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『NHK紅白歌合戦』ほぼ全員の装いをまるっと解説 2023年春夏トレンドは「新ボディコン」

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
第73回NHK紅白歌合戦で多かったヘルシーな肌見せ(写真:IMAXtree/アフロ)

『第73回NHK紅白歌合戦』では「LOVE&PEACE みんなでシェア!」のテーマにふさわしく、例年以上にポジティブな衣装が披露されました。昨年に引き続き、ほぼ全出場者のファッションをまるっと解説します(応援出場やアニメキャラクター、ゲスト審査員などは除く)。今のおしゃれトレンドとの関係も読み解く構成です。なお、グループの場合はカメラアングルの都合上、メインボーカルだけの場合があります。(文中敬称略)

司会を務める大泉洋は、番組スタート冒頭で「ポール・スミス(Paul Smith)」のスーツを着て登場しました。白地とピンクがむらになったような、あいまいなトーンで、「紅白」をはっきりさせない立ち位置を示しているかのようでした。

一方、司会の橋本環奈は真っ赤なドレスを選んで「紅組」のムードをアピール。こちらは米国ブランド「キャロリーナ ヘレラ(CAROLINA HERRERA)」の品と伝えられています。両肩を出したストラップレスは、健康的な素肌見せが盛り上がる今のトレンドにマッチ。正面の裾がミニ丈で、背中側は床に届くフロアレングスという「前後アシンメトリー」で動感を添えています。

TAE ASHIDA 2023年春夏コレクション (c)TAE ASHIDA
TAE ASHIDA 2023年春夏コレクション (c)TAE ASHIDA

桑子真帆アナウンサーがまとったのは、全体にビーズ刺繍を施したチュールレースで仕立てた、シルバー色のロングドレス。ほのかに素肌が透けるシアー生地で、上品なセンシュアル(官能的)を演出。こちらは「タエ アシダ(TAE ASHIDA)」の2021年秋冬コレクションから。桑子アナは後半でも同じ「タエ アシダ」の、繊細なレース製トップスとボリューミーなフレアスカートを着用。ゴールドのサッシュベルトでウエストマークして品格とエレガンスを薫らせていました。

スペシャルナビゲーターを務めた、「嵐」の櫻井翔は黒のタキシードに身を包みました。きらめきパーツでジャケット表面を埋め尽くした、ゴージャスな出で立ち。生地にも起伏を持たせて、リュクスな表情を深くしています。シャツもネクタイも黒でそろえ、クールな雰囲気を漂わせました。

「LOVE & PEACE」がテーマとなっただけに、ダイバーシティ(多様性)とインクルーシブ(受容)の意識を感じさせます。ファッション界では自分の身体を肯定する「ボディポジティブ」が2023年のトレンドに浮上します。その流れに沿ったボディコンシャスや健康的な肌見せが勢いづく気配。きらめきをまとう装い、自分らしさを重んじた着こなしにも支持が広がっていて、今回の『紅白』でもそうした傾向が顕著でした。

◆「Y2K」が加速、「ボディポジティブ」の盛り上がり

MIU MIU 2023年春夏コレクション
MIU MIU 2023年春夏コレクション写真:REX/アフロ

MM6 MAISON MARGIELA 2023年春夏コレクション
MM6 MAISON MARGIELA 2023年春夏コレクション写真:IMAXtree/アフロ

2000年前後に流行した、ミニ丈やチラ腹見せ、厚底靴などの「Y2K」ファッションを取り入れる女性グループが相次いだのは、今回の目立った傾向です。LE SSERAFIMはショートパンツやミニスカートを選びながらも、全員が違うアイテムをまとって、腹見せの面積もそれぞれ変えて、あえて印象をずらしてみせました。厚底スニーカーが華奢感を印象つけました。

自分の身体を肯定的にとらえる「ボディポジティブ」はファッショントレンドの新本命とみられています。IVEは全員がミニスカートやショートパンツのミニ丈ルックで、脚線をヘルシーに露出。白のロングブーツでレッグラインを際立たせました。ウエアにはキラキラパーツをあしらって、ボディのめりはりを強調。Y2Kトレンドに沿った健康的なキュートネスを、お得意のダンスとともにアピールしていました。

メンバーの間で着映えに変化を見せるグループが増える中、3人組のPerfumeは統一感の高い装いを披露しました。『紅白 Medley 2022』という楽曲にちなんで、前半は赤、後半は白にスイッチ。真っ赤なドレスは二の腕がのぞく袖スリット入り。背中側はセーラー襟です。白ルックは一転してショートパンツ姿。シルバーメタリック柄を配した近未来ムードの装いに、黒のショートブーツを合わせて、アクティブに見せています。

