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映画、愛するゆえの苦言。内田「ロイヤリティ1.75%は世界最低」アダム「漫画原作では海外へ行けない」

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
『獣道』の1シーン。若者を搾取する同じシステムが映画製作者を搾取している……

昨年10月シッチェス国際ファンタスティック映画祭に『獣道』を出品した内田英治監督にスペインメディア2社(CineAsia、Asiateca)とともに共同インタビューを行った。その前半はここで紹介したが、後半はプロデューサーを務めたアダム・トレル氏(英国の映画製作・配給会社「サードウィンドウフィルムズ」代表)にも参加してもらい、日本映画界の問題点について大いに語ってもらった。

彼らの言葉から浮き彫りになったのは、スターシステムと監督軽視の体質、そして粗製乱造の現状……。2018年、日本映画に新しい朝日が昇ることを期待してここに一挙掲載する。

聞き手:グロリア・フェルナンデス(CineAsia代表)

――まず内田監督とアダムさんはどう知り合ったのですか? それとアダムさんはなぜ内田さんの作品をプロデュースしようと思ったのですか?

内田「彼がもともとやっていたロンドンのレインダンス映画祭(インディペンデント映画の映画祭)に僕が行ってそこで会うはずだったんだけど会えなくて、東京で彼のバースデイパーティーで会いました」

アダム「そのレインダンス映画祭でも上映された『グレイトフルデッド』という映画を見て、凄い面白いと思って配給することになった。日本公開時に2人で話をしていて内田さんが『アメリカで映画を撮りたい』と言われて、『俺は全然興味ない。アメリカの映画なんか。逆に日本のドメスティック映画が好き』と言って、それで一緒に『下衆の愛』を作ることになった」

「『誰が出演者なの?』、『原作の小説があるのか?』しか聞いてこない」(内田)

内田「日本人のプロデューサーとも仕事をしたことがありますけどやっぱり凄い違う。外国の映画祭で外国人のプロデューサーと話しても凄い違うんです。

一番わかりやすく違うのが、日本のプロデューサーは、『こういう企画の映画をやりたい』と言った時に絶対言ってくることが『誰が出演者なの? 誰がメインアクターなの?』。これだけ。あとは『原作の小説があるのか?』とか。この2つしか聞いてこない。外国の人たちは『なんでそれやりたいの?』って絶対に聞いてくる。そういうのを聞かれたのも初めてだった」

アダム「日本と世界で一番違うのは日本はスターの映画で海外はほとんどが監督の映画。『○○主演の映画だから』と海外の配給会社に言ってこられても……。海外では日本のアイドルなんてまったく知らない

内田「だから日本で映画を撮るのはある意味凄い簡単なんですよ。有名な人が出るのならすぐ撮れる

その度に泣きますよ。やっぱり映画が凄い好きだから、情けなくて。でもそういうプロデューサーたちもみんな映画は好きなんだけど、システムに流されている。本当は多分みんなダサいなと思っているんですよ。それはもう馬鹿じゃないから。アイドルなんてどうでも良いと思っている。でも、システムの中にいるサラリーマンだから。みんなサラリーマンプロデューサーだからシステムの中に生きざるを得ない」

「日本には批評家がいないから、良いか悪いかという評価も意味をなさない」(アダム)

アダム「俺も日本でプロデューサーになってから本当に辞めたい、全部。意味ない。でも日本が好きだから……。海外では『ロッテン・トマト』(映画レビューまとめサイト)がブームになっていて、そこの評価が低ければ映画は駄目になるけど、日本は関係ない。日本には批評家がいないから、良いか悪いかという評価も意味をなさない。日本で一番大事なのはこの人、この原作、この配給というフォーミュラ(規格)、それだけ」

若者は喧嘩を売る。日本映画界の大人も喧嘩を売るべきなのか。(写真はすべて『獣道』から。すべてシッチェス国際ファンタスティック映画祭提供)
若者は喧嘩を売る。日本映画界の大人も喧嘩を売るべきなのか。(写真はすべて『獣道』から。すべてシッチェス国際ファンタスティック映画祭提供)

――昨年(2016年)の東京国際映画祭で日本の映画産業についてのパネルディスカッションがあったと思うのですが、それに参加したアダムさんが日本のシステムについて激しく批判した。私はそれは正しいと思う。なぜなら、海外に作品を売りたいのならシステムを変えないといけないし、日本のプロデューサーや日本の配給会社と働くのは本当に骨が折れる。資料はなかなか送ってこないし、メールの返事が3カ月後ということもあるんですから。

内田「でも、僕は変わらないと思います。また暗い話ですが……。一番悲しいのは若い監督たちが知らない。それ(日本のやり方)が普通だと思っている。

僕も監督になる夢があった頃から『監督になる? 貧乏になるよ』って100%言われるんですよ。でも、今なってわかるんですけど、システムがちゃんとしていれば絶対に貧乏じゃないんですよ。会社がお金を吸い上げているからみんな貧乏になるだけで。ちゃんとやったら絶対に大丈夫なのに、搾取されていることをみんな知らない。だから、アダムとかみなさん(我われ取材者)みたいな人が発信してくれれば絶対にいいんですよ、知らないから。日本はクローズな世界なんだよっていうのも知らないから。僕も知らなかったし」

