コロナ後のクラシック音楽とコンサートの役割「オスロの音」が日本へ
もはや誰もマスクをしていないオスロの街。コロナの規制がなくなったノルウェーでは、文化業界が大いに盛り上がっている。ここ数か月の間で取材する音楽祭や映画祭はどこも人で溢れ、家にこもっていた時間を取り戻すかのように、市民は文化を楽しんでいる。音楽や映画は家でも堪能できるが、人々は「だれかと一緒に文化を体験する」時間を今とても大切にしている。
先日、筆者はオスロ・コンサートホールでノルウェー最大のオーケストラ「オスロ・フィルハーモニー管弦楽団」の演奏を聴いていた。平日の昼ということもあり、会場は高齢者で満席だ。オスロ・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者クラウス・マケラさんは、2020年秋に24歳でオスロ・フィル史上最年少の首席指揮者となった。
2020~2021年にかけては、SNSに大規模な投資を行い、コンサートをデジタル視聴できるようにした。2019年のベートーヴェンの交響曲第9番(マケラ指揮)の演奏はYouTubeので再生回数が530万回を超えている。
楽団はオスロ・コンサートホールを本拠地としており、オーケストラへの関心は非常に高く、ここ半年で観客動員数は88%に達している。生で音楽体験ができる今、コンサートが私たちに与える影響について専務取締役代理であるCamilla Klevanに聞いてみた。
「パンデミック直後は観客をコンサートに呼び戻すことが難しいと感じていましたが、今では観客が戻ってきており、以前よりも多様で若い観客が見られるようになりました。パンデミックは『共に出会い、共に何かを聴くことは、とても特別で大切』なのだということを思い出させてくれたのでしょう」
「自分のためだけにデザインされた仮想現実に浸ることが多くなった『分断された時代』において、コンサートは全く異なるものを象徴しています。『感情と想像力を静かに探求する場所』です。コンサートホールはまた、『世代を超えた真の出会いの場』でもあります。実際、文化的な場は、私たちが耳と目で、多くの人と共に素晴らしい瞬間を体験できる数少ない場所のひとつです」
「クラシック音楽を聴くとき、私たちはその瞬間を通して、過去と未来をつなぎます。オーケストラ・コンサートほど、『生きた歴史』というコンセプトが的確に表現される場所はないでしょう。私たちは『現在の耳』を通して『過去』を体験するのです」
クラシックのオーケストラ・コンサートは、「携帯電話の電源を切る」数少ない共同空間であり、素晴らしい瞬間を共有するコミュニティが創造される場だと答えた。
「オスロの音」が日本で響く
オスロ・フィルハーモニー管弦楽団はこれから日本ツアーを開始予定だが、彼らはどのような点でユニークなのだろうか?
「オスロ・フィルハーモニー管弦楽団は、『オスロの音』と呼ぶ独特の響きを持つことで知られています。ノルウェーの文化に特徴づけられるのか、オーケストラの一体感や協調性がとてもよく感じらるでしょう。日本では、日本人ピアニストの辻井伸行さんとツアーを行います。辻井さんは以前私たちとソリストとして共演したことがあり、私たちにとって重要なパートナーです」
文化行事を取材することが多い筆者だが、最近はどこに行っても満席で、市民がいかに「文化体験に飢えていたのか」ということに本当に驚いている。主催者たちも「まさか完売になるとは思わなかった」という現象が様々な業界で起きているのだ。普段はデジタル空間に釘付けになりやすい現代だからこそ、スマホの電源を切り、「別のことに集中する」文化空間はこれからより必要とされるのかもしれない。
日本ツアーは10月18日から日本各地を巡り、10月26日の熊本公演を最後に韓国、台湾へ渡る予定だ。