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『NHK紅白歌合戦』の全衣装をまるっと読み解き 2024年春夏トレンドは「シアーとキラキラ」

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
シアーときらめき素材に注目(EMPORIO ARMANI 2024年春夏)(写真:REX/アフロ)

『第74回NHK紅白歌合戦』では今年も素敵なステージ衣装が披露されました。今のファッショントレンドを写し込んだ装いが目立った今回のスタイリング。番組テーマに選ばれた「ボーダレス(Borderless)」に即した着こなしも見どころでした。例年に引き続き、今回も歌い手の大半をカバーする形で、おしゃれトレンドに絡めながらまるっとほぼ全衣装を解説していきます(応援出場やアニメキャラクター、ゲスト審査員などは除く)。今のおしゃれトレンドとの関係も読み解く構成でお伝えします。なお、グループの場合はカメラアングルの都合上、メインボーカルだけの場合があります。<文中敬称略>

2023年4月にLAで開催された「Oscar de la Renta」のコレクション
2023年4月にLAで開催された「Oscar de la Renta」のコレクション写真:REX/アフロ

司会者の有吉弘行は最初、和服の紋付で登場しました。その後、タキシード風に着替え、自分が歌う際にはニットジャケット姿を見せました。橋本環奈は最初に振袖姿を披露した後、優美でエレガントな「レッドカーペット常連」のドレスブランドとして知られている、アメリカ発の「Oscar de la Renta(オスカー・デ・ラ・レンタ)」のマルチカラーのボタニカル柄ドレスを着用。その後、ゴールドがかった裾アシンメトリー(非対称)のドレスに着替えました。浜辺美波は振袖をまとった後、透け感を帯びたメッシュに刺繍の入ったドレスに衣装チェンジ。さらに、フラワーモチーフがあしらわれた、真っ赤なドレスにも着替えました。

境界がないという意味の「ボーダレス」がテーマとなっただけに、今回の出場者衣装は多様性を示すデザインが目立ちました。もともとは国境のような地理的な意味合いが強い言葉ですが、今では広い意味で「越えていく」「とらわれない」というニュアンスを持つようになっています。ファッションに当てはめると、テイストや雰囲気、素材に地域や時代などの「線」を引かないという風に解釈できそう。そういったイメージに沿って、出場者は思い思いのメッセージを衣装に託し、自分たちらしさを重んじた着こなしを選んだようです。

◆透けるシアー素材を多用 エアリーで上品な華やぎ

PRADA 2024年春夏コレクション
PRADA 2024年春夏コレクション写真:REX/アフロ

チュールやシフォンなど、はかなげに透けるシアー素材は今回の紅組で主役的な存在になったマテリアルです。2024年春夏ファッショントレンドにも欠かせないキー素材になっています。透けるシアー服のトレンドを押し出したのはJUJU。マイクロショート丈のボトムスにシースルーのスカートを重ねてほのかに透かし見せ。総レースが艶美な見え具合に導きました。ヘッドピースやビジュウ、リボンなども配して、妖艶な雰囲気を立ちのぼらせていました。

NiziUは藤色のミニ丈シアースカートをまといました。紫系は近年のトレンドカラーです。ブラックのロングブーツとのコンビネーションで、スカートとの隙間から素肌をのぞかせています。勢いが続く、Y2K(2000年頃の装い)にダークロマンティックを掛け合わせたようなテイストです。

milet×MAN WITH A MISSIONのmiletはチュール仕立てのバレエライクなウエアをまといました。バレリーナの装いから広がった「バレエコア」のトレンドに通じる着こなしです。カットアウトやスリットから程よく素肌をのぞかせています。MAN WITH A MISSIONの面々はビッグポケット付きの白シャツを黒パンツからウエストアウトさせていました。

◆「キラキラ」で高揚感 ポジティブでリュクスなムードに

MIU MIU 2024年春夏コレクション
MIU MIU 2024年春夏コレクション写真:REX/アフロ

光を受けてきらめくスパンコールやラメ、メタリックカラーなどは、ようあでやかな見た目のおしゃれを楽しめるようになってきた気分を盛り上げる演出です。ゴージャスさや高揚感を求める世界的なトレンドでも積極的に用いられています。MISAMOはゴールドのボディスーツ風オールインワンに身を包みました。ボトムスはショートパンツ仕様でほんのりヌーディー。ベールやロンググローブ、白ブーツなどのディテールもムードを濃くしていました。

