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Z世代の最強アプリTikTok 米国での意外な使われ方と排除について現地ユーザーの声

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ティックトック(イメージ)(写真:ロイター/アフロ)

中国発の動画投稿アプリ、TikTok(ティックトック)。2017年に国外進出して以来アメリカはもとより世界中の若者の間で人気が爆発し、押しも押されもせぬ大人気アプリに急成長した。しかしこのような中国アプリの排除に向け、トランプ大統領が強行姿勢を見せている。

トランプ氏は、中国政府へのユーザー情報流出の懸念を理由に、親会社ByteDance(バイトダンス)に対し、9月15日までに米国事業を売却しなければ国内での利用を禁止するとした*大統領令を発表し、圧力をかけている。

マイクロソフト、ツイッター、オラクルが買収に意欲を見せていると報じられており、大統領も米政府が売却益の一部を得られるなら支持する意向で、今後の動静に注目が集まっている。

  • *8月6日に発令した大統領令は2つ。TikTokのほかに中国発のメッセージアプリ、WeChat(ウィーチャット)も含まれる。

まずアメリカでは、どのような人が使っているか紹介する。

アメリカに住む筆者の周りでヒアリングをしたところ、もっとも若いユーザー(閲覧中心)は友人の10歳と6歳になる兄妹だった(親の監視のもとに利用)。

新しいアプリ好きなソフトウェア開発者の友人(40代前半)にも聞いてみたところ、「セキュリティの理由と、とても‘若そう’だから」という理由で使っていないという返答だった。筆者もたまに楽しげな動画がツイッターに流れてきたら観るくらいで、アプリはインストールしたことがない。

メインユーザーとされるティーンネイジャーにも聞いてみた。「アップされた動画を毎日チェックしている」(15歳)、「好きなセレブの動画はInstagramにも同じものが上がるので、TikTokは使っていない」(19歳)など、Z世代でも利用状況はさまざまだ。

しかし統計上では、アメリカは世界でもっともTikTokユーザーがいる国の上位に入っており、特にZ世代&ミレニアル世代には絶大な人気を誇っている。

米国内、最新利用状況ファクト

米ダウンロード数は世界3番目

  • 世界155ヵ国に進出(2019年)
  • 世界中の月間アクティブユーザー 8億人
  • 世界中のユーザーの41%が16~24歳(2019年)
  • これまでダウンロードされた数 20億ダウンロード以上
  • もっともダウンロード回数が多い国  インド(6億1100万回)、中国(中国版TikTokのDouyin...1億9660万回)、米国(1億6500万回)(2020年)
  • App Storeでダウンロードされた数は3300万人でYouTube、Instagram、Facebookより多い(2019年第1四半期)
  • 米国の大人ユーザーも、18ヵ月以内で5.5倍に急増 260万人(2017年第4四半期の開始時)→ 1430万人(2019年3月)

出典:Oberlo(Shopifyの子会社)

米国内ユーザーの多くがミレニアル&Z世代

米国内のユーザーの3分の1以上はティーンネイジャーで、年齢が高くなるにつれ使用者も減る傾向。年代の内訳は以下の通り。

  • 32.5% 10代
  • 29.5% 20代
  • 16.4% 30代
  • 13.9% 40代
  • 7.1%  50代以上

出典:Statista(調査データプラットフォーム)

米ティックトッカーは排除の動きについてどう考える?

では、アメリカの利用者(ティックトッカー)に、TikTokのユニークな使い方や政府による排除の動きについてどう思うか聞いてみた。

公立高校で体育の教師をしている知人(40代)は、新型コロナウイルスによってオンライン授業に移行後、TikTokをなんと授業の一環に取り入れた。「フィットネスの動画を随時撮ってTikTokにアップし、生徒とシェアしています」。その動画を真似て動画でリプライしてきた生徒には、タスク完了の評価をつけているそうだ。

TikTokを導入した理由について、「YouTubeでも良いのですが、高校生が相手ですからTikTokの方が生徒も興味を持って取り組んでくれるのです」と話す。

政府による排除の動きについては「もし国内で使用禁止になったとしてもYouTubeを使うだろうから、あまり困ることにはなりません」。

ソーシャルワーカーをしている別の知人(25歳)は、ティックトッカーになって1年半。毎日少なくとも2時間ほど暇つぶしで観る。TikTokを通してできた友人もいる。たまに自分も動画をアップするが、誰かの動画を観る方が多い。お気に入りの動画にはコメントを残すようにしている。

TikTokの魅力について「TikTokを通して世界が広がった」と語る。「動画で流れてくるアフリカやアジアなど世界の人々は、自分と違う洋服を着て、違う音楽やダンスを楽しんでいる。歴史も紹介してくれる。また障害者も彼らの目線で動画を発信し、そこから学ぶことも多い。さまざまな異文化を観るのがとても楽しみ」。

排除の動きに関しては「利用禁止がリアルに起こるとは信じがたいが、万が一禁止されてもVPNを通して使い続けていきます」と言う。

トランプ氏の思惑については「中国潰しの一環だと言われているけど、自分はそうではないと思います。そもそもTikTokって、政治的な広告がない数少ないソーシャルメディアの1つなんです。ユーザーの多くは若い層、つまり投票者の多くを占めています。しかしその若い層はTikTokで革新的な声を上げ続けています。トランプにとって彼らは手に負えないから、今のうちに手を打っておきたいのでしょう」。

オクラホマ州タルサで今年6月に行われたトランプ氏の選挙集会で、TikTokが反トランプ運動として利用された例がある。TikTokユーザーが選挙集会のチケットを予約することでトランプサポーターの多くの参加を妨害したのだ。

ほかにもTikTokユーザーの間では、警察が平和的なデモ参加者に対して振るった暴力を暴いたり、人々に切手の購入を促しUSPS(米国郵政公社)の廃業を防ごうとする動きも活発だ。

「TikTokにはほかのアプリでは実現できないようなユニークなコミュニティがあり、このようなことがいとも簡単にできるので、トランプは忌み嫌っているのでしょう」。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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