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「ゴミ風船」の「ソウル上空飛来」がなぜ脅威なのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
韓国大統領室の上空に飛んできた北朝鮮のゴミ(出展:韓国のTV「ニュース1」から)

 北朝鮮が7月24日に韓国に向け飛ばした「ゴミ風船」500個のうち480個が軍事境界線を越え、韓国エリアに落下し、ソウルにも多数飛来してきた。

 確認されただけでも龍山の大統領室の境内、国会議事堂、国防部、駐韓米軍基地の敷地に風船が、ビラが落下した。これまでにも大統領室近くに落ちたことはあるが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の執務室がある境内は初めてのことである。

 北朝鮮が約1か月前の6月25日に飛ばした「ゴミ風船」は約250個で、そのうち韓国側に落下したのは半分以下の約100個だった。この時に比べると、10回目となる今回の「ゴミ風船」の韓国内落下率がいかに高いがわかる。

 韓国軍が分析した結果、これまでとは違って風船にタイマーと起爆装置が付着されていたようだ。一定の時間になれば、風船が炸裂し、ゴミが散布されるような仕組みになっている。

 韓国軍は「観測装備を通じてリアルタイムで監視、備えている」としているが、今のところ、手の打ちようがないのが実情である。

 大統領室を中心とする半径3.7キロメートルは飛行禁止区域である。いかなる飛行物体もこの区域内を飛行してはならない。ホワイトハウス同様に飛行禁止区域に接近すれば、即座に自動的に迎撃されることになっている。

 しかし、「汚物風船」や「ゴミ風船」には対処のしようがない。落下する前に上空で打ち落としても同じことであり、むしろ被害がより大きくなる可能性が高いため韓国軍としては落下した後に回収するしかいない。

 不幸中の幸いといえば、風船の中には紙切れとビニールだけで危害を与える物質が含まれてなかったことだ。仮に化学兵器であるサリンや炭疽菌などが含まれていれば、大変なことになる。

 確か、北朝鮮が2022年12月26日に5年ぶりに無人機5機を飛ばし、韓国の領空を侵犯したことで韓国が大騒ぎとなったことがあった。何と、5機のうち1機は仁川、ソウルなどの上空を平然と飛行し、北朝鮮に戻って行ったからだ。韓国軍は無人機を打ち落とそうと、戦闘機や攻撃ヘリコプターを投入し、機関砲を100発以上発砲したものの結局は1機も撃墜できず、取り逃がしてしまった。

 この話にはオチがあって追撃のため原州基地から飛び立った韓国空軍のKA1軽攻撃機が墜落事故を起こし、翌27日にはレーダーに映った鳥の群れを無人機と誤認し、慌てて戦闘機や軍用ヘリを発進させ、さらに28日未明には風船を無人機と勘違いし、空軍が仁川及び京畿道の北方周辺に戦闘機を緊急出撃させる失態を演じる始末だった。

 ソウル上空に出没した無人機は3時間にわたって飛来し、大統領室のある龍山を撮影し、北朝鮮に戻ったことから韓国の防空網に穴が空いているとマスメディアが騒いだことを今でも覚えている。というのも当時、韓国紙「文化日報」(2022年12月28日付)に「北朝鮮の無人機による生物・化学テロ・・・17キログラムの炭疽菌でソウル市民の半分が死傷」との恐ろしい見出しの記事が載っていたからだ。

 記事の中で引用された国策研究機関「韓国国防研究院(KIDA)」の報告書(「EMP(核電磁波)防護施設早期構築案に関する研究」)は「北朝鮮の無人機が17キログラムの炭疽菌をソウル(600平方キロメートル)に噴霧した場合、ソウルの人口(約940万人)の半分に殺傷効果がある」と指摘していた。

 報告書はまた「商業用無人機の標準的な搭載重量は約10キログラムで、炭疽菌などの生物兵器は数十グラムもしくは数百グラムで広範囲にわたって被害を引き起こす可能性があるため無人機による散布に適している」と分析していた。 

 北朝鮮は今なお化学兵器禁止条約を締結していないが、韓国政府は北朝鮮が「神経剤」「血液剤」「びらん剤」「窒息剤」など1000トンから最大で5000トンの化学兵器を保管しているとみている。

 今から約3年前の2021年10月に与党「国民の力」康大世(カン・デセ)議員は陸軍本部への国政監査で「北朝鮮がすでに開発しているドローンを使って炭疽菌で同時攻撃した場合、それに対する防御するシステムがない。(韓国が)北朝鮮の生物攻撃に対して無防備であることが判明した」と、当時の文在寅(ムン・ジェイン)政権の安保不感症を問題視していた。

 そして、今度は無人機ではなく、「風船」への無防備である。

 韓国軍内には北朝鮮の「ゴミ風船」を完全に封じ込めるには軍事境界線を越える前に打ち落とすか、風船を飛ばしている原点(拠点)を叩くなど「強力な措置」を求める声が高まっている。

 国防委員会の委員でもある与党「国民の力」の成一鐘(ソン・イルチョン)議員も「国民日報」とのインタビューで「我々は黄海道にあるゴミ風船の拠点13カ所をすでに把握している。我が軍はいつでも攻撃することができる」と、北朝鮮が止めなければ武力行使も辞さないと、北朝鮮を威嚇していた。

 しかし、北朝鮮に向け発砲すれば、また北朝鮮内に砲弾を撃ち込めば、それは即交戦、戦争に発展するだけに選択肢としては現実的ではない。休戦協定に基づいて存在している国連軍司令部も休戦協定違反となる銃撃、砲撃を容認することはないであろう。

 明日7月27日は休戦協定71周年の日である。今後も休戦状態が維持されるのか、それとも開戦となるのかは偏に韓国軍の忍耐にかかっているようだ。

(参考資料:韓国で速報!北朝鮮の「ゴミ風船」が飛来! 北朝鮮のアキレス腱である対北拡声器放送をしても止まらない!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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