乃木坂46はゴールドにきらめくリボンテープが重なった、ふわふわしたチュール系素材で仕立てた、襟付きの膝上丈ワンピースで勢ぞろい。レトロかわいい雰囲気も今のおしゃれマインドを映す点です。靴はチャンキーヒール、ポインテッドトゥ、ゴールド、ストラップと、トレンドを濃縮しています。

ディズニー100周年記念のアニメ映画『ウィッシュ』でヒロイン、アーシャ役の声を演じた生田絵梨花は、トレンドカラーとして注目されているラベンダー色のドレスで登場。同系色のビジュウがたくさん施されていて、上品なきらめきを呼び込んでいました。

Superflyは全体をスパンコールでまばゆくつやめかせた、オールインワンをまといました。両袖はフレアで、ボトムス部分はパンツ。肌を隠しながら、グラマラス感を高めていました。

ポケットビスケッツのCHIAKIはパフ半袖の燕尾服風ウエアに王冠のようなヘッドアクセサリー。バルーンスカートはゴールドです。対するブラックビスケッツのビビアンは黒いコートにゴールドのパンツ。残りのメンバーも全員、ボトムスはゴールドでそろえていました。

◆黒×白でシックに 品格とミステリアス感を印象付け

Dolce&Gabbana 2024年春夏コレクション
Dolce&Gabbana 2024年春夏コレクション写真:REX/アフロ

色使いで多かったのは、黒と白のバイカラー(2色使い)です。かつての『紅白』はチームカラーを着るという「お約束」がありましたが、今回はトーンダウン。不安定な国際情勢を背景に、モノトーンが重視されるのが今の流れ。流行に左右されない「タイムレス」のトレンドも「黒×白」の人気を押し上げています。

櫻坂46はエナメル(パテントレザー)風素材で仕立てたビスチェトップスのオールインワンを着用。オールインワンは今回の人気アイテムです。ワイドパンツの上から巻きスカート的に重ね着。白シャツにネクタイを添えて、襟元にはシルバージュエリーも。ハーフグローブを着けて、全体にミステリアスなムードを帯びさせていました。

LE SSERAFIMはベアショルダーでミニ丈のゴシックロリータ風にロック感を上乗せ。甘くないゴスルックに仕上げました。黒と白で統一しながらも、それぞれはあえてディテールをずらしています。ジュエルモチーフやロンググローブ、ヘッドリボンなどで妖艶さを引き出していました。

伊藤蘭は白いレースのトップスに、吊りコルセットを重ねました。シルエットがワンショルダーで、裾がアシンメトリーに流れる流麗な着映え。ボトムスは黒いレギンスでしなやかに引き締めました。

薬師丸ひろ子はベアトップ(両肩出し)の黒いトップスでシックな風情。千鳥格子のスカートは優美な裾広がり。上半身をタイトに仕上げる「フィット&フレア」のお手本のよう。ビッグネックレスもレディー感を引き立てていました。

YOASOBIのikuraはつやめきを帯びた黒いビスチェ風ベストを着用。シャーリングを施したロングスカートで合わせました。黒1色の装いですが、異素材でコントラストを際立たせた着こなしです。Ayaseは黒系のシャツにカーゴパンツというストイックな雰囲気の出で立ちでした。

◆多彩なテイストミックス ダイバーシティを表現

Maison Margiela 2024年春夏コレクション
Maison Margiela 2024年春夏コレクション提供:IMAXtree/アフロ

ダイバーシティ(多様性)は近年の最も重要なファッションテーマの一つと言えます。いろいろな「違い」を乗り越えていくという点では、今回の『紅白』が掲げた「ボーダレス」に通じる考え方です。出場者たちは思い思いのテイストミックスを通して、ダイバーシティの大切さを表現していたように見えました。

緑黄色社会はそれぞれが異なる見え具合の服を選ぶ一方で、アシンメトリーという共通点を設けて、「不ぞろいの素晴らしさ」を示しました。長屋晴子は白いキャンバスに描いた水彩画のようなマルチカラーのアート風ペイントを施した白のアシンメトリーワンピースを着用。peppeはジャケットの半分にゴールドのスパンコールを配した、左右が異なるデザインのジャケットをまといました。ギターの小林壱誓は左右でオリーブとホワイトに色が分かれたシャツを着ていました。

ヒット曲『ちゅ、多様性。』を歌ったanoはレインボーカラーのハートモチーフをワンピースに迎えて、タイトル通りの多様性を示しました。レインボーは多様性や寛容のシンボルカラーです。斜めにたすき掛けで添えたビッグモチーフには「EVERYBODY SHOULD BE ACCEPTED」の言葉がつづられています。王冠ヘッドピースやルーズソックスなどの小物やディテールも意味ありげ。スカート部分を膨らませるパニエやリボン、袖フレア、きらめきビーズなど、多彩な仕掛けが盛りだくさんです。

