『NHK紅白歌合戦』の全衣装をまるっと読み解き 大人ガーリーやドレッシーデニムに勢い
『第75回NHK紅白歌合戦』では晴れ舞台にふさわしいステージ衣装がムードを一段と盛り上げました。特別な舞台だけに、ファッショントレンドがしっかり写し込まれていて、『紅白』のもう一つの見どころに。番組テーマ「あなたへの歌」に通じる、出演者それぞれのスタイリングが示されています。例年に引き続き、今回も歌い手の大半をカバーする形で、おしゃれトレンドに絡めながらまるっとほぼ全衣装を解説していきます(企画コーナーや応援出場、ゲスト審査員などは除く)。今のおしゃれトレンドとの関係も読み解きながらでお伝えします。「ファッション」という別のアングルからの『紅白』をお楽しみください。なお、グループの場合はカメラアングルの都合上、メインボーカルだけの場合があります。<文中敬称略>
◆レースやシアーを多用 ガーリーを大人顔に昇華
ロマンティックなガーリー感が勢いづいたのは、今回の紅組に目立った変化でした。ホワイトルックが印象的だったILLITはチュール仕立てのミニスカートを着用。ウエストのチラ見せも盛り込んでいます。スポーティーなハイソックスに、足元はメリージェーンやスニーカーを合わせ、キュートさと軽やかさを演出しました。ふわふわのバレエ風ウエアはバレエコアトレンドを牽引し、今回、複数の出演者が取り入れていたテイストです。
盛り上がったガーリートレンドを印象付けたのはLE SSERAFIM。白のミニ丈ルックとロングブーツのコンビネーションが視線を引き込みました。Y2K風のブラトップでフレッシュな魅力をアピール。パールやフリンジ、リボンといったトレンドディテールもしっかり取り入れています。
TWICEは白を基調に、ロマンティックガーリーなルックでそろえました。ボトムスはミニ丈とシアーパンツ。もこもこファーのロングブーツがキーピースです。ふわふわビスチェや透けるトップスがチャーミングなセクシー感を寄り添わせています。
◆リボンやシャーリングで表情深く ドラマティックな立体感
リボンやシャーリングなどのディテールが活用されました。ボリュームや立体感を効果的に生み出しています。立体的な表情を加え、スタイリング全体にドラマティックなインパクトを与える手法です。
aikoはミックステイストの着こなしを披露しました。リブTシャツとジーンズというカジュアル寄りの上下に、赤いフリルがたっぷりと施されたティアードドレスを大胆にレイヤード。動くたび揺れるヘアアクセサリーのリボンがアクセント効果を発揮していました。
西野カナはピンクのガーリーなドレスで登場しました。ベアショルダーのドレスは、前後で長さが異なるアシンメトリーなデザイン。正面がミニ丈、背中側がロング丈というダイナミックな丈違いです。上半身はタイトで腰から下は裾広がりの「フィット&フレア」シルエット。髪を束ねたリボンもコケットで、大人かわいい雰囲気を醸し出していました。
大トリを務めたMISIAは入り組んだレイヤードルックを披露しました。白い半袖トップスに黒い半袖ジャケットを重ね、さらに赤のジャンパースカートをオン。たっぷりのフリルがグラマラスで、黒いパンツとのマリアージュが立体感を高めています。頭にはベルトをターバン風に重ね巻きしてハンサムモードな仕上がりに。共演した矢野顕子は、白いシャツに黒いジレを重ね着。赤いスカートと花モチーフのアクセサリーをプラスし、あでやかにフィナーレを飾りました。
◆ボヘミアンやジェンダーミックスで「自由感」をまとう
ボヘミアンやジェンダーミックス、レイヤードなど、従来の枠組みにとらわれない着こなしは気持ちの上でも「自由感」を高めてくれます。自分らしさを望む意識や、「ラブ&ピース」的なマインドがその背景にあるようです。
緑黄色社会のボーカル、長屋晴子はグループ名にふさわしくモスグリーンのベロア調レースワンピースを選びました。同じ色合いのパンツに重ねています。日本流行色協会(JAFCA)が2025年のメッセージカラーに選んんだ「ホライゾングリーン」にも通じるカラーです。片方の耳だけに長いイヤーピースを添え、パールのネックレスも重ね巻き。キーボードはツイード風のクロップドジャケット、ギターは黒系のタートルネックとジャケットをまといました。