ギター弾き語りのあいみょんはグレー系のブルゾンでアウトドア風のルック。Tシャツにシャツを重ね着し、ジーンズで合わせたジェンダーレス風のテイストです。

◆「ロマンティック」と「センシュアル」の交差するレイヤード

LOUIS VUITTON 2023年春夏コレクション
LOUIS VUITTON 2023年春夏コレクション写真:REX/アフロ

BURBERRY 2023年春夏コレクション
BURBERRY 2023年春夏コレクション提供:IMAXtree/アフロ

日向坂46はガーリーなティアード風ワンピースをまといました。ほのかに透ける生地で仕立てて、ダンスに動感を添える効果も発揮。野球のユニフォーム風の背番号「46」を背負って、ファイターズガールズと踊った「きつねダンス」とのつながりも演出。キツネの耳飾りがキュート感を引き立てました。

乃木坂46はフリルでいっぱいのティアード(段々)ドレスで齋藤飛鳥のラストを見送りました。藤色と白の段々がダンスにロマンティックな動きを加えています。

官能的なムードを濃くしたのは、9人組ガールズグループのTWICE。黒主体とシルバー主体に分かれたY2K風の装いは全員がミニ丈。スパンコールやフリンジでゴージャスに彩りました。主役はミニドレス。ボディコンシャスなシルエットも今っぽさがいっぱいでした。

フレッシュな印象を放ったのは、NiziUのホワイトルックです。白い薄手フリルを配したミニ丈ウエアに、全員共通のロングブーツを合わせ、ダンサブルな装いに。身頃を横切る形でゴールドビジュウをあしらい、ゴージャス感をプラス。コルセット風のタイトめなウエストでお姫様ライクな着映えに。デコルテ見せやチラ腹見せも決まっていました。

miletがまとったのは、グリーン主体の立体的なロングドレス。身頃の正面にカットアウトを施して、レイヤードを組み上げました。白と黒を加えたトリコロール(3色使い)の装い。流れ落ちるようなドレープがエレガンスを薫らせました。

『九十九里浜』を歌った水森かおりは、楽曲のイメージにふさわしいブルー1色の裾広がりアドレスを着用。海の青さを印象づけました。上半身はコンパクトで、腰から下が大胆に広がる「フィット&フレア」のクラシカルなドレスルック。耳にはフェザーの房飾りを添え、その後の早着替えも披露しました。

紅組トリのMISIAは2023年のえとにちなんだウサギのヘッドピースを着け、フレアシルエットの赤ドレスをまといました。ハイネックの白ドレスに赤ドレスを重ねた「紅白」らしい装い。ドレスのプリーツがあでやかさを引き立てています。

◆フリンジやスリットでドラマティックに演出

JIL SANDER 2023年春夏コレクション
JIL SANDER 2023年春夏コレクション写真:REX/アフロ

DRIES VAN NOTEN 2023年春夏コレクション
DRIES VAN NOTEN 2023年春夏コレクション写真:REX/アフロ

緑黄色社会のボーカル・長屋晴子はドレッシーな黒主体の装い。二の腕がパフスリーブで、透けるシースルー仕立て。フェザー(羽根)上のグリーンのフリンジが差し色になっています。ブーツもグリーンでバンド名にちなんだコーディネート。残りのメンバーも黒ベースのルックにイエローやブルーの差し色を加えています。

工藤静香はパープルの透けるロングドレスで大人ムードを漂わせました。こちらは「ヴァレンティノ(VALENTINO)」だそう。スネークモチーフのネックレスやブレスレットはリュクス感たっぷり。こちらは「ブルガリ(BVLGARI)」です。

篠原涼子はVゾーンが深い、ワインカラーのロングドレスをチョイス。大胆なスリットから脚線とブーツがのぞきます。コルセット風の太いベルトを巻いて、くびれを強調しました。サプライズゲストとして登場し、キーボードを演奏した小室哲哉はベロア風ジャケットの上からベルトでウエストマーク。こちらは「タエアシダ」のオリジナルデザインです。

Aimerはボレロ風のコンパクトなクロップドジャケットに、胸下から広がるチュール素材のスパンコールドレスで歌唱。ハイウエストや袖レースがドレッシーな着映えに導いていました。