全体を締めくくる大トリを任されたMISIAはテーマにふさわしい、カルチャーミックス系の衣装をまといました。着物風にも沖縄、東南アジア風にも映るオリエンタルエスニックの風情。肩口が重層的に張り出した異形のレッドドレスは性別や地域など、様々な境界線を取り払うかのようなパワーを宿していました。

◆デニムonデニムやパンツスーツでハンサムな装い

STELLA McCARTNEY 2024年春夏コレクション
STELLA McCARTNEY 2024年春夏コレクション写真:REX/アフロ

紅組ではメンズライクな着こなしが増えました。実際のファッショントレンドでもメンズ物を好んで着る女性が多くなり、ハンサムなスタイリングが支持を広げています。

椎名林檎はピンクの着物を前開けで羽織って紅白を交わらせました。羽織り物を脱ぐと、オーバーサイズのストライプ柄パンツスーツという、デビュー当時にあたる90年代風の出で立ちに様変わり。サスペンダーや赤い裏地、とげとげピアスがフェティッシュでマスキュリン。「グッチ(GUCCI)」のサングラスが横顔にクールさを添えていました。

あいみょんはボディの輪郭を映し出さないビッグシルエットのデニム上下をチョイス。ジャケットはオーバーサイズのクロップド丈。ボトムスはワイドパンツ。襟周りを赤く彩ったリンガーTシャツが気負わないボヘミアンムードを示していました。

シルエットしか公開されなかったAdoはベルボトムのパンツでした。ヒッピーライクな装いに加え、外見に依存しない「歌い手」としてのパフォーマンスにも自分らしさを重んじる意識がうかがえます。

◆スクールガール風に リセ&プレッピーで上品キュート

CELINE 2024年春夏コレクション
CELINE 2024年春夏コレクション提供:Launchmetrics/spotlight/アフロ

高校生や大学生を思わせる、若々しいイメージの装いが世代を超えて支持されています。流行語にもなった「Y2K」は2000年代の着こなしを現代的にリバイバル。フランスの女子高生から写し取った「リセ」や、アメリカの大学生が好んだ着崩しトラッドの「プレッピー」も人気が復活しています。

全体のトップバッターだった「新しい学校のリーダーズ」はグループの「制服」であるセーラー服を赤ベースのバージョンに変えて登場しました。『紅白』にふさわしく、ところどころに白を差しています。「青春日本代表」の漢字モチーフがウィットフル。足元には赤白ボーダー柄を配したラインソックスを迎えて、テーマのボーダレスを印象付けていました。

Perfumeはミニボトムスの上に白のプリーツの巻きスカートを重ねてエアリーなムードに。トップスは白のノースリーブで、コンパクトに仕上げました。オレンジと黒を差し色使い。足元は白のハイヒールパンプスでフェミニンに整えています。

NewJeansはプレッピーとリセをミックスしたようなスクールガール風ルックを披露。ネクタイを締める「タイドアップ」のトレンドを持ち込みました。ボトムスはチェック柄のミニスカート。足元はハイソックスと黒革靴。フレッシュなイメージのチラ腹見せを織り込んでいます。

◆大人感を和服とドレスで表現 ディテールで視線キャッチ

坂本冬美は花柄の着物をまといました。今回はテーマの関係からか、花柄は減り、マルチカラーや黒、ゴールドが増えた印象です。髪飾りがゴージャス。帯はゴールド。縁取りに配した赤が利いています。

石川さゆりは黒地の着物で堂々の着姿。ゴールドの帯に赤の帯締めが彩りを加えて、抑えた美しさを引き出しました。

天童よしみは緑のフェザー風衣装に身を包んで登場。冠にはミニチュアの天童よしみ像が仕込まれていました。

水森かおりはワインレッドのデコラティブなドレスを着て歌い始めました。袖はパフ形で、丈はスーパーロング。やがてドミノが全部倒れると、スリーブレスでフレア裾の白いドレスに様変わりしました。

◆ブラック主体でスタイリッシュに 渋さが光るメンズルック

TOM FORD 2024年春夏コレクション
TOM FORD 2024年春夏コレクション写真:REX/アフロ

Stray Kidsは黒主体の装いでそろえました。きらめきパーツを宿したウエアはメンバーそれぞれで異なり、多様性を感じさせます。細身のパンツをごつめのブーツに収める着方がアイキャッチー。レザーパンツは膝に破れ加工も。短め丈のジャケットにネクタイを締めるタイドアップでスタイリッシュに決めました。

