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勝負の年。東京五輪招致成功のシナリオは。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

2020年東京五輪パラリンピック招致委員会は4日、東京都庁で仕事始めを行った。「一枚岩、一丸となって、この招致を成功させなければなりません。オールジャパン体制で勝ちにいく」。そんな水野正人専務理事の力強いあいさつを聞きながら、さて東京の招致成功のポイントを考えた。

東京のライバルはイスタンブール(トルコ)とマドリード(スペイン)である。イスタンブールは国民の強い開催支持や政府の支援、著しい経済成長をウリにし、国際大会の実績をかなり積み上げてきている。隣国シリアの内戦の長期化がマイナス要因だが、ネガティブな報道が少ないのはよほどメディア対応がうまいのだろう。

またトルコは同じ年に開催するサッカーのヨーロッパ選手権にも立候補しているが、今のところ、イスタンブールの五輪招致にとって決定的なマイナス材料とはなっていない。やはり「イスラム圏初の五輪開催地」という大義はインパクトが大きい。

マドリードは競技施設や国際大会開催実績を強みとしている。スペイン国内の経済不況で大会開催の財政面を危惧する声が大きいが、国際オリンピック委員会(IOC)のサマランチ前会長(故人)のIOC委員との根強い人脈がまだ残っているようだ。スペインの王室外交は強力なため、ここも侮ることはできない。

つまりは東京にとっては、今回も厳しい招致レースとなる。来週、東京はスイスのIOC本部に立候補ファイルを提出する。これは14項目の質問に答えたもので、とくに昨年5月の第一次選考で指摘されたエネルギー面、「震災」や「電力供給」「放射線」などの不安をどう払しょくさせるかがポイントとなる。

「これは大丈夫」と水野専務理事は言う。「懸念される地震、津波であろうと、電力供給、放射線の問題であろうと、しっかり説明できるようになっています。東京の都市力は世界に誇るものです」

申請ファイルを提出した後、猪瀬直樹都知事がロンドンで海外メディア向けの記者会見を開く予定。まずは新知事がデータを示しながら、どう地震絡みの悪いイメージを払しょくできるかが焦点となる。東京の運営能力、計画、財政は問題ない。解禁される国際プロモーション活動でも、どう東京の「安定感」をアピールしていくかだろう。

東京の課題は、国内が五輪開催支持率アップで、海外ではIOC委員の取り込みである。IOC支持率調査も重要だが、3月のIOC評価委員会による東京の現地調査が流れを左右することになる。綿密な準備は当然として、評価委員会メンバーのリサーチから、海外メディアの対応も大事だろう。前回招致時の反省から、招致委側は結束してチーム力と熱意を見せることも必要だ。

肝心のIOC委員へのロビー活動では、2度目ゆえ、前回よりもIOCとの関係は密になるとみる。とくに竹田恒和IOC委員(日本オリンピック委員会会長)が仲間のIOC委員のふところにどう入っていくのかが勝利の最大のポイントとなる。

問題は基礎票としてアジア票をどう固めるか。猪瀬知事の誕生は、中国との関係修復のためにはプラスである。中国のIOC委員を仲間に引き込めば、香港や朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、アフリカ諸国のIOC委員にも好影響を与えることになる。

いずれにしても、立候補ファイルが公表されて、3月のIOC評価委員会の現地視察で流れが生まれ、5月のスポーツアコード会議から7月の評価委員会レポート公表やプレゼンテーションでほぼ潮流が決まるだろう。

開催都市は9月7日にアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれるIOC総会で決定する。現時点ではイスタンブールと東京の争いになるだろうとの見方が多いが、あと8カ月、まだ何が起こるかわからない。東京としては早めに震災絡みのマイナス要因を減らし、招致成功へのうねりをつくりたい。IOC委員を「安定志向」に傾かすことができれば、東京の勝機が膨らむことになる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2024年パリ大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。酒と平和をこよなく愛する人道主義者。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『まっちゃん部長ワクワク日記』(論創社)ほか『荒ぶるタックルマンの青春ノート』『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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