米国で「脅威」とされるTikTokは本当に危険なアプリ?いずれ使用禁止に?アメリカで起こっていること
「国家安全保障上の脅威」としてアメリカで懸念が高まり、一部で利用制限が進んでいる中国発の動画投稿アプリ、TikTok(ティックトック)。
下院で今月13日、同アプリの米国内での利用を禁止できる法案が可決され、さらに議論が深まっている。
TikTokは今後アメリカで本当に禁止になるのか?
この法案は中国・北京に拠点を置く親会社バイトダンスに対し、6ヵ月以内に米政府が満足する買い手にTikTokを売却しなければ、米国内での利用をできなくするというもの。今後、法案が上院を通過し大統領が署名すれば「成立」するが、上院でも可決するかなど先行きは不透明だ。実際のところ、バイデン大統領は署名する意向を示した一方で、チャック・シューマー院内総務はこの法案を採決に持ち込むかどうかについての明言を避けている。万が一上院でもこの法案が可決されても、TikTokは「米国事業の売却を検討する前に法的権利を行使する」と発表。米メディアでは「この法案は上院で困難な道を歩むことになる」(ニューヨークタイムズ)や「長い闘いになるだろう」(USAトゥデイ)などという見られ方が一般的だ。
TikTok締め付けの背景
中国政府が同アプリを利用して米国民のデータにアクセスしたり偽情報キャンペーンを展開したりする可能性があるとし、TikTokのCEO(最高経営責任者)、周受資(Shou Zi Chew)氏が米下院の公聴会で議員に厳しく追及されたのは昨年3月。あれから1年が経った今でも、このアプリが「国家安全保障上のリスク」をアメリカにもたらすものだとする脅威は払拭されておらず、懸念はさらに高まっている。
ニューヨークタイムズやCNNによると、米国内にいるTikTokユーザーは1億7000万人にも上る。日本のユーザー数は1,630万人とされていて、日本の数と比較しても圧倒的な数だ。そしてこの脅威とは、中国共産党がこの1億7000万人もの個人情報を利用する恐れがあるということだ。
しかしながら、そもそもTikTokが今後売却を命ぜられることになった場合でも、実際に買収できる企業は「ほぼない」と見られている。あるとしても、買収の余裕がある企業といえばマイクロソフト、グーグル、メタ(フェイスブックやインスタグラムの運営元)などのGAFA、一部のビッグテックくらいだろう。
しかしここにも障壁がある。バイデン政権は反トラスト法(独占禁止法)を利用し、こうした企業のさらなる巨大化を阻止しているのだから。
また国家安全保障上の脅威がこの法案可決の理由にあるのだとしても、「国内のSNSユーザーのデジタルデータの保護に心底取り組むのであれば、TikTokだけを標的に禁止するのは実に閉塞的なやり方」(CNN)との指摘もある。
TikTokのこうした締め付けの背景として、今年の大統領選挙が大いに関連していそうだ。中国系の巨大アプリへ強硬姿勢を見せることで「選挙がある年に一部の中国タカ派の有権者から政治的ポイントを獲得できる可能性がある」(CNN)。よって議員らは選挙の年にTikTokへの注力を倍増させているというのだ。
実に興味深いのは、トランプ前大統領のTikTokに対する姿勢だ。2020年にトランプ氏は大統領令でTikTokを禁止しようと試みたが、裁判所によって阻まれた。 以来トランプ氏はTikTokに対する立場を逆転させ、今回は驚くことにこのTikTok規制法案に反対する立場を取っている。
TikTokについても「分断」
アメリカでは近年、行政府関連のオフィスや大学のキャンパスなど、少なくとも33の州でTikTokの使用が何らかの形で制限されるようになった。 実際に筆者が住むニューヨークでも、セキュリティ上の懸念から昨年8月16日より市が所有するデバイスからTikTokへのアクセスが禁じられている。
ただ今回可決した法案を含め、強化されるTikTokへの規制については国内でも意見が分かれるところ。言論の自由を唱える団体は、禁止によって表現が抑制されることを懸念し、この法案に反発する姿勢を取っている。
AP通信とシカゴ大学広報研究センター(NORC)による最新の世論調査では、TikTokの全米規模での禁止に対して成人の31%が賛成したのに対して、35%が反対したことがわかった。TikTokのデイリーユーザーの間で反発は特に強く、73%が反対すると答えたとし、ここでも「アメリカの分断」(USAトゥデイ)が指摘された。
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(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止