進むレジ袋有料化!「ケーキ箱や焼き菓子を入れる袋は?」~苦悩する菓子店
CO2削減を目指し、レジ袋有料化・マイバッグ持参推奨の動きが進む
2020年4月1日より、「マツモトキヨシ」「トモズ」「ココカラファイン」「ウエルシア薬局」など大手ドラッグストアチェーンがレジ袋を有料化する。「ウエルシア薬局」が属する「イオン」グループも、4月1日よりグループ店食料品売場でのレジ袋を有料化し、同グループのコンビニ「ミニストップ」でも無料配布中止の実験導入を進める。「ファミリーマート」では、2020年2月以降、現在使用しているプラスチック製レジ袋をバイオマス原料30%配合品に切り替え、2020年7月より有料化に踏み切ると発表。検討を進めていた「セブン-イレブン」「ローソン」も、同様の方針を決めた。
このように今、社会全体がプラスチックごみの減少を目指し、動き始めている。となると、スイーツ業界はどうだろうか?「お菓子屋さんで、ケーキ箱や焼き菓子を入れる袋はどうなる?」という疑問をもって、1961年に設立した和洋菓子のパッケージ・包材メーカー「株式会社 東光」(東京都品川区)のエコプロジェクト室室長・大森雅裕氏に、菓子業界の事情を伺った。
最近、メディアでも取り上げられているとおり、プラスチックごみの流出による海洋汚染や生態環境の破壊、ごみ焼却で発生するCO2増加による地球温暖化などを食い止めるべく、プラスチックの過剰な使用を抑えることが急務となっている。プラスチック製買物袋有料化の最大の目的もそこにある。
経済産業省によると、2020年7月1日から持ち手のついたプラスチック製の買物袋全てが有料化の対象となり、和洋菓子店などの食品小売業も含め、「消費者に1円以上で販売すること」がルールとなる。
これに対しスイーツ業界からは、「お菓子は贈答利用が多く、袋も含めて商品の一部と考えられているので、今から有料にはしにくい」という声が多く聞かれる。また、そもそもプラスチック袋はあまり利用しておらず、紙袋を主に使用しているという店も多い。
実は、例外として、以下のように環境性能が認められ、その旨の表示があるプラスチック袋であれば、7月以降も無料で提供してよいことになっている。
■プラスチックのフィルムの厚さが50マイクロメートル以上のもの。(繰り返し使用が可能であることから、プラスチック製買物袋の過剰な使用抑制に寄与するため)
■海洋生分解性プラスチックの配合率が100%のもの。(微生物によって海洋で分解されるプラスチック製買物袋は、海洋プラスチックごみ問題対策に寄与するため)
■バイオマス素材の配合率が25%以上のもの。(植物由来がCO2総量を変えない素材であり、地球温暖化対策に寄与するため)
なぜ、バイオマス素材配合のプラスチックがCO2総量を変えず、地球温暖化対策に寄与すると言われているのかについては、少し話が複雑になるため、最後に触れたい。
上に挙げた条件に当てはまり、無料提供可能なプラスチック袋であっても、事業者の判断で有料にしても構わない。大森氏は、「50マイクロメートル以上の厚みのものや、バイオマス素材25%以上配合の袋に切り替えた場合、仕入れ価格が1.2~1.5倍ほどになるはず」という。店が差額を自己負担してお客様に無料提供し続けるかどうかは、店主にとって悩ましい問題だ。
買物袋をどうするか? 菓子店オーナー達の悩み
今、菓子店で使われているプラスチック袋は、店のロゴなどを印刷してカスタマイズし、50マイクロメートル以上の厚みがあるものも多い。しかし、7月以降もそのまま使えるわけではなく、「この袋は厚さ50マイクロメートル以上であり、繰り返し使用することが推奨されています」といった文言、または記号が表示されている袋に切り替えなくてはならない。
私も最近、何人かの菓子店オーナーや商品開発者などにヒアリングしているが、これまでの包材の在庫がある間はギリギリまで使いたいけれど、7月には間に合うよう、タイミングを見計らって文言入りの袋に切り替えなくてはと意識しているという。しかし、袋を切り替えるには印刷の版代もかかり、悩ましいという声も聞こえてくる。
