コロナ禍の最大被害者「中間管理職」は4つの十字架を背負っている ~大リストラ時代をどう生き抜くか?
■逃げるようにして辞めた中間管理職
「このたび一身上の都合により今月末で退社することになりました。本日が最終出社日です」
また連絡があった。大手商社の課長からのメールだ。年齢は42歳。年収は軽く1500万を超えるだろう。再就職先は決まっていないと聞いた。他人事だが、今後について心配になる。
2019年、好業績でも人員削減(リストラ)に着手する企業が次々とあらわれた。いわゆる「黒字リストラ」である。2020年は、ご存じのとおり業績不振による「赤字リストラ」が急増している。もちろん原因はコロナだ。しかし、先述した「黒字リストラ」も目立たないが着々と進められている。
大手商社を退職した、この課長もその一人だ。会社が40歳以上の管理職を対象にした希望退職者を募った。そしてその課長は迷わず手を挙げた。
「20代、30代、家庭を犠牲にしても頑張れたのは、課長になれば少しはラクになると思ったからです」
「しかし働き方改革で、私たち中間管理職にものすごいしわ寄せが来た。もう無理です。コロナが決定打でした」
なぜ早期退職を希望したのか。働き方改革とコロナ禍で疲れ切っていたからだ。
■「召使い人生?」の中間管理職
中間管理職が消耗している。その理由は、働き方改革であることは間違いない。
年間5000名以上の中間管理職を対象にセミナーや講演を続けている私は、彼ら彼女らの考え方、価値観の変遷が手にとるようにわかる。働き方改革に対し、公然と不満を口にする中間管理職は多い。
「過去のやり方を変えたくない」
という古い気質の人もいるが、それより多いのは、
「我々の仕事が増えるばかりだ。それにこんな制約ばかりでは、若い人も育たない」
という声である。働き方改革が組織の新たな問題を顕在化させていると嘆く声だ。
昨今、強い態度で部下に接することをご法度とする「風潮」が横行している。これはあくまでも「風潮」であり、若者たちがそれを望んでいるかどうかは別の話だが、しかしこれは紛れもない事実である。
「躾のつもりで言っているのに、すぐパワハラだ! と指摘される」
「ちょっと強めに指導したら、3日後に辞めていた。そのせいで社長から減給処分を言い渡された」
この「風潮」のおかげで、ここ何年もの間、中間管理職が強い態度をとることができないでいる。
ここで昨今注目されているリーダーシップ哲学を紹介しよう。「サーバントリーダーシップ」である。「サーバント」とは「召使い」という意味で、サーバントリーダーシップとは、部下に対して召使いのように奉仕し、相手をリードするというリーダーのあり方を指す。
わからないでもないが、40代、50代の中間管理職には残酷な発想だ。自分が20代のころは上司の召使いのように働かされてきた。「やりがい」だの「働きがい」だのと口にしたら、
「俺の言うことが聞けないのか!」
「つべこべ言わずにやればいいんだよ」
と激しく叱責された。
そんな世代が、いざ上の立場になったとたん、今度は部下たちのサーバント(召使い)になれと世間が言う。
これでは「召使い人生」ではないか。私が、彼ら彼女らの心の声を代弁したら、
「やってられるか!」
ではなかろうか。
■中間管理職を取り巻く4つの制約
現在、中間管理職を取り巻く環境は残酷だ。
まず先述した「風潮」のおかげで、
1)態度の制約
がある。「いいからやれ」「つべこべ言うな」と部下に指示できた時代はラクだった。しかし、部下の「やりがい」「働きがい」をアップできるような態度をとれ、コミュニケーションスキルを磨けというが、いくらなんでも、そう簡単に身につけられるものではない。
心掛けでできると思っているのだろうか。ヒドイ会社になると、
「中間管理職は全員コーチングの技術を身につけよ」
などと指図する。しかし、これは、
「部下とのコミュニケーションはすべて英語にしろ」
と言われるよりもキツイ。プロの視点から書かせていただくが、1年や2年、コーチングを習ったぐらいで、その技術でもって人を誘導できるようになるほど簡単ではない。
簡単に身につかない、そんなコーチング技術だからこそ、本物のコーチの力は偉大なのだ。
次に、
2)時間の制約
がある。働き方改革関連法により「時間外労働の上限規制」「有給休暇義務化」が施行された。
遵守しなければ罰則があるため、強制的に労働時間が減った。
さらに、
3)人の制約
も無視できない。人口縮小社会に入った日本では、慢性的な「人材難」だ。労働時間が短くなり、従業員も減れば、企業における総労働時間がぐっと減ることになる。
それでも業務量が減らなければ、誰にしわ寄せが来るのか?
部下を育てる時間もなければ、育てる部下も足りない。そうであれば、中間管理職が代わりにやるしかない。
■在宅勤務の部下をどうケアするか?
コロナ禍において、さらに残酷な問題が発生した。
4)移動の制約
である。
在宅勤務する部下を直接気に掛けることができなくなった。物理的距離のみならず、心理的距離も離れた。
それでも組織の「心理的安全性」を高めよと会社側から言われれば、
「どうすればいいんだよ!」
と叫びたくなる中間管理職も多いだろう。
不測の事態に対応するためには、当然余裕がなければ無理。心も体も壊れてしまう。
しかし働き方改革によって中間管理職にしわ寄せが来ている以上、
「コロナ対策を徹底しろ」
「在宅勤務の部下をうまいことケアしろ」
「DX(デジタルトランスフォーメーション)を使いこなせ」
と言われても、
「できるか!」
と言い返したくなる。冒頭に紹介した課長のように、バーンアウトする前に早期退職したくなる人も増えるはずだ。
■「嫌われる勇気」を持て
私は現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。もちろん世の中の多くの中間管理職はもっと努力したほうがいい。しかし会社も世間も、中間管理職に頼りすぎている点は自覚したほうがいいだろう。
そのほうが若者は覚醒し、主体性をもって仕事に励むはずだ。中間管理職の犠牲のもとに成り立つ企業など、永続しない。
私はもっと中間管理職はドライになったほうがいいと思っている。大ベストセラー『嫌われる勇気』に書いてあるとおり、「課題の分離」を心掛けるのだ。
「ここまでは私の課題だ。その課題解決のために一所懸命にやる。しかし、ここからは部下の課題であるし、会社の課題だ。これ以上はムリ。私の責任ではない」
会社や部下に嫌われる覚悟で、自分の職務をまっとうするのである。それで部下が変わらなければ、もうしょうがないと割り切る。そうしないと、自分自身の市場価値が下がり、いざ40歳を過ぎて転職する際に、どこにも通用しない人材に成り下がっている可能性がある。
それでは、あまりに寂しい仕事人生だ。まもなく到来する大リストラ時代に備えてほしい。