが、所要時間は短い。つくば駅から秋葉原駅まで快速で45分となり、つくば駅は始発駅であるため、座って通勤も可能になる。
以上の長所に加えて、これまでは価格が安いことを前面に押し出して、新築マンションの販売が行われてきた。
これに対し、近年、つくば駅周辺で販売される新築マンションは、広くて建物の質が高いことを打ち出している。
「TSUKUBA TERRACE」の場合、建物はタイル張り部分が多く、全戸分用意されている駐車場はすべて平置き。そして2LDK〜4LDKの住戸は約66平米から約113平米もあり、平均専有面積は74平米だった。
「レ・ジェイドつくばStation Front」は建物に免震構造を採用。こちらも住戸が広く、全218戸のうち58戸が専有面積100平米以上の大型住戸になっていた。
価格の安さをウリにしていた時代、つくば駅周辺にこのような大型住戸をそろえたマンションはなかった。
つまり、質が高く、ゆったりしたマンションが増えたことで、購入者が増えたという側面があるわけだ。
大型住戸が好まれるのは、つくばの特性かもしれない。
というのも、筑波研究学園都市には全国から学者、研究者が転勤で集まってくるのだが、用意される官舎や社宅が十分に広く、住み心地がよい。そこに住み慣れた人たちが分譲マンションを買うときも、十分な広さ、つくりのよさを求める。それに応える新築マンションが増えたので、人気物件が続出している、と考えられる。
つくば駅周辺は高品位なマンションが集まる場所になりつつある。