「株式会社 東光」でも、「営業担当者などに向けて、『エコ』に関する勉強会を開催していますし、菓子店オーナー様向けに、プラスチック買物袋の対応問題をわかりやすくまとめた資料をお渡ししています」と大森氏。
2019年10月に消費税が10%に変わった時も、菓子店の負担は増えた。
「食品は軽減税率の対象だから8%のままでは?」と思うかもしれないが、お客様向けには消費税8%でお菓子を販売するが、そのために使う箱や袋、リボン、ケーキに添える保冷材などは10%の新税率適用価格で仕入れているのだ。しかし、「包材にかかる費用が上がったのでお菓子を値上げします」という説明は消費者の理解を得にくいと考える経営者は多く、負担増加分を抱え込んでいる店が大多数である。
そもそも日本の菓子店の包装の丁寧さは世界トップレベルであり、フランスでケーキを買っても、保冷材が添えられたり、箱の中でぶつかり合わないよう保護用の紙で巻かれたり、動かないようテープで留められたりといったことはまず無い。自己責任の文化が徹底しているため、仮に帰宅してケーキがとけていてもひっくり返っていても、それで店にクレームを言う客もおらず、もし言ったとしても相手にされないだろう。
今、東京23区内の菓子店だと、1個500-600円程度で販売されるケーキが多くなっているが、パリは同程度の工程で作られるケーキが6-7ユーロ、日本円で700-800円相当で販売されているのが一般的である。さらに日本では、ほとんどの場合、この価格に諸々の包材費用も込みになっているのだ。
そんな日本の菓子業界にとってますます頭の痛い、包材切り替えの課題が目の前に迫る。
「有料にするならば、社会全体が動くこのタイミングがベストではないかとも思うが、正直、迷っている」と語る菓子店が少なくない。
さらにお客様から、「プラスチック袋が有料なら紙袋にして」、あるいは「プラスチックは環境によくないから紙袋がいいわ」と言われたら? 大森氏によれば、「紙袋の仕入れ価格は、プラスチック袋の2-3倍程度になるのが一般的」だという。今後、菓子店での買物袋の提供方針は、どうなるのだろうか?
近年、オリジナルの保冷バッグやエコバッグを販売する菓子店が増えている。周年記念などの顧客サービスの一環で、限定版バッグをサービスするような例もあり、販促グッズにもなり得ている。これならば使い続けてもらうことができ、ごみを減らすこともできるうえに、持ち歩いてもらえば店の宣伝にも繋がり、一石二鳥だ。
私の意見を述べれば、菓子業界においても、地球環境への配慮と共に、自らの経済的負担を減らすためにも、「これからはぜひ、マイバッグをお持ちください」と推奨してほしいと願う。
そして出来れば、袋や保冷材等の各種包材も、少しずつ有料にシフトしていけるのが望ましいと考えている。バイオマスプラスチック製の袋であっても、製造するために様々なエネルギーを必要とするなど、地球環境に全く負荷をかけない訳ではない。可能な限り減らすことが望ましいのである。それは紙袋についても同様で、今後は、紙袋も2枚目以降は有料といった、一定のルールが必要だろう。
ただ、「皆が一斉にやってくれると、やりやすいんですけどね・・」と本音を漏らすオーナー達の声はもっともである。どの業界でも、最初に踏み出すのは難しく、同業者の様子をうかがっているところが大多数だろう。
高島屋でもバイオマスプラスチックレジ袋の有料提供がスタート
このような状況の中、百貨店の「高島屋」もまた、2020年4月よりプラスチック製買物袋と紙製食料品用手提袋の素材を環境に配慮したものに変更し、かつ有料化する。