櫻坂46は白系ルックで清らかな装いにまとめ上げました。シアー素材の巻きスカート風ボトムスとパンツを融け合わせたようなジェンダーレスの出で立ち。たっぷりした裾がアクションを引き立てます。コンパクトなジャケットは王子様のような凛々しいイメージを漂わせました。シルバーにきらめく靴もアクセントになっています。
HYの面々は黒×赤のツートーンに染め上げました。ボーカルの仲宗根泉は黒いチュール仕立てのワンピースに赤のベレー帽を差し色使い。フリンジを配したきらめきボレロがボヘミアン風味を醸し出していました。
◆手仕事技で特別感 クラシックな華やぎエレガンス
刺繍やビーズを使ったクラフトマンシップが特別感を引き立てました。手仕事技が生む、クラシックな華やぎは、長く愛せるタイムレスな魅力を放ちます。
トップを務めたME:Iは黒と白のミニルックでフレッシュな装いに。クロップド丈のビスチェ風ジャケットが今回のキーピース。つややかなベロア調があでやか。ナポレオンジャケト風の刺繍・ビーズ飾りが強いイメージを引き出していました。
乃木坂46は、淡いラベンダー色の長袖ドレスで登場。ロマンティックな気品が漂うデザインです。ティアードシルエットとフィット&フレアが調和。襟元と袖カフスが凛とした印象を引き立てました。クラシカルな刺繍やパール装飾が手仕事技を感じさせます。足元はパンプスでレディーライクに仕上げられていました。
◆スポーツをモードに着こなす ユニフォームをアレンジ
スポーツユニフォームを取り入れたトレンド「ブロークコア(Blokecore)」が続く中、あいみょんはスポーティーな装いをチョイス。赤いジップアップはサッカー由来。ボトムスもウォームアップパンツ風です。裾はブーツインしてバレルパンツのようなボリューム感を持たせました。スポーツユニフォームの要素を日常着にうまく取り入れるこのスタイリングは2025年にもっと盛り上りそうです。
スポーツではありませんが、いわゆる「制服」もユニフォームの一種です。顔出ししないtuki.は後ろ姿でセーラー服姿を初解禁。ヘアスタイルの後ろに三つ編みを施し、その上にリボンを添えました。同じく制服の一種であるミリタリーウエアの読み換えも今回の『紅白』では相次ぎました。
◆フリンジで動感引き出す ゴシック風味でミステリアス
揺らめくロングフリンジやダークなゴシック風味もエッジを効かせる味付けに用いられました。モード界ではおしゃれトレンドとしても提案されています。ミステリアスなムードが視線を集める演出です。
トレンド感の高いルックを披露したのはSuperfly。ブロンズメタリックのフリンジドレスはボヘミアンなたたずまい。ブルーやワインレッドなどの色も交わらせて妖艶なイメージを引き出していました。
髙橋真梨子が着たのは、グレーから黒へ裾に向かって色が濃くなるグラデーショントーンのロングドレスです。ゴシック風味を帯びたティアード仕立てに加え、ビジュウやクリスタルがゴージャスさを加えています。
◆和×洋の折衷がブームに 和服とドレスが艶美に融和
着物が多かった女性演歌歌手がドレスを着たり、珍しい色柄の着物をまとったりするケースが増えました。和×洋の折衷的なアレンジです。
天童よしみは真っ赤なロングドレスに身を包みました。身頃のセンターにゴールドを配してゴージャス感をアップ。シアー素材で軽やかに仕上げました。ビッグコサージュが目を引きました。
水森かおりはふわふわの質感が愛らしいフェザー仕立てのドレスを着用。二の腕ゾーンにフェザーで朗らかなボリュームを持たせました。
能登半島地震の被災地、石川県輪島市で歌った坂本冬美は藤色の着物を着用。ぼかし模様をあしらいました。
椎名林檎とももはおそろいの花札モチーフの着物をまといました。ヘッドアクセサリーは大ぶりで、帯留めはカニモチーフ。足元はシルバーの足袋ブーツです。
石川さゆりは白が基調の着物にオレンジの柄を散らしました。あでやかな髪飾りも目を引きました。
◆白と黒でクール&スタイリッシュに フォーマル崩しの新技法