Superflyは袖にロングフリンジをあしらったポンチョドレスをまといました。ロンググローブでレディーライクなムードに。インディペンデントな女性像を際立たせました。

50周年の松任谷由実はオールブラックのモダンな装い。乗馬風の帽子に、タートルネック、タキシード風ジャケット、つやめきパンツという、異素材感を生かした大人シックなコーディネート。ネック周りを飾ったアートオブジェ風のシルバーアクセサリーが装いのアクセントになっています。

◆和服にも多彩なアレンジ 新発想の「ネオ着物」

石川さゆりは赤ベースの着物で『天城越え』を熱唱。松モチーフのダイナミックな和柄が躍り、髪飾りもあでやか。紅組の準トリらしい衣装です。

前半のトリを務めた坂本冬美は、東京スカパラダイスオーケストラを伴っての登場でステージを華やがせました。にぎやかなリズムの『お祭りマンボ』にふさわしく、白系の生地にゴールドのきらびやかな柄をあしらった着物で、スカパラがアレンジした『お祭りマンボ』を熱唱。スカパラもイエローゴールドの市松模様スーツでバックを盛り上げました。

紅組の最初はベテランの天童よしみ。着物とパンツスーツを組み合わせたとも映る、演歌歌手のイメージにとらわれない装いで登場。法被(はっぴ)と振り袖を融け合わせたようなダブルブレストのジャケットにバラや蝶のコサージュ風モチーフをあしらいました。

◆きらめきをまとうリッチロック ビジュウ でグラマラス感

CELINE 2023年春夏コレクション
CELINE 2023年春夏コレクション写真:IMAXtree/アフロ

GUCCI 2023年春夏コレクション
GUCCI 2023年春夏コレクション写真:REX/アフロ

全体の一番手を務めたのは、白組のSixTONES。黒のタキシードをつやめきディテールでシックに華やがせました。パールネックレスやイヤーカフなどのアクセサリーでリッチ感を上乗せ。黒いシャツにもジュエリーをオン。今回はこのようなロックテイストをミックスした「エレガント男子」の装いが目立ちました。

黒と白のツートーンでまとめたのは、11人組ボーイズグループのJO1。色を統一しながら、それぞれに異なるテイストでアレンジ。手袋や首輪、斜め掛けベルトなどのフェティッシュなレザー小物がアイキャッチー。ゴールドチェーンを身頃に巻くようなジュエル系アクセサリーもグラマラス感を高めていました。

Snow Manはピンストライプ柄のパンツスーツで凜々しく決めました。さらに、肩ゾーンへの刺繍や、チェーンの垂らし掛けなどの飾りディテールでリッチ感をアップ。きらめきをまとう「ジュエルルック」に仕上げました。ジャケットの長短や、ネクタイの有無、靴のつやめきなどでもメンバーそれぞれの個性を引き出しています。全体に王子様ムードが漂い、高貴なたtずまい。トップスのネック周りもシャツやハイネックなどで多彩なバリエーションを見せていました。

THE LAST ROCKSTARS(YOSHIKI、HYDE、SUGIZO、MIYAVI)は名前の通り、ロックスター気分を惜しげもなく発散した圧巻のショーを見せました。YOSHIKIはブラックの短め丈タキシードに、赤のビジュウを散らして妖艶な装い。赤のボウタイ・ブラウスが官能的です。HYDEはフェザー系ベストの上からロングコートを羽織ました。チョーカーやグローブもミステリアスな雰囲気。SUGIZOは燕尾服風ロングコートにショートパンツという異形のマッチング。エナメル質感のサイハイブーツもクール。MIYAVIはタートルネックにクロップドジャケットをオン。レザーパンツはスリムでフェティッシュ。司会の大泉から「(漫画『聖闘士星矢』の)聖闘士(セイント)みたい」と声が掛かるほどの王道的ロッカールックでした。

まばゆい輝きを帯びるグリッター系の装いが盛り上がったのは、今回のトップ級トレンド。コロナ禍の落ち着く気配を見越して、世界の主要ブランドからも「キラピカ系」が相次いで打ち出されています。山内惠介は着丈が長いゴールドスーツを着て登場。「ズートスーツ」と呼ばれるこのタイプは面積が広いので、ギラギラ感もひときわ強まります。

氷川きよしはまばゆいゴールドのボディスーツに身を包み、全身から輝きを発しました。肩にはフリンジを添えて、別格のゴージャス感。素肌にフィットした装いでボディポジティブを極めました。