キタニタツヤは左右に白モチーフが施された黒ジャケットにダークカラーのワイドパンツというクールな出で立ち。パンツはベロア風のつやめきを帯びています。口のピアスがフェティッシュな雰囲気を漂わせていました。

日本レコード大賞を受賞したMrs. GREEN APPLEはロマンティックなパンツスーツで目を引きました。襟が白い黒ジャケットに、ブーツカットのドレッシーなパンツをマッチング。チャンキーヒールのブーツも光りました。

型にはまらない着こなしが巧みな星野源はオーバーサイズ気味のロングコートを選びました。ピンホールカラーの白シャツに細いネクタイを締めて、おしゃれ感の高い襟元に整えています。

エレファントカシマシの宮本浩次は細身の黒スーツ姿。白シャツのボタンを多めに開け、裾をウエストアウトしてルーズめに着こなしていました。

Official髭男dismは黒と白のツートーンで全体をまとめました。刺繍や襟飾りなどでそれぞれ巧みに見た目をずらしています。

異色の装いを選んだのは純烈。全身をQRコードで埋め尽くしたハイネックのスーツを着ていました。ロング丈のジャケットがダンスの動感を引き立てていました。

今回の目玉的な存在と位置付けられた寺尾聰はダークトーンのスーツで渋く決めました。ベストはボタン配置がアシンメトリー。ポケットチーフはベストと近い柄。トレードマークの黒サングラスは健在です。

さだまさしは黒と白でまとめたコンサートルックを披露。ビーズのきらめきを宿したタキシード風の総ペイズリー柄ジャケットが主役です。

◆ホワイトルックにひねり メンズもエレガントに

Jil Sander 2024年春夏コレクション
Jil Sander 2024年春夏コレクション写真:REX/アフロ

白組のキーカラーである白では、これまで以上にひねりを加えた装いが相次ぎました。SEVENTEENはホワイト主体のミニマルな出で立ちでクリーンなムードを強めました。ドレスシャツも靴も白。でも、シャツのディテールは立ち襟だったり、フリル袖だったりと、それぞれに凝っています。今回は多様性に通じるテーマだけに、全員が全く同じ服装をというグループはほとんど見当たらず、個々にバリエーションを見せています。

デザイン性の高い衣装を選んだのは大泉洋。白でまとめたルックのジャケットは身頃を2枚重ねたかのよう。パンツはスカートを重ねて、ジェンダーレスな表情に。一見、普通に見えて、ちっとも普通じゃないという、トリッキーな装いを披露しました。

毎回、ダンディな出で立ちの鈴木雅之は白のダブルブレストのスーツで固めました。スタッズをちりばめて、静かなゴージャスを忍び込ませています。ネクタイとポケットチーフは黒でそろえ、靴は白×黒と、モノトーンのたたずまいにまとめ上げています。

お笑いコンビ「かまいたち」の濱家隆一、元乃木坂46の生田絵梨花によるユニット「ハマいく」。濱家は白のストライプ柄スリーピース・スーツで出演。生田は両袖が透ける白ブラウスに、レインボーカラーのプリーツスカートをまといました。

三山ひろしは伝統的な白組衣装の白スーツを着用。地模様やきらめき加工を施しています。

◆ピンクや大胆柄でオンリーワン 意外感をプラス

AMIRI 2024年春夏コレクション
AMIRI 2024年春夏コレクション写真:IMAXtree/アフロ

白組の先陣はJO1が務め、『NEWSmile』を披露しました。白組はホワイト系の衣装が多くなりますが、こちらは淡いピンクのスーツをチョイス。ボーダレスのテーマに似つかわしく、赤と白を融け合わせています。色調は統一しながらも、サテン風やツイード調など、それぞれに生地の質感をずらして多様性を演出。クロップド(短め)丈のジャケットはトレンドアイテム。キラキラのモチーフを随所にあしらって、光輝をまとったのは、今回の目立った新傾向です。袖先にシャツをあふれさせる小技も目を引きました。

10-FEETはグランジライクな装い。赤いチェック柄シャツにカーゴパンツを引き合わせました。サイドラインが走るブルゾン・セットアップも投入。スポーツとストリートを交差させています。