主に白組で目立ったのは、白と黒をベースにした装いです。フォーマルな雰囲気を崩して、クール&スタイリッシュにひねる手法が多く見られました。きらめき系のアクセサリーやモチーフもふんだんに使われてます。
3人組ピアノトリオバンドのOmoinotakeは黒×白のツートーンでまとめました。黒系のジャケットとパンツでそろえつつ、シャツを胸元からのぞかせたり、ウエストアウトで裾からあふれさせたりと、三者三様にカスタマイズ。全体に落ち着いた雰囲気を醸し出しました。
ダンス&ボーカルグループのDa-iCEもフォーマル崩しの黒×白ルックでクールに決めました。パンツスーツを軸に据えつつ、Tシャツ派もネクタイ派も混在。Tシャツにはゴールドネックレスをオン。白組でブローチやピアスが増えたのは今回の傾向です。
BE:FIRSTは「ストリートフォーマル」と呼べそうな、フォーマル崩しのお手本的コーディネートを見せました。黒のジャケットはオーバーサイズで、キラキラの飾りディテールを施しました。白のTシャツやマウンテン風ブーツで堅苦しさをオフ。シルバーのネックレスもマニッシュな色気を寄り添わせていました。
久々の出演を果たしたGLAYはバンド名に似つかわしく黒×白ルックを選びました。ボーカルの着たジャケットはロング丈。黒いタンクトップと白いベストに重ねました。パンツ裾はブーツインしています。
2年連続の日本レコード大賞を獲得したMrs. GREEN APPLEのボーカル、大森元貴はダブルブレストのショート丈ジャケットに花コサージュやネックレスを添えてジェンダーレスな雰囲気に。口紅と耳飾りも添えています。グループ全体ではスーツライクな装いを柱に据えつつ、パンツとスカートのハイブリッドウエアもまといました。
玉置浩二は黒いトレンチ風ロングコートに身を包みました。全身をブラックで統一。縦長シルエットを印象付けていました。
久々に出演したTHE ALFEEはホワイトルックで白組らしさを体現。高見沢俊彦は肩飾り付きのナポレオンジャケットを着用。パンツはベルボトムです。桜井賢と坂崎幸之助は白いスーツで、ネクタイに違いを示しました。
福山雅治は白のパンツスーツに墨黒の抽象的ペイントアートを施しました。ダブルブレストでウエストシェイプを利かせた、シャープな着映えの装いで白組の最後を飾りました。
◆デニムを華やかに格上げ きらめきアクセやクラフト感をプラス
デニムは今回の主役級素材でした。新アレンジは「ドレッシーデニム」。JO1はウオッシュを利かせたデニムウエアにパールやレースをいっぱいあしらいました。パンツシルエットはベルボトム。スカーフやリボン、ボウタイ、ネクタイなどでそれぞれにアレンジ。デニムでグループの一体感を出しつつ、各自の多様性も示しました。
TOMORROW X TOGETHERもデニムルックをドレッシーに昇華。短め丈ジャケットとデニムパンツを組み合わせました。足元を黒ブーツでエレガントに引き締めています。チェーンやハーネスで動きを加えました。
大ヒット曲『Bling-Bang-Bang-Born』を歌ったCreepy Nutsのラッパー、R-指定はオーバーサイズのデニムジャケットを着用。背中にかなりのダメージ加工を施したサプライズアイテムです。DJ松永が着ていたジップアップのジャケットは両袖がニットの異素材仕立て。ボトムスはワークパンツ風です。
ファーコートとデニムパンツを引き合わせたのは、3人組男性ダンスボーカルグループNumber_iの平野紫耀。チェック柄ジャケットの上からファーコートをオン。白シャツ、ネクタイにグローブやビジュウを添えたモード最先端のコーデが冴えています。白ボタンダウンシャツとネクタイは3人共通なのですが、残りのアイテムはそれぞれに個性的です。神宮寺勇太はカーディガンの上からライダースジャケットをオン。タフなイメージを乗せました。一方、岸優太はキャップをかぶり、ブルゾンを重ねて、パンツはシャイニーな特殊加工のデニムを着用。タイドアップにカジュアルを交わらせるスタイリングを見せました。
南こうせつとイルカの共通点はデニム使い。こうせつはデニムジャケットとデニム・パッチワークパンツの上下。イルカはリメイク着物のような振袖風ブラウスにデニムのジャンパースカートを重ね着しました。どちらもサスティナブルな雰囲気を帯びた装いです。