三山ひろしはズートスーツ風のロングジャケットを、ブルーグリーン系のメタリックパーツで埋め尽くしました。エメラルドのようにきらめくギラギラ服を引き立てるよう、パンツはベーシックなブラックでスタイリングしています。

◆スーツを崩して自己流に テーラリングを新解釈

ETRO 2023年春夏コレクション
ETRO 2023年春夏コレクション写真:IMAXtree/アフロ

MSGM 2023年春夏コレクション
MSGM 2023年春夏コレクション写真:REX/アフロ

今回の白組に多かったのは、「スーツ崩し」のスタイリングです。たとえば、なにわ男子は襟や袖先にキラキラと輝く飾りピースを配して、リュクスな風情にアレンジ。ネクタイを締めるタイドアップが世界的なトレンドに浮上する中、リボン風やループ(ひも)タイなど、多彩なタイをチョイス。色は2023年トレンドカラーの深紅色「ビバ・マゼンタ」に近い、鮮やかレッドでそろえて、グループの絆を示しました。ビクトリアンブラウス風の襟飾り付きシャツは中世貴族っぽい雰囲気を呼び込んでいました。

関ジャニ∞は水色のスーツで登場。ネクタイもベストも同じ色で統一感を高めています。白い襟が凛とした雰囲気に。ジャケットには様々なメッセージを盛り込み、楽観的でプレイフルな装いに仕上げました。

25周年のKinKi Kidsは黒と白のツートーンで、互いの装いにコントラストを際立たせました。堂本光一は黒ルック。ロングジャケットに細身パンツでスタイリッシュな出で立ち。一方の堂本剛は白ルック。ローブ風セットアップとパンツはゆったりめで、シルエットも好対照。どちらもキラキラディテールがふんだんに盛り込まれ、「着るビジュウ」のようでした。

星野源はオーバーサイズのボクシーなジャケットをキーピースに選びました。やや肩の落ちたシルエットがスーツのかしこまった印象をやわらげています。着余った見え具合がこなれ感を生む仕掛け。白シャツはウエストアウトして、さらにリラクシングに整えました。

50周年を記念したメドレーを歌った郷ひろみは真っ白はオールホワイトの出で立ちで若々しさを印象づけました。タンクトップの上にベストを着て、アクティブな変形スリーピースに。ベルトもスニーカーの白で統一。ロングジャケットとスリムパンツのコンビネーションがクリーンで軽やかなムードを引き立てていました。

大人っぽい「スーツ崩し」のお手本を示したのは鈴木雅之。ドット柄のきらめくダークカラーの肩張りスーツで登場。シャツはいぶし銀のメタリックなつやめきを帯びています。正面のえぐれが深いベストはカマーバンド風のアイテム。白いポケットチーフ以外はすべてが光を宿した、渋めグリッターのコーディネートです。

安全地帯の玉置浩二は襟が高い白シャツに黒のコートというシックなルックで、情感のこもった歌声を響かせました。長年のメンバーを亡くした直後とあって、全員が喪服を思わせるような装い。玉置が右手に着けた、破れた手袋が印象的でした。

三浦大知は一見、オーソドックスな黒のスーツですが、シャツは色のグラデーションがあでやか。色調が徐々に変化するグラデーションは、ダイバーシティにもつながる多様性を帯びています。シャツ裾をウエストアウトしてリラクシングな風情に。

福山雅治は2023年のトレンドカラーとして有望視されているマゼンタピンク系のスーツで大トリを務めました。大トリにふさわしく、赤と白を融け合わせたような色のスーツに白シャツ、白コサージュをマッチング。厚底のスニーカーで程よく「スーツ崩し」に仕上げました。

Official髭男dismは黒ジャケット主体のオールブラックの装いでありながら、アクセントが効いたスタイル。一見、シンプルに見えて、大襟が意外感を添えています。

King Gnuの常田大希はボディになじむ素材で仕立てた黒系ジャケットで2022年のNHKサッカーテーマ曲『Stardom』をシャウト。レザージャケットを軸に着こなしているメンバーもいました。

純烈(ダチョウ倶楽部、有吉弘行も)は水色のスリーピースのタキシードに白い雲モチーフを描いて、『白い雲のように』のイメージをまといました。シャツに湯煙マークを迎えて、純烈らしさも忍び込ませています。襟にはまばゆいきらめきが施されています。

加山雄三は海のイメージを写し込んだネイビーのスーツで最後のパフォーマンスに臨みました。ネクタイレス、シャツ第1ボタンはずしで、気張らない着こなし。クリスタルパーツをちりばめ、往年のスター感を示しました。

