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全員がリモートワーク 柔軟な働き方で「自然」に多様性のある組織に

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
日本各地にいるメンバーはビデオ会議でコミュニケーションしている。

今、組織の目標として「ダイバーシティ&インクルージョン」を掲げる企業が増えています。「ダイバーシティ(多様性)」とは、所属する人材に多様性がある状態、「インクルージョン(包括)」とは多様な人材が一緒になって活躍できる状態を指します。

これまで日本の企業では、協調性があって集団の和を乱さない人を求め、評価する傾向にありました。だから働き方についても、みんなが同じ場所、同じ時間に仕事をするのが当たり前と考えられ、柔軟性がなかったのです。

多様性を実現するには、今までいなかったような人を新たに採用しなければいけないと思われるかもしれません。でも、実はすでに多様な人材がいるのに、多様性を受け入れる風土がないために、人とは違う個性を表に出すのを躊躇している人、働きづらさを感じてその組織を去っていく人がいるという可能性もあります。

逆に、最初から一人ひとりの違いを「あるもの」と考え、それを大事にするために自由度の高い働き方を用意したら自然に多様な人が集まった――、そんな会社がありました。

求人のときに想定していたのは子育て中女性だったが……

タクセル株式会社 代表取締役CEO 田中 亮大さん
タクセル株式会社 代表取締役CEO 田中 亮大さん

「最初は、子育てをしながら在宅で仕事をしたい女性たちに働いてもらうイメージでした。でも、求人を始めてみたら想定以上の理由を抱える人たちがいて、まさにダイバーシティ。それまでのキャリアも応募の動機も、様々な人たちが集まってきて驚いています」

こう語るのは、「全員がリモートワーク」という働き方を採用するタクセルの社長 田中亮大さん。

「一人ひとりが、大切にしたいことを大切にできる会社を作りたかった」という田中さんに、どんな人達がどんな働き方をしているのか伺いました。後半では、それぞれの思いを持って地方の自宅で働く3人の女性達の声もお届けします。

自分の時間と収入が両立できる在宅ワークとは

現在タクセルは、顧客企業の「インサイドセールス」の代行やコンサルティングを手がけています。「インサイドセールス」とは営業活動の一種ですが、「営業」と聞いてイメージしがちな飛び込みやテレアポなどで新規顧客を獲得するものではなく、自社の製品・サービスについてすでに興味を持っているお客さんと電話でコミュニケーションを取り、ニーズを聞き取ったり情報を提供したりする仕事です。

田中さんは、過去にインサイドセールスで好業績を上げた経験を持ち、インサイドセールス向けのウェブ会議システムを開発・販売する会社の経営に携わるなど、その道のプロ。ですが、タクセルでインサイドセールスを手がける理由は、それだけではありません。

「誰もが在宅で、きちんと収入を得られる仕事を作りたかったんです。今はクラウドソーシングなど、在宅でできる仕事が増えてはいますが、データ入力などのスキルや経験を問わないものは単価が低く、ある程度稼ごうと思ったらプログラミングやデザインなどのクリエイティブなスキルを持った人でないと難しいんですよね。その点インサイドセールスという仕事は、働く場所が自由でかつ、未経験でも効率よく収入を得ることができるんです」

子どもとの時間を過ごす田中さん
子どもとの時間を過ごす田中さん

未経験でできる在宅の仕事で、かつ安定的な収入も見込める、そんな仕事ができる会社を作ろうと田中さんが考えたのは、自身が父親になったことがきっかけでした。もっと家族と過ごす時間をたくさん取れる働き方をしたい――、その思いが「家族、そして一緒に働く人たちを幸せにできる働き方」の実現へと向かわせたのです。

予想以上に様々な人が集まり、多様性のある組織に

タクセルでは、週40時間のフルタイム勤務以外に、30時間、15時間という短時間勤務も選択でき、半年や1年というある程度の期間での契約のもと、月給が支払われます。

こういった条件で在宅で働きたい人を募集したところ、冒頭の発言の通り、実に様々な人が集まったそう。

「かなりのキャリアがありながら結婚や出産で前の仕事を辞めた方、ライターや産業カウンセラーなどの目指している職業に就くために、時間に余裕のある仕事を探していた方、健康上の問題でオフィスに出勤して働くのが難しい方、介護のために前の仕事を続けられなかった方など、様々です。

僕らはお互いに離れた場所で働いていますが、オンライン上ではかなり活発にコミュニケーションを取っています。早く馴染んでもらえるよう、入社すると必ず記入してもらう自己紹介のフォーマットがあるのですが、そこで『自分は一つのことに集中し過ぎてしまう特性があるので、一度に複数のことをするのは苦手だけれど、こういう配慮をしてもらえればやりやすい』といったことを書いてくれる人もいました。お互いオープンな関係を作ろうとしているので、LGBTの方も最初からカミングアウトしてくれています」

ここからは、それぞれの理由があってタクセルで働くことを選んだ3人の方のお話を紹介します。

三人三様の「タクセルで働く理由」

いつも愛犬のそばにいるために(沖縄県 Aさん)

沖縄出身のAさんは、以前は東京のIT系企業に10年以上勤め、忙しい日々を過ごしていました。普段から残業も多く、イベントの運営などで週末の出勤もよくある仕事でした。