◆ブラウン系を軸に ワークやミリタリーを上品アレンジ
ブラウン系のトーンが多く見受けられました。アメリカの色見本会社、パントン(Pantone)が選んだ2025年の「カラー・オブ・ザ・イヤー」は「モカ・ムース」。どこか懐かしい、甘い記憶を思わせるようなこの色調を先取りしたかのような装いが相次ぎました。
こっちのけんとはネットやフリンジでこしらえたトップスに白いベストをレイヤード。白いパンツとコーディネートしました。フリンジは今回のキーディテールです。
ワークウエアやミリタリーを上品にアレンジする着こなしが目立ちました。コートやジャケットにも差し色や差しディテールで変化が盛り込まれています。アウトドア風ブルゾンとカーゴパンツを組み合わせたのはVaundy。お得意のストリート系着こなしです。
星野源はブラウン系のニットを着て、穏やかな雰囲気に。シルバーのネックレスを添えました。
B'zの稲葉浩志はワインレッドに染めたレザーのシャツジャケットと細身パンツという、ロッカーらしい出で立ち。スカーフを垂らす小技も効いていました。松本孝弘は黒シャツに白ベスト、黒パンツというクールな装いでした。
藤井風はパンツスーツの上から羽織った、黒いオーバーサイズのチェスターコートで身を包みました。オレンジ色のしなやかなマフラーを差し色に使っています。
米津玄師はブラウン系のレザー・セットアップをまといました。ジャケットはオーバーサイズで、ドレープやたるみが革の上質さを引き立てています。
◆正統派からレトロモダンまで ユニークな独自仕様
『紅白』の大舞台にふさわしい、ユニークな独自仕様の衣装が番組を盛り上げました。常識にとらわれないアレンジが見られるのも『紅白』ならではです。
昭和歌謡のムードを帯びたのは、新浜レオンの衣装です。つややかな緑のシャツはフリルが袖先からあふれます。ジャケットは短め丈。パンツはベルボトム。背中には「LEON」の文字が躍りました。スーツには刺繍が施されています。
着物と洋服、メンズとウィメンズをミックスしたのは山内惠介。左右で赤と白に分けて、『紅白』にふさわしいカラーリングに。赤い振り袖と白紋付きを羽織り、足元は足袋ブーツで和洋折衷に整えました。
統一感を重んじる純烈は淡いラベンダーのスーツ姿で個人宅へのサプライズ訪問を仕掛けました。ジャケットは着丈が長め。ぼかしモチーフのマルチカラー柄で彩ったスーツがさわやか。パンツは細身です。
郷ひろみが着た、ツイード調のジャケットは背中側の着丈が長い前後アシンメトリーの仕様。ピンクのパンツがアイキャッチー。白のフリルシャツには、ネクタイをルーズに巻いて、オンリーワンの着映えに整えています。
氷川きよしは和服の黒×白ルックで登場。黒い袴で雄々しく復活曲を歌い上げました。三山ひろしは縞柄の和服姿。こちらも黒×白の一例です。
◆2025年春夏はディテールで個性を演出 日常に華やぎを添えて
今回の『紅白』で全体に目立ったのは、白と黒を基調とした、シックなツートーン型の装いです。フォーマル服をアレンジした「フォーマル崩し」のトレンドを感じさせます。内外ともに不安な出来事が続く中、ニュートラルなトーンが選ばれた事情がうかがえます。
一方、ヴィンテージやレトロの雰囲気を帯びた、懐かしげなテイストはタイムレスなムードを呼び込みました。穏やかなボヘミアンや、大人かわいいロマンティックテイストが増えたのも、今回の傾向。グローバルなおしゃれトレンドとも合致しています。
デニムルックを華やかにアレンジするスタイリングは「日常のモード化」という新トレンドに通じています。フリンジ、リボン、フリル、レース、フェザー、パールなどのディテールでリッチ感や動き、意外さを加えるアレンジは日々のコーディネートにも役立ちそうです。共通テーマだった「あなたへの歌」のように、今回の『紅白』を参考にして、自分好みの着こなし方を見つけて2025年の装いに生かしてみてはいかがでしょう。
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