グレタさんに日本から「最悪のプレゼント」―嘆願聞き入れず、背景に岸田政権
地球温暖化防止を訴えるスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんにとっては、おそらく、最悪のクリスマスプレゼントであったのかもしれない。昨年12月24日、中国電力および四国電力がベトナムでの建設が予定されるブンアン2石炭火力発電事業への参画を決定したのだ。同事業は、グレタさん含め環境NGOや温暖化防止をもとめる若者達などから、その見直しが求められてきた。中国電力と四国電力は「国内電気事業で培ってきた技術・ノウハウを活用」「安定的・効率的な運転を支援」「電力の安定供給や低炭素社会の実現へ貢献」と主張するものの、石油や天然ガスによる火力発電と比べてもCO2排出量が多い石炭火力発電の廃止をもとめる国際的な流れは強まっている。こうした流れに逆行する日本の動きの背景にあるのは、岸田政権の方針だ。
○日本の公的資金が使われる事業にグレタさんが批判
ブンアン2石炭火力発電事業(以下、ブンアン2)は、ベトナム中北部ハティン省に石炭火力発電ユニットを2基、計120万キロワットを建設し、25年間にわたりベトナム国営電力公社に売電するというもの。三菱商事の子会社や韓国電力公社等が出資する会社が事業主体となり、日本の政府系金融機関の国際協力銀行(JBIC)も、2020年末、日本のメガバンクなどと約17億6700万ドル(約1800億円)の協調融資をすると発表している。そして、昨年12月24日、かねてから事業への関与が報じられていた中国電力と四国電力がブンアン2への参画を公表した。
ブンアン2については、昨年1月、日本と韓国、ベトナムの若者達と共にグレタさんも反対し、同事業への融資をやめるよう、YouTubeやツイッター等で公開した動画で訴えている。
この動画の中でグレタさんは、
等と日本政府の姿勢を批判した。上述の通り、ブンアン2には、日本の政府系金融機関であるJBICが融資しており、これについて、当時環境大臣であった小泉進次郎氏が政府の石炭火力発電輸出に関する条件にも反すると指摘したものの、菅政権はブンアン2支援を見直すことはなかった。
○脱石炭に逆行する岸田政権
その後、昨年、英国グラスゴーで開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)では「排出削減対策を講じていない石炭火力発電所の削減および非効率的な化石燃料補助金の段階的廃止」が成果文書の中に盛り込まれた(関連情報)。また、COP26では英国の働きかけで、石炭火力発電の廃止及び新規建設停止する声明に46カ国が賛同し署名している(日本は不署名)。この中にはベトナムも含まれている。つまり、ブンアン2はベトナムの脱石炭の動きにも逆行するのだ。
日本は、ベトナムの他、インドネシアやバングラデシュでも新規石炭火力発電の建設を推進している。その大義名分となっているのが、岸田首相がCOP26でアピールした「ゼロエミ火力」だ。つまり、火力発電所から排出されるCO2を回収し、地下や海底に貯留したり、素材や燃料として有効利用したりするCCUS技術の活用や、燃焼時にCO2を排出しないアンモニアや水素を石炭に混ぜて燃やす(混焼)ことにより、火力発電の低炭素化、脱炭素化を目指すというものである。実際、ブンアン2に参画する企業の一つである三菱商事も「アンモニア・水素混焼するなどして低炭素化の可能性を追求する」としている。だが、CCUSも、アンモニア・水素混焼も、確立した技術ではなく多額のコストがかかる。また、アンモニア・水素混焼は、現状では石炭に混ぜる割合が低く、CO2削減効果は小さい上、アンモニアや水素を生産する際に天然ガスや石炭を使うため、結局、大量のCO2を排出してしまう。
太陽光や風力などの再生可能エネルギーで水素やアンモニアを生産し混焼に利用することも可能であるが、それなら最初から再エネを使って発電した方がよい。つまり、「ゼロエミ火力」は幻想であり、石炭火力発電の延命措置に過ぎないのであって、それは早々に露見し、COP26でも環境NGOなどから岸田首相は批判を浴びることとなった。
○嫌われ者になるより、真の貢献を
岸田首相はアジアにおける「ゼロエミ火力」推進を支援するとしており、ますます「日本は世界全体のCO2排出抑制を妨げている」というグレタさんの指摘通りの状況となっているのだ。だが、支援するのであれば、再生可能エネルギーだろう。特に地熱発電に関する技術は、今なお日本は世界トップレベルを維持している。また、農業と共存するかたちで太陽光発電を行うソーラーシェアリングも極めて有望だ(関連記事)。公費を投じてCO2排出を増加させ、世界の嫌われ者となるより、再エネ普及の支援を行う方が日本の果たす役割としてふさわしい。民間の意識改革も必要だ。既に、東芝や伊藤忠商事などは石炭関連の事業からの撤退を表明している。三菱商事や中国電力、四国電力も、ブンアン2を断念し、ビジネスの脱炭素化へ舵を切るべきだろう。
(了)