焦る米政府 中国ファーウェイの半導体躍進、背景に米国製の技術
中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)とそのパートナーである半導体受託生産大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)が昨年中国で製造した先端半導体には、米国の技術が使われていることが分かった。米ブルームバーグ通信や英ロイター通信がこのほど報じた。
SMIC、米アプライド・マテリアルズなどの技術を使用
SMICは、米国の半導体製造装置大手であるアプライド・マテリアルズ(Applied Materials)とラムリサーチ(Lam Research)の技術を使用し、ファーウェイ向けに回路線幅7ナノメートル(nm)の半導体を製造した。
米政府は先端半導体に関して中国向けの輸出を制限しているが、SMICはこの規制が導入される2022年10月より前に装置を入手していたという。
これまでに報じられていなかった今回の情報は、中国が先端半導体の製造に必要な装置や部品をまだ完全に国産化できていないことを示している、とブルームバーグ通信は報じている。
旧式装置で高度半導体を製造
米政府による輸出規制を受けているファーウェイは23年、5G(第5世代移動通信システム)への接続機能と、7nm技術の半導体を搭載したスマートフォン「Mate 60 Pro」を発売した。この半導体は、SMICが製造したとみられている。
世界トップ企業の最先端半導体と比べて何世代か後れを取っているものの、米国が中国の技術開発を阻止しようと試みていた水準は上回っている。米国の制裁下にありながら、高度半導体を自国で製造できるその技術力に関心が集まっていた。
ただ、7nmプロセスには、オランダの半導体製造装置大手ASMLが手がける極端紫外線(EUV)露光装置が必要だといわれている。
これまでの報道では、SMICがASMLの旧式製造装置を使って高度な半導体を製造しているとされてきた。今回の報道で、SMICがASMLのほか、米企業の装置も駆使して、先端品の製造に挑んでいることが分かってきた。
先端品の量産は不可能との見方
これに先立つ24年2月、英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、SMICが既存の製造装置を使用して、より微細な5nm半導体の製造を目指していると報じた。
SMICの新たな生産ラインでは、ファーウェイ子会社で半導体設計を手掛ける海思半導体(ハイシリコン)が設計した「Kirin(キリン)」と呼ばれるSoC(システム・オン・チップ)を製造する。それを新型スマホに搭載する計画だとFTは伝えていた。
ただ、SMICが先端半導体を量産できることを示す証拠はないとも指摘されている。その根拠とされるのが、製造コストと歩留まりの問題だ。
旧式装置は最新装置を用いる場合に比べ製造コストが高くなり、歩留まりが低下するといわれている。FTによれば、SMICが7nmや5nmプロセスで製造する製品の価格は、半導体受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が製造する製品の40〜50%高くなるといわれている。
バイデン政権が対中規制強化、日本・オランダにも
一方、バイデン米政権は23年10月、中国に対する米国製先端技術の輸出規制を強化する方針を発表した。米政府は、他国にも同様の制限を課すよう促している。オランダ政府はこれに応える形で輸出制限を正式に導入した。
ロイター通信などによると、米政府は24年3月初旬、日本やオランダなどに対し、対中規制を一段と強化するよう要請した。3カ国はすでに先端技術の輸出規制で協調している。
だが、米政府は今回、日本に対して感光剤(フォトレジスト)などの化学薬品の輸出を制限するよう要請した。オランダに対しては、中国企業が以前に購入した製造装置のメンテナンスや修理サービスを停止するよう求めている。
筆者からの補足コメント:
旧式装置を使った高度半導体の製造は困難を極めるといった見方が広がっています。インドのタクシャシラ研究所のハイテク地政学プログラム委員長であるプラナイ・コタスタニ氏は、「中国は資金を投入し続ければ歩留まりを改善できるかもしれないが、ASMLのEUV露光装置を入手できなければ、より高度な世代の半導体になるにつれて、コストは上昇し続ける」と指摘しています。「コスト上昇は半導体の世代が進むにつれて大きくなる。中国がEUVに関して、有効な代替策を見つけない限り、コストは累積的に増加する」(同)
- (本コラム記事は「JBpress」2024年3月15日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)