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西城秀樹さんの生き様をみて、ファラさんや尊厳死のことを考えた あなたは何のために闘っていますか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
4月、ハワイ州は尊厳死を認める米7番目の州に。写真はdailykos.comより

 歌手の西城秀樹さんの告別式が執り行われました。1万人という多くのファンの方々が参列したのは、みな西城さんの生き様に励まされてきたからでしょう。

 脳梗塞に冒された後、過酷なリハビリに励み、後遺症を克服すべく闘っていたという西城さん。その姿は、筆者に、あるハリウッドスターを思い出させました。2009年6月に他界したファラ・フォーセットさんです。

ありのままを曝け出す

 人気テレビドラマ「チャーリーズ・エンジェル」で人気を得たファラさんは、2006年に肛門癌が発見され、その後、癌が肝臓にも転移したため、闘病していました。アメリカでは受けられない治療を受けるためドイツに行ってレーザー治療を受け、いったん癌は消えたものの再発、深刻な状態でした。

 しかし、そんな状態の自分自身をファラさんは撮影させたのです。シンボルだったセクシーなブロンドヘアが抗がん剤治療のために抜け落ちるところも、治療の副作用で洗面器に吐き出すところも、治療の痛みから足をバタつかせている姿も進んで撮らせました。

 カメラを回したのは友人のライアン・オニールさんやファラさんの親友。撮影に躊躇する彼らを急き立てながら、ファラさんはただカメラを回させました。末期癌の苦しみと闘う自分自身の姿を曝け出したのです。撮影されたドキュメンタリー「ファラズ・ストーリー」はテレビで放送され、多くの人々の涙を誘いました。

 西城さんもまた自らを曝け出していました。

 脳梗塞で倒れ、過酷なリハビリを続けながらも、ステージに立ちました。自慢の長い脚を引きずるように歩き、激しく動くことができなくても、「ありのままの姿を見せたい」と言って、麻痺の残る身体で歌い続けました。

 闘病中、ろれつが回らずたどたどしくしか話せなくても、右手の震えが止まらなくても、包み隠すことなく、インタビューに一生懸命に応じていたといいます。

苦しむ姿はトラウマを与える

 自分自身を曝け出した西城さんやファラさんの生き様を考えながら、筆者は、昨年インタビューした、末期大腸癌に冒されている、あるアメリカ人女性のことを思い出しました。

 アメリカでは尊厳死(日本では一般的に“安楽死”と呼ばれていますが)を認める州が増えており、この4月には、ハワイ州でも尊厳死法案が可決されましたが、その女性も尊厳死することを希望していました。彼女はその理由について、こんなふうに話していました。

「末期癌の苦しみから解放されたいことはもちろんですが、苦しむ姿を家族に見られたくないし、見せたくないんです。苦しむ姿はそれを目にする人々にトラウマを与えます。人生最後は安らかな姿を見せて終わりたいんです」

 人は誰しも自身への尊厳があります。家族や友人への気遣いやリスペクトもあるでしょう。不自由な姿や苦しむ姿を愛する人には見せたくないかもしれません。彼女の話はとても納得できるものでした。

 しかし、ファラさんや西城さんのように、苦しくてもありのままの自分を曝け出し、ありのままの自分と闘う2人の姿が、いつまでも心を打ち続けるのはなぜでしょう?

個人主義的な自立か、助け合いか?

 尊厳死に反対するある医師はこう話していました。

「尊厳死支持者たちは“コントロールできない痛み”があることを理由に尊厳死法案を支持しています。しかし、末期の痛みは大半抑えられるのです。尊厳死支持者たちが法案を支持する背後には、“自分で自分の人生をコントロールしてきたので、人には頼りたくない”という個人主義的な考え方があると思います。彼らは痛みというよりは、誰かに頼り、誰かの重荷になることを恐れているのです」

 また、尊厳死に反対する、あるリベラル派の社会運動家の女性はこう訴えていました。

「尊厳死法案は人の自立性を重視している法案です。そして、自立性を重んじているアメリカでは、助け合うという価値観が欠如しています。尊厳死で安易に問題を解決するのではなく、人々が助け合えるようなセーフティー・ネットを作ることの方が重要だと思うんです」

 筆者は、決して、尊厳死を否定しているわけではありません。むしろ、“死ぬ権利”を選択する自由はあっていいと考える尊厳死支持者です。それでも、尊厳死に反対する2人の意見を聞いて、はっとさせられるものがありました。

 自分で自分の人生をコントロールすることや人に頼らず自立する姿勢は重要ですが、それを重んじるあまり、人と繋がって助け合うという姿勢が、社会には欠如しているのではないかと。

 しかし、西城さんやファラさんは、目の前の苦難と闘うという生き様を曝け出すことで、私たちと強く繋がってくれました。そうすることで、ともすれば、“自立という、ある種の孤独”の中で元気を失くしている私たちを助けてくれたような気がするのです。

 西城さんはこう言っていたと言います。

「ありのままを出さないと。そうすることによって、皆さんに元気を出してもらおうと思って」

 ファラさんはこう問いかけて、「ファラズ・ストーリー」のラストを結んでいました。

 “What are you fighting for?” 

 あなたは何のために闘っていますか?

 元気を出そう。闘おう。

 青い空の上から、今も、そんな声が聞こえてくるような気がしてなりません。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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