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「時間のない島」PRがストレス社会と偽ニュース時代に炎上した理由 ノルウェー

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
「時間がない島があったらいいな」という期待は、想像以上に大きかったのかもしれない(写真:アフロ)

北欧ノルウェーでは、6月に北極圏の島が「時間のない島」として、世界で初めて名乗りを上げました。国内外では大きなニュースに。

しかし、全ては観光客を呼ぶためのPRでした。

詳細「世界初!時計のない島」はPRだった ノルウェー」

簡単にまとめるとこうです。

  • 島民が「時間に左右されない島」になりたいと、国会議員に申請書を提出
  • 世界初の「時間のない島」、「時計のない島」、「タイムフリー・ゾーン」となるか?と、国際的に話題に
  • 3週間後、全ては観光客を北部に呼ぶための演出、PRだったことが判明
  • PRの裏にいたのが国の機関イノベーション・ノルウェーだった

謝罪の嵐「ごめんなさい」

  • ノルウェー首相が「今のような世界情勢で、報道機関であれ、イノベーション・ノルウェーであれ、フェイクニュースを拡散させるべきではない」と苦言
  • PRだったことを事前に知っていた産業省。同機関には「早く人々にPRだと知らせるように」とは求めていたが、特に厳しい指導はしていなかった
  • 「もっとうまく対応するべきだった。国の組織からの情報は、信頼できるものであるべき」とイーサクセン産業大臣は謝罪
  • イノベーション・ノルウェーのハウグリ代表も、「同社のPRだと、最初から隠さず公開すべきだった」と謝罪
  • 偽情報のチェックをする専門機関や各報道機関からは、「恥を知れ」と叱責の言葉が相次ぐ

問題

イノベーション・ノルウェーのような存在は、日本には見当たらない。産業省直下の特別な機関だ。

税金を使って、国の産業を国外へと輸出する橋渡しの役割をもつ。起業をする人なら、同社から助成金をもらいたいとも思う。ノルウェー観光局(Visit Norway)も同社が指揮する。大学生の希望就職先として人気で、大きな権力をもつ

今回のキャンペーンに使った資金は50万ノルウェークローネ(630万円)ともされる

立場が違う人は、「税金を使って、世界中に偽情報を広めた。報道記者や人々をだました」とも捉える

ノルウェーでは、各メディアがPRだったと一斉に報じました。しかし、国外ではまだ真実を知らずにいる人もいるでしょう。

「なぜ自分たちのメディアでは、PR・嘘を見破れずに報じてしまったか」。各社は説明に追われています。

CNN「Norway's 'time-free zone' was a publicity stunt」

キャンペーン関係者は、今回の件を「フェイクニュース」だとは思っていないでしょう。

しかし、「フェイクニュース」だと言い切っている人がいるのも事実です。

現時点で争点となっているポイントを2点まとめます。

報道機関のチェックが甘かった?

国内外の記者の「一次情報の確認が足りなかったのでは」という指摘が外部からでる中、記者たちも自己批判・反省をしています。

揺らぐ「信頼」の伝統、偽情報対策に泥をぬる

日本が競争社会であるなら、北欧は「平等」の精神で成り立つ社会。つまり、相手を信頼する・情報の透明性を大事にしています。

今回は、まさかのイノベーション・ノルウェーという権力機関。メディアへの信頼性を揺らがせる原因を、国の機関が作ってしまいました。

「信頼の構築」と「フェイクニュース対策」がずっと議論されてきた中。関係者の努力が台無しとなったのです。

今回ノルウェーの記者の顔がどれほど青ざめたか。ニュースを発信する側の人は、想像がつくのではないでしょうか。

全国紙では子ども新聞でも大特集してしまい、今後は敬意の説明がされる予定です。

「時間のない島」があってほしいと、どこかで私たちは思っていた

私はふと思いました。

今回、なぜ多くの人々や報道機関の判断力は、くもったのでしょう?

どこかで、「そういう場所があって欲しい」と、熱望していたのではないでしょうか。

現代人の忙しい生活の中で、時間の制約やストレスから逃れたい。

島の自然と海が広がる、リラックスした癒し写真でニュースは溢れていました。

それはまさに、ストレスを感じている人が逃げたい、夢の国。

「時計を気にしないでいられる場所」が、ほんとうにあったらいいな……。

信じたかったけど、やっぱり違った。

ただの広告だった。

うそだった。

裏切られた。

がっかり。

そして、私たちを待っているのは、現実。

いつもの、ストレスに追われる日常。

希望や薬が欲しかった。現代人はそれほど疲れているから、「ウソのような、夢の島」は、瞬く間に拡散したのではないでしょうか。

「時間がない観光地」は、未来には本当にあるのかもしれません。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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