主に食料品売場や催事会場で提供しているレジ袋は、植物由来の原料を90%配合したバイオマスプラスチック製に変更。紙製の食料品用手提袋は、森林の環境保全や地域社会との良好な関係構築、継続可能な生産性などに配慮した木材に与えられる「FSC(R)」(Forest Stewardship Council森林管理協議会)認証を得た素材製に切り替える。同時に、エコバッグの利用の呼びかけを強化し、手持ちの買物袋へ商品をまとめてもらうなど、環境に配慮したライフスタイルの提案を推進していくという。
「高島屋」の広報担当者によると、「レジ袋は主にデイリーユースの生鮮売場や惣菜、酒売場での利用が主体で、各ブランドがほぼ自社製の袋を使用している菓子売場には、比較的、影響は少ないのでは・・」とのことだったが、このような小さな一歩の積み重ねが、多くの人を動かす力に繋がることに期待したい。
百貨店は流通業界の中でも、特に顧客サービスを重視する。簡易包装推奨の意識も少しずつ浸透する一方、ギフト品であれば、尋ねられるまでもなく「お渡し用の袋」としてわざわざ別に袋を入れてくれたり、購入した商品の数だけ「小分け袋」をサービスしてくれたりといった風習が健在である。
そんな百貨店業界の中で、先駆けて、買物袋有料化の方針を打ち出したことは、評価に値する。他の百貨店や小売業への影響はもちろん、百貨店と取引のある菓子メーカーにとっても、一つの後押しとなるだろう。
もう一度、プラスチック製レジ袋有料化の目的に立ち返ろう。「有料化するか無料のままにするか」という問題ではなく、「不要なごみを減らす」ことが目的である。有料化は、それを促進するための一つの手段に過ぎない。
まず、購入する私達の側が、マイバッグを持ち歩き、自家用ならば袋は不要だと断る意識が大切だ。
2020年4月、そして7月は大きなターニングポイントとなり、変えるチャンスでもあるのだ。流通側、店側にも、勇気をもってその一歩を踏み出してほしい。
バイオマスプラスチックの可能性と、今後必要な「3R」の考え方とは?
最後になるが、バイオマスプラスチックが今後の地球温暖化対策に有効と考えられている理由を、おおまかに説明しておきたい。
植物由来の原料を配合したバイオマスプラスチックには、幾つかの製法があり、たとえば、とうもろこし・さとうきびなどデンプン含有量の多い植物を原料に、糖化、乳酸発酵を経て生成される「ポリ乳酸」や、木材・綿などのセルロース(繊維)から生成される「酢酸セルロース」などがある。
従来のプラスチックの主原料である石油も、数億年程前の植物から生まれた化石資源だが、ごみとして焼却されると、太古から蓄えられてきたCO2が放出され、地球全体のCO2濃度を上げると見なされる。
一方、バイオマスプラスチックを焼却した場合、その原料であった植物は、現在進行形で、大気中の炭酸ガスを光合成により吸収してきたので、二酸化炭素に戻っても地球温暖化の原因と言わる大気中の温室効果ガスの濃度上昇を来たすことがないと見なされるというのだ。これが「カーボンニュートラル」と言われる考え方だ。
環境への配慮という点では、「グリーンプラスチック」と呼ばれる生分解性プラスチックも研究されてはいるが、分解条件が難しく、100%自然に還ると簡単には言えない課題を抱えている。
また、日本では、リユース、リサイクルされる以外のプラスチックごみは、ほとんどが焼却処分されている現実があり、環境省が2019年5月31日に発表した「プラスチック資源循環戦略」では、2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入することを目標に掲げている。
今の時代に、プラスチック製品をゼロにするということは困難だが、1人1人が、「3R」=「Reduse リデュース(減らす)、Reuse リユース(繰り返し使う)、Recycle リサイクル(資源として再利用する)」の考え方を意識しつつ、使い方を見直さなくてはならない。
そして、バイオマスプラスチック製だろうと紙製だろうと、ごみとして捨てられれば焼却され、多かれ少なかれCO2が発生することも、考える必要がある。未来に向けて、より適正な素材を使い、本当に必要な包材を選んでいくことが必要である。