YOSHIKIはボタニカル柄のロングコートを羽織ってステージへ。ボトムスはレザーパンツでチョーカーがアクセントに利かせたエレガントなロックスタイル。hydeは白いファーアウターを羽織って、華やかなロック感をまとっています。清春はファーのアウターにハットとサングラスを添えて清春流のグラマラスに。松岡充はオールブラックでクールなロッカースタイルにまとめ上げました。

◆ディテールに込める自分らしさ きらめきモチーフやアート技

LOUIS VUITTON 2024年春夏コレクション
LOUIS VUITTON 2024年春夏コレクション写真:REX/アフロ

DIOR 2024年春夏コレクション
DIOR 2024年春夏コレクション写真:REX/アフロ

BE:FIRSTはオーバーサイズ気味のデニムジャケットをバサッと羽織って、ダンスを華やがせました。リメイク風のダメージ加工を施し、ビジュウもあしらって、グラマラスな風情に。黒いパンツがレッグラインをシャープに描き出しました。ネックレスがほのかな色気を薫らせます。量感が豊かな黒スニーカー風のブーツが脚の動きを引き立てていました。

郷ひろみは複数の色を響き合わせた、淡いマルチカラーのジャケットを着て、ボーダレス感を全身で表現。アクションペインティング風のアートフルな色合いです。ピンクで彩ったキャンバススニーカーは紅白ミックスの色合い。片耳のピアスも印象的でした。

藤井フミヤは赤地の礼服風ジャケットで『紅白』らしい装いに。襟や裾に黄色をトリミング。胸元にはリボンを迎えて、ジェンダーレス感を醸し出しました。ボトムスは細身の黒パンツです。

フミヤと一緒に歌った有吉弘行は赤と黄色のスタジアムジャンパー風ニットジャケットを選びました。胸には「12」のナンバーをあしらっています。フミヤと2人で配色をそろえた粋なリンクコーディネートです。

山内惠介はベロア調のファーコートで歌い始め、曲の途中で着替えて、黒主体の細身ルックに変身。ウエストを絞って、細感を印象づけました。きらめきパーツをあしらったカマーバンドも目を引きました。

クイーン+アダム・ランバートのランバートは黒い総スパンコールのジャケットとベルボトムのパンツという、グラムロック風の出で立ち。ブライアン・メイはシルバージャケットの胸に漢字で「和」と刺繍。日本愛を示しました。

◆ジェンダーレスで自由感 性別越えたミックスコーディネート

DRIES VAN NOTEN 2024年春夏コレクション
DRIES VAN NOTEN 2024年春夏コレクション写真:REX/アフロ

性別にとらわれない「ジェンダーレス」はファッションの世界でも大きなうねりに育ってきました。『紅白』がはらむ分断や対立の構図を崩すかのように、出場者たちは色やフォルムでメンズとウィメンズをクロスオーバー。時代の空気を衣装に込めていました。

ゆずは見るからにさわやかなウォーターブルーのセットアップ姿。シャツチュニックとスカート付きパンツが動きを加えています。

すとぷりは和服っぽい衣装を選びました。袴ライクなボトムスに、襟にファーを配したショートジャケットをオン。コルセット風のウエストベルトを巻いています。

白組のトリを務めた福山雅治は淡いグリーンのスーツで穏やかでエレガントなムードを漂わせました。胸元にはリボンを迎えています。後半はロング丈のファーコートをオン。こちらも同じグリーンです。

◆2024年春夏は「ボーダレス」気分で 装いからモチベも上昇

今回の『紅白』では大舞台にふさわしい華やかを意識しながらも、やりすぎを避ける節度や品格が全体のトーンとなった感じが見て取れます。主張を抑えつつ、リッチ感を忍び込ませる「クワイエットラグジュアリー」の雰囲気も持ち込まれています。例年よりも静かな雰囲気の衣装からは、23年の音楽界で相次いだ物故者をしのぶ気持ちがうかがえました。世界に目を向けると、各地でいさかいや混乱が続いていることも、「お祭り気分」を控えた背景にありそうです。

その一方で、きらめきやシアーなどのおしゃれトレンドをしっかり先取りした衣装が目立ったのもさすがに『紅白』らしいところ。こうしたディテールは着た本人のモチベーショを高める効果も期待できます。ミニマルなシルエットに手仕事技や上質素材で特別感をまとわせる演出は、見た目の印象が強すぎないので、私たちの着こなしにも取り入れやすいはず。共通テーマの「ボーダレス」は自分らしいおしゃれの幅を広げてくれるから、今年の着こなしに生かしてみてはいかがでしょう。

(関連サイト)

第74回NHK紅白歌合戦

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ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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