稲葉陽八段、三間飛車からさばいて勝利 伊藤匠新叡王、戴冠後の初白星はならず 将棋日本シリーズ1回戦
6月29日。宮城県仙台市・夢メッセみやぎにおいて、第45回将棋日本シリーズ・JTプロ公式戦▲伊藤匠叡王(21歳)-△稲葉陽八段(35歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。
16時3分に始まった対局は17時48分に終局。結果は144手で稲葉八段の勝ちとなりました。稲葉八段は2回戦に進出。8月3日、永瀬拓矢九段と対戦します。
稲葉八段、A級棋士の底力を示す
両者は過去に3回対戦して稲葉1勝のあと、伊藤2勝。昨年度は竜王戦本戦準決勝という大きなところで当たり、伊藤七段(当時)が勝って竜王挑戦へとつなげています。
今年6月20日の叡王戦五番勝負第5局。藤井聡太叡王(当時八冠)を相手に勝利をあげ、3勝2敗でシリーズを制し、初タイトルを獲得した伊藤新叡王。本局はタイトルホルダーとして最初の一局となります。日本シリーズの出場もまた初めてです。
伊藤「日本シリーズは、本当に子どもの頃から憧れていた舞台ですので、出場は非常に楽しみにしておりました。稲葉八段は非常に早見えの将棋で、気づきづらい好手をよく指されるという印象を持っております。本当にたくさんの方に見ていただけるということで、見ている方の参考になる将棋を指せればと思っております」
稲葉八段は本棋戦4回目の出場。2022年には1回戦、2回戦を勝ち、準決勝で藤井現七冠に敗れはしましたが、ベスト4に進んだ実績もあります。
稲葉「(今期日本シリーズが)本当にいよいよ始まるんだなというところで緊張感が高まってきているところなんですけど。一局でも多く指せるようにがんばりたいかなというところですね。(伊藤叡王は)もともと実力はすごい評価されている若手棋士ではあったんですけど。つい最近、やっぱり叡王を取られて。本当に改めて、非常に充実されている棋士だなという印象があります。相手が伊藤叡王ということで、本当に大変な相手なんですけど。自分の力を出し切って、いい将棋を指せるようにがんばりたいと思います」
現在の将棋界の序列は、1位は藤井七冠。2位は伊藤叡王。伊藤叡王は今後ほとんどの対局に、上位者として臨むことになります。
対局開始前、伊藤叡王が駒箱を手にして、盤上に駒をひらきます。本棋戦で使われるのは一字駒。伊藤叡王は上位者が持つ「王」の駒を所定の位置に据えました。稲葉八段は「玉」を置き、以下、順に駒を並べていきます。
振り駒の結果、伊藤叡王が先手。最近、振り飛車をよく指すようになった稲葉八段は本局、後手で三間飛車を選びました。
対して伊藤叡王は15手目、早くも歩を突っかけて動いていきます。
25手目、次の一手予想クイズ出題のため、伊藤叡王の次の一手が封じられました。休憩のあと、再開。伊藤叡王は飛車を成り込みました。
伊藤「本局はかなり早い段階から激しい展開になったんですけど。飛車を成り込んで少し指しやすいかとは思ったんですけど」
稲葉「早い段階から、全然考えてない将棋になったので。それで封じ手のあたりは少し自信ないかなという感じではあったんですけど」
伊藤叡王の仕掛けは成功していました。しかし稲葉八段がそこから地力を発揮し、振り飛車らしく、きれいに駒をさばいていきます。
伊藤「(飛車を成った)そのあと、方針を間違えてしまって。途中からはちょっと駒損になってしまって、苦しい展開になってしまったかなと思います」
稲葉八段が少しリードしながらも、伊藤叡王も粘り強く指し、息の長い中盤戦が続きました。
終盤に入ると、稲葉八段が突き放してはっきり優位に。馬を切って金と刺し違え、すっきりと決めにいったのが最速の寄せでした。
伊藤玉は最後、中段五段目まで追われます。144手目、稲葉八段は盤上中央に飛車を打ち、これで即詰み。伊藤叡王が投了して、熱戦にピリオドが打たれました。
稲葉「(封じ手の)そのあと、うまく駒がさばけていって。少しよくなったかな、というところから、伊藤さんの粘りでかなり難しい将棋だったんですけど。なんとか勝ててよかったかなというとこですね」
今年度成績は、稲葉八段は初勝利をあげて1勝2敗に。
伊藤叡王は7勝7敗となりました。