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地方試合を行く(ファーム編):イースタンリーグ、千葉ロッテは地方ゲームで開幕

阿佐智ベースボールジャーナリスト
千葉県浦安で行われたイースタンリーグ開幕戦

 これまで、プロ野球の地方ゲームについて、2度にわたって論じてきた(「なぜ『オープン戦』は、少なくなったのか?プロ野球『春の巡業』について考える」 https://news.yahoo.co.jp/byline/asasatoshi/20180224-00081952/、「今や『絶滅危惧種』?オープン戦・地方試合をゆく」https://news.yahoo.co.jp/byline/asasatoshi/20180315-00082709/)。平成に年号が変わってから、設備面、運営面、興行面から一軍の地方ゲームが減少しているが、近年は、ファームの公式戦を本拠地球場以外で行う球団が増えている。今回は千葉ロッテマリーンズの千葉県浦安での開幕ゲームの様子からその傾向について論じてみたいと思う。

浦安運動公園野球場
浦安運動公園野球場

ディズニーランドの横にある野球場

 3月17日。一軍より一足早くプロ野球のファームリーグ、イースタンリーグが、巨人対埼玉西武(ジャイアンツ)、東京ヤクルト対北海道日本ハム(戸田)、千葉ロッテ対横浜DeNAの3カードで開幕した。ロッテは、この開幕戦を一軍のフランチャイズである千葉県の浦安市で行った。

 京葉線舞浜駅と言えば、その利用者のほとんどはディズニーリゾートを利用する行楽客である。駅のメインゲートはリゾート側にあり、その先には夢の世界が広がっている。その裏側にもゲートがあるのだが、そちらはうってかわって埋め立て地の殺風景な風景があるだけだ。その風景を歩くこと10分程のところに浦安市民が利用するスポーツ複合施設がある。その施設のひとつが浦安運動公園野球場だ。収容2500人のこの球場は、昨年こけら落としとして行われたロッテの二軍戦で満員札止めを記録した。

球場前にはフードの出店も出て、お祭り的な雰囲気を醸し出している
球場前にはフードの出店も出て、お祭り的な雰囲気を醸し出している

 

 この日はさすがにチケット完売というわけにはいかなかったが、同じ京葉線に乗ればすぐ先にある一軍のホームZOZOマリンスタジアムでのオープン戦を観ることができるにもかかわらず、2203人の観客を集めた。内野スタンドは満席。外野の芝生席にも多くのファンが陣取っていた。近年、二軍の公式戦開幕は、一軍のそれより早くなっているが、そのため調整中の主力選手も出場することが多いのも、この時期のファーム公式戦の魅力のひとつだ。この日も、角中勝也がロッテの4番に名を連ねていた。近年野球人気低下が叫ばれているが、ことプロの観客動員に関しては、ファームの試合にも多くのファンが足を運ぶ現状を考えると、その人気は円熟期に入っているとしか言いようがない。

 ライト側外野席には、応援団が陣取っていたが、スタンドの雰囲気は、応援より純粋にプレーを楽しもうという「通」の熱気に包まれていた。スタンドファンの年齢層は、子どもからお年寄りまで様々。10年ほど前までは、「通」というより、熱狂的な野球マニアの集まる場所というイメージが強かったファームの試合も、現在では、多彩なファンを獲得しているようだ。「通」の観客たちは、選手名鑑の隅々にまで目を通しているのか、無名の選手の「トリビアネタ」を各々披露しあっている。

 この日、ディズニーリゾートではなく、プロ野球二軍の試合に足を運んだファンの多くのお目当ては、前日、ついにファーム行きを通告され、サードのスタメンとして名を連ねたロッテの大型ルーキー、安田尚憲だった。残念ながらこの日は「プロ初打席」の四球のあと、3打数無安打で、公式戦「プロ初安打」が出ることはなかったが、サードゴロを無難にさばくなど、初回のフライ処理のまずさからそのディフェンス面を心配するスタンドの声をなんとか封じ込めていた。

 試合は、4対3でロッテが逃げ切り開幕戦を白星で飾った。スタンドのファンは、1000円のチケットでいつもより近くに選手を観ることのできるファーム戦に十分満足して家路についていた。

プロ野球二軍の地方戦略

この日、浦安球場には2000人を超える観客が訪れた
この日、浦安球場には2000人を超える観客が訪れた

 かつて、プロ野球は二軍を収益のシステムとは考えていなかった。文字通り「ファーム」として客席のないグラウンドで公式戦をこなしていた。それが、昭和の終わり頃から各球団の姿勢が変わりはじめた。

 今はなき、阪急ブレーブス(現オリックス・バファローズ)は、昭和60(1985)年前後から、本拠・西宮球場で行う二軍の公式戦に入場料を徴収するようになったが、当時球団は、これを収益目的と言うよりは、「入場料を観客から取ることにより、選手にプロ意識を芽生えさせるため」としていた。当時、南海(現ソフトバンク)、近鉄(消滅)、阪神を含めた在阪4球団の中で、パ・リーグ3球団がファームの公式戦に入場料を徴収していたが、不人気でファームの観客動員など望むべくもなかったことを考えると、他2球団の姿勢も、おそらく阪急と同じだったのだろう。南海の後継球団であるソフトバンクは、今や全国区の人気球団になり、一昨年に本拠・福岡県の南部・筑後市に完成させた収容3000人のファーム用の新球場にほぼ毎試合、満員の観客を迎えている。それでも、三軍も含めてチケット販売する意義を「ファーム選手へのプロ意識植え付け」であるとする姿勢は崩していない。

 その一方、1995年に観客席を備えた鳴尾浜球場を完成させた阪神は、その関西での圧倒的な人気からファームの試合でも約500席あるスタンドはほぼ毎試合満員という状態であっても、現在に至るまで、入場料を徴収していない。本拠・鳴尾浜で行われるファームの試合は、あくまでファンサービスという姿勢である。

 現在、12球団のうち、通常からファーム公式戦に入場料を徴収しているのは、8球団。千葉ロッテ、埼玉西武、阪神、広島はチケット販売をしていないが、これらの球団もしばしば、本拠地球場以外で有料のファーム公式戦を行っている。

 千葉ロッテは、ファームの本拠地を本社工場のある埼玉県の浦和球場に置いているが、ここには、内野1,3塁側にスタンドとも言えないようなコンクリートのひな壇があるだけで、集客施設の体をなしていない。

 その一方で、ロッテ球団は、一軍本拠ZOZOマリンスタジアムでファーム戦を4試合組むほか、「地元」千葉県内の8市で公式戦を開催することにしている。これは、多くの球団に共通する近年の傾向で、一種のイベントとしてファーム戦を一軍本拠で数試合組むほか、地域密着を進めるためフランチャイズ地域各所で二軍公式戦を開催している。

 アメリカでは幾重にも重なったマイナーリーグが存在し、100をゆうに超えるプロ野球チームが、地方都市に点在することで、野球ファンのすそ野を維持拡大している。日本では、残念ながらそこまでには至っていないものの、近年活発になってきているファームの地方球場での試合開催が、野球の草の根を拡大していることは間違いなさそうだ。

 球春もいよいよ本番。一軍のペナントレースに一喜一憂するのも悪くはないが、たまには、小さな町の小さな球場で、若い選手たちの未熟だが懸命なプレーを観るのもいいのではないだろうか。

(写真は全て筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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