Yahoo!ニュース

米国政府閉鎖の裏側 無給に苦しむ連邦職員をよそに、メラニア夫人は…

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
政府閉鎖問題をよそに、昨年末、自らはイラクを訪問したトランプ氏だったが...。(写真:ロイター/アフロ)

 「国境の壁」の予算をめぐって続く米国の政府機関の閉鎖。その裏側では、ある出来事が起きていた。

 1月17日(米国時間)の昼下がり、ワシントンDC郊外のアンドリューズ空軍基地から、一機の政府軍用機が飛び立っていた。乗っていたのはメラニア夫人。同機が着陸したのは、トランプ家の別荘マーラーゴがあるフロリダ州ウエストパームビーチの空港である。メラニア夫人はキング牧師記念日の連休を過ごすために同地を訪れたのだ。

 週末の休暇をフロリダ州の別荘で過ごすことなど、メラニア夫人にはよくあることかもしれない。しかし、タイミングが最悪だった。トランプ氏が、下院議長のナンシー・ペロシ氏あての書簡を発表した直後だったからだ。

 同じ17日、ペロシ氏ら議員団はブリュッセルやアフガニスタンに向けて政府軍用機で出発しようとしていたが、トランプ氏は書簡で外遊に行くのに政府軍用機を使ってはならないと通告。トランプ氏は、ペロシ氏らの外遊を、出発の土壇場で阻止する動きに出たのだ。

 メラニア夫人はプライベートな週末のバケーションを楽しむために政府軍用機を使ってフロリダへ。一方、ペロシ氏は公務で使おうとしていた政府軍用機の使用が禁じられてワシントンDCに留まった。

 ツイッターには、批判の声が上がった。

「議員団の旅行は正当化されなかったのに、なぜ、メラニア夫人の旅行は正当化されるわけ?」

「メラニア夫人は政府軍用機でバケーションのためにフロリダを訪問。しかし、トランプ氏はペロシ氏のアフガニスタン訪問をキャンセルさせた。これが腐敗というものさ。権力の濫用だ」

トランプ氏のリベンジ

 トランプ氏がペロシ氏ら議員団の外遊を阻止したのは、ペロシ氏は政府閉鎖問題を解決するためにワシントンDCで自分と交渉すべきだと考えたからだ。

 サラ・サンダース報道官も「ペロシ氏が外遊に行ったら、ワシントンDCでトランプ氏と交渉できなくなり、80万人の連邦職員は2回目の給料も得られなくなるだろう」と言及した。

 しかし、今回、政府閉鎖を終わらせる交渉のために、ペロシ氏ら議員団の外遊を中止させたのはおかしい。なぜなら、トランプ氏や共和党の議員団の方は、昨年12月27日(米国時間)、政府閉鎖の最中にもかかわらず、交渉は差し置き、イラクを訪問していたからだ。

 出発直前の外遊阻止は、1月29日に予定されている一般教書演説を延期するようトランプ氏に求めたペロシ氏に対するリベンジ以外の何ものでもないだろう。

 また、ペロシ氏が議員団と予定していた外遊は、アフガン駐留兵の慰問以外に、ブリュッセルでNATOへのコミットメントが強固であることを同盟国に訴えることも意図されていた。NATOからの離脱を周囲に再三漏らしていたというトランプ氏である。ペロシ氏らがNATOにコミットしようとする動きも阻止したかったのかもしれない。

 また、紛争地帯を訪問する議員団の外遊は、安全保障上、極秘にされていた。それにもかかわらず、トランプ氏がペロシ氏にあてた書簡を公表し、外遊を暴露してしまったのも問題行為だと非難された。

政府閉鎖中に税金でフロリダへ

 quartz.comによると、メラニア夫人がフロリダ州に飛ぶのに使用された政府軍用機はボーイング757を改造したC-32A型機で、1時間あたりの飛行にかかるコストは約14000ドル。ワシントンDCからフロリダ州ウエストパームビーチまでの飛行時間は約2.5時間なので、コストは約35000ドルを超える。

 ちなみに、元大統領たちは個人的な旅行にはC-37A型機という小型機を使用、飛行にかかるコストは1時間あたり約8200ドルだったという。約2.5時間飛んだ場合、約20000ドルのコストで済んでいたことになる。

 

 そのため、ツイッターでは、政府閉鎖中の税金の使い方を非難する声もあがった。

「多くのアメリカ人が政府閉鎖のために給料が得られない時に、ファースト・レディーは税金でカントリークラブのあるフロリダ州に飛んだ」

「素晴らしいね。それこそ、政府閉鎖中の税金の使い方さ」

 トランプ氏は、1月19日(米国時間)、「国境の壁」の予算承認と引き換えに、幼少期に家族とともに米国に不法移民した外国人の強制送還を3年間猶予するなどの妥協案を出したが、ペロシ氏から一蹴され、政府の閉鎖日数は31日目に突入、最長記録を更新し続けている。給料が支払われない連邦職員たちは生活苦に陥り始めた。そんな現状をよそに、身内には優しい”トランプ王国”。米国民の反発は高まるばかりだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事