働き方を変えたのは、愛犬がきっかけです。転職前の1年ほど、Aさんが出勤の準備を始めると寂しがってブルブルと体を震わせるようになったのです。

「獣医さんには『感情を表すのが得意なワンちゃんです』と言われたのですが、石を口に入れるなど、ストレスを感じていることを表す行動が増えていったんです」

以前から東京での生活にせわしなさを感じていたAさんは、愛犬の様子を見て会社を辞める決心をし、沖縄の実家に戻りました。

沖縄のAさんの家から普通の会社勤めをするには車がないと不便ですが、Aさんは免許を持っていなかったこと、昨年熊本で地震があったときに、愛犬と離れている時間が長いのは心配だと思ったことから、最初から在宅でできる仕事を探しました。

そして見つけたタクセルの仕事は、残業もなくマイペースで取り組むことができ、やりがいもある。沖縄で働く人の平均以上の収入が得られ、何よりも愛犬のそばにいられるというワークスタイルに、大満足。「今後もできる限り続けていきたい」と考えています。

資格取得の勉強と両立するために(北海道 Bさん)

北海道の中小企業で営業の仕事をしていたBさんも、その当時はとても忙しい日々を送っていました。会社が急成長の時期を迎え、ついていけなくなった社員がどんどん辞めていく状況の中、Bさんの業務量が急激に増えていったのです。

朝の7時頃から夜10時頃まで働く日々を続けていたら体調も優れなくなり、もっと自分の時間が欲しいと転職活動を開始。営業職では結局同じことの繰り返しになってしまうのではないかと思い、別の職種を希望しました。でも、30歳という年齢で未経験の職に就くのは難しい状況でした。

一方Bさんは、ある資格取得の勉強もしており、将来はその資格を活かして独立したいという夢もあります。そこで、普通の企業に就職するのではなく、もっと自律的な働き方を探してみようと、リモートワークの可能な仕事に目を向け、タクセルを知ったのでした。

タクセルでは、9時から5時半までのフルタイム勤務で、残業なし。自宅で働いているため通勤に時間を取られることもなく、勉強の時間も十分取れます

「タクセルは複業OKなので、資格を取得できたら勤務時間を少し減らし、資格を活かした仕事の方に徐々に移行できたらいいな、と思っています。代表の田中とは、その資格を活かした仕事をタクセルの中でもできるかも、という話もしています」

BさんはLGBTで女性のパートナーと一緒に暮らしています。パートナーも忙しくて体調を崩すことがあったため、時間にゆとりのあるタクセルの仕事を勧めたところ、彼女も今月からタクセルで働くことになりました。

LGBTであることは前職では伏せていましたが、タクセルではオープンにしています。

「多様性を認めようという社風があり、メンバーもそういう社風に合う方が厳選されているので、最初からオープンにしています。隠す必要が無いというのは、気持ちの面ではラクですね」

夫婦で海外移住に向けたステップとして(福岡県 Cさん)

東京で大手人材会社の求人情報誌とWebサイトのブランディングを担当していたCさんは、夫の転職に伴って福岡県に転居することになり、退職しました。

Cさん夫婦には、いずれアメリカに移住するという目標があります。その目標を見据えて、Cさんの夫は米国行きをバックアップしてくれる会社に転職を決め、それがたまたま福岡の会社だったのです。

福岡に転居し、地元で就職先を探したCさんでしたが、福岡県の中でも都市部から距離のある場所だったため、それまでの経験を活かした職がなかなか見つかりませんでした。その矢先に妊娠が分かり、フリーランスで働くことを考え始めました。

「妊娠していたので、今から入社しても1年経たないうちだと産休・育休も取れない可能性高いです。もし育休が認められても、復職して時短勤務となると、新しい環境でキャリアを積んでいくのは厳しいですよね。そもそも通勤に時間をかけるライフスタイルにも疑問があったので、フリーランスになることを考えました」

事務系総合職の経験が活かせる在宅の仕事を探した結果、たどりついたのがタクセルでした。他の在宅ワークと比較し、仕事内容に見合う収入が得られる点が魅力。インサイドセールスという未経験の仕事に最初は躊躇したものの、やってみると面白い仕事でした。

「ひとりの独立したマーケッターとして仕事をしている感覚を持てます。電話をかける業務がメインですが、それだけではなく、クライアント企業とのミーティングで『こういうことをした方がいい』と提案したり、『今後3ヶ月後のゴールはこれでいこう』といった話し合いをしたり、積極的に関わっていけるので、やりがいがありますね」

11月に出産予定なので、9月末に産休に入り、翌年4月には復帰したいというCさん。東京と違って待機児童も少なく、子育てに対する助成金なども手厚いので、今のところ子育てと仕事の両立に不安はありません。当面はタクセルで仕事を続け、いずれはスタッフをまとめる立場になれればという希望もあります。

現在、週30時間をタクセルの仕事に費やし、それ以外の時間でライティングや翻訳の仕事もしているというCさん、いずれ夢がかなってアメリカに移住しても、在宅ワークで仕事を続けていけるという自信にもつながっているようです。

「アメリカは日本よりも在宅ワークが浸透しているので、きっとできることがあると思います。タクセルには海外志向の人も多いので、社長の田中は海外からもできる仕事を考えていると言っていました。私がアメリカに行くときにそういう環境が整っていれば、ぜひタクセルの仕事も続けていきたいです」

ダイバーシティ&インクルージョンを実現するヒントがここに

自由度の高い働き方を用意し、一人ひとりの価値観やキャリアプランを認めることで、自然に多様性ある組織になったタクセル。集まった人たちの中から、新しい事業の芽も出てきそうです。「ダイバーシティ&インクルージョン」を目指す組織の方々に、是非参考にしてもらいたい事例です。

(本記事は、2017年8月に『くらしと仕事』に掲載した内容を、一部編集の上で投稿しています)

フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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