◆自分らしくテイストミックス グループでも「個」を主張

VERSACE 2023年春夏コレクション
VERSACE 2023年春夏コレクション写真:REX/アフロ

DSQUARED2 2023年春夏コレクション
DSQUARED2 2023年春夏コレクション写真:REX/アフロ

グループのメンバーそれぞれが統一感を保ちつつ、少しずつ異なるウエアを着る傾向が強まりました。BE: FIRSTは黒革をキーマテリアルに据えながら、ライダースジャケットやMA-1風、カーゴパンツなど、思い思いのアイテムを着用。超ショート丈のジャケットも登場しました。ダイバーシティ(多様性)を重んじる意識がグループ内の装いに及んでいるかのようにも映ります。

King & Princeはあえて統一しない衣装を選びました。凝った刺繍を施したブルゾンや、大学名のようにアルファベット文字を配したレタードブルゾンを着用。ボトムスはジャージ系生地のスウェットパンツでヒップホップ調の楽曲にマッチング。ゴールドネックレスを添えて、ストリート風味とラグジュアリー感を響き合わせました。少しずつ違いを出すことによって、メンバーそれぞれの個性を際立たせるかのようです。

SEKAI NO OWARIはレコード大賞曲の『Habit』を披露。Fukaseは赤いジャケットにチェック柄のパンツを合わせました。シャツにネクタイ、ベストという、形式上はオーソドックスな組み合わせですが、ネクタイはゆるませ、シャツ裾はウエストアウト。動きやすく着崩しました。

藤井風はスタンドカラーのシャツに、斜めカッティングの袈裟風トップスを重ねました。スカート風のワイドパンツも型にはまらない見え具合で、楽曲にぴったり。先端的な表現者らしい「オンリーワン」のスタイリングです。

ゆずは代表曲『夏色』に似つかわしく、白とブルーのツートーンでまとめました。軽やかなロングジャケットやストライプ柄、グラデーションなどでさわやかな印象に整えています。

『紅白』は晴れ舞台ですが、あえて気負わない装いを選ぶアーティストも珍しくありません。Vaundyはピンクのフーディーにカーキ系のカーゴパンツで熱唱。Tシャツにスニーカーという普段着テイストの出で立ちでストリート感を示しました。次の曲を歌った幾田りらはラベンダーのパーカにメタリックパンツと、やはり飾らない装いでVaundyの歌に寄り添いました。

Saucy Dogのボーカル・石原慎也はTシャツの上からベージュ系のブルゾンを羽織った、割とカジュアルめの、気負わない雰囲気に整えました。メンバーは裾を折ったジーンズやオーバーサイズのジャケットスーツをチョイス。気取らないムードを醸し出していました。

back numberのボーカル・清水依与吏は白いシャツジャケットとジーンズという、飾り気を抑えた出で立ち。『紅白』という特別な舞台でもシンプルですがすがしいサウンドに寄り添うような装いでした。

桑田佳祐佐野元春、世良公則、Char、野口五郎は圧巻の顔ぶれ。装いはそれぞれですが、黒と白がキートーンに。桑田は太いストライプ柄のジャケット。一方、佐野は黒革のライダースジャケット姿。世良はレザー襟のタキシードとスキニーパンツ。Charはトレードマークの帽子をかぶり、ストライプ柄のジャケットとベスト。野口は肩部分が白でベースが黒ジャケットに白パンツ。共通しているのはスリムパンツ。ロッカーの基本を守ったバンドマンらしいスタイリングを若々しく見事に着こなしていました。

◆2023年春夏は「LOVE&PEACE」気分でポジティブな装いに

全体を通してみると、「LOVE&PEACE」のテーマにふさわしく、ハッピー感やあでやかさを物語るような装いが目立ちました。今回の紅白が3年ぶりに観客を迎えて開催されただけに、ようやく外に気持ちが向いた感じが伝わってきます。お出かけするマインドはきらめきや肌見せにもつながります。自分好みや自分らしさをファッションで表現しているたのは、今回の特徴です。

『紅白』という特別な舞台を通じて、音楽を分かち合える幸福のありがたさ、そしてそれぞれの装いを通してわくわくする意味を伝えたようにも映りました。『紅白』の装いを参考に、2023年のおしゃれをポジティブに楽しんでみてはいかがでしょう。

(関連サイト)

第73回NHK紅白歌合戦

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ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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