――でも、矛盾してますよね。日本側は海外に映画を当然売りたいと思っている。なのに、やたらと手続きをややこしくする。

内田「海外に売りたいって、言っている? まったく興味がないんじゃないかな

「クールジャパンがホットだからチャンスかもしれない」(アダム)

アダム「河瀬監督や是枝監督は海外で成功して、やっぱり海外はいい、映画が好きな人がたくさんいると思って、日本に帰って来てちょっと違う、と感じている。彼らのようなビッグネームが、日本のやり方を変えたいと言えば影響される人も出て来る。

だけど、問題は今は彼ら2人しかいないこと。もっともっと日本の監督が海外に出て行って海外の文化を知って、日本のプロデューサーや製作者に海外のようにやりたい、と言うようにならないといけない。今は、東京オリンピックのために日本の良い物を世界に紹介したい、クールジャパンがホットだからチャンスかもしれない。クールジャパンは映画だと。日本の映画が面白くなくて海外に行けないとなれば、もっと面白い映画を作らないと、というのも出て来るかも。だからチャンスはある」

――日本の映画が面白くない、というのはいつからのことでしょう?

内田「70年代は面白かったけど」

アダム「90年代の終わりから2000年初めかな。三池監督が出て来た時代は、結構オリジナルなものが一杯あった。今の日本の大作は海外に出て行けなくなっている。漫画やテレビ番組が原作だから海外の人にはわからないから。海外の人は河瀬監督や是枝監督、北野武監督や三池監督や園子温監督の作品を見て『凄い』と思っているけど、海外に行けない日本映画は見てないから

若者を利用するヤクザ。日本の映画監督は誰に利用されているのか?
若者を利用するヤクザ。日本の映画監督は誰に利用されているのか?

「尊敬できる監督が欲しい」「ジョニー・トー監督のような人は今日本にいない」(内田)

内田「尊敬できる監督が欲しいですね。僕らみたいな若い、下の者からすると。例えばジョニー・トー監督のような人は今日本にいないんで。みんな日本の若い監督たちは韓国の監督が好きなんですよね。悲しくなってしまいます。

それはやっぱり日本のビッグネームの監督たちもシステムが悪くてお金がないから、自分が食っていけることだけを常に考えてしまう。若い監督たちのことを一切考えないからどんどんシステムが悪くなってしまう。

そんな中で、変えようとして今2カ月に1回監督たちだけで集まるグループがあるんです。それは山田洋次さんが主催しているんですけど、是枝さんもいるし塚本晋也さんもいるし監督だけで50人ぐらいいて話し合いをする。そういうことが少しずつ始まっているんですけど難しいですね」

アダム「海外の監督は自分のマーケティングがうまいし、園さんと塚本さん以外はそういうこともあまり知らない。園さんと塚本さんは凄く海外のことを考えていて、だから海外で成功している。日本の監督は海外を視野に入れていないだけでなくて、配給マーケティングのことを知らない

「『監督はマーケティングとかお金のことは考えちゃ駄目』と言われました。これが嘘」(内田)

内田「つい1カ月前にプロデューサーに『監督はマーケティングとかお金のことは考えちゃ駄目』と言われました。これが嘘ですよ。みんなにずっと同じことを言われて、貧乏しながら映画のことだけ考えればいいんだ、と。これも悪い習慣です。悪く言えば、利用されているということ。外国の映画祭を回ると外国の監督はみんなお金のことを考えているし、みんなお金を持っている

アダム「日本のプロデューサーは会社にお金を出させることは考えても、監督と一緒になってマーケティングのことを考えたりはしない。日本の会社員でないプロデューサーでさえ、なんでこんなダサいポスターになったの? なんで音がちゃんとミックスされていないの?と聞くと他人のせいにしたりする。それは誰のせいでもなく、あんた(プロデューサー)のせい!

内田さんみたいな監督は日本にほとんどいない。多分悪いプロデューサーに当たったせいで自分で勉強していた。内田さんは本当にプロデューサー。でも、そうでもない監督でも良いプロデューサーなら守ってくれるんだけど、良いプロデューサーもいない。園さんや塚本さんや内田さんは自分の映画のプロデュースもしている。ポスターのデザインを自分でやったり」

暴露されたロイヤリティ。その低さはもっと知られていい
暴露されたロイヤリティ。その低さはもっと知られていい

内田「もし書いてくれるんだったら、これを書いてほしいんですけど、日本の監督のロイヤリティをみなさん知っていますか? みんな同じで決まっているんですけど。DVDやインターネットなどの二次使用の時で(売上高の)1.75%です。たぶん世界で一番低い。一次使用時、映画館の公開からの配分はゼロです。ギャラ(固定給)があるけど凄く安い」

アダム「これがアメリカだったらビデオ・オン・デマンドが売れているからそれでも大丈夫なんだけど、日本はDVD売れないから」

内田「それは映画会社は儲かるだろうってシステムなんですよ」

「映画がヒットしたらみんなでシェアできるようにすれば、日本映画は変われる」(アダム)

アダム「製作費が低くてギャラが低いのは仕方がないけど、成功報酬がないとやる気が出ない。もし映画がヒットしたらみんなでシェアできるようにすれば、日本映画は変われる。そうでないから1年に5本撮るような監督も出てくる。お金がないから急いで一杯撮らないといけないから、ちゃんと撮っていない。もっとお金があれば2年に1本のペースで撮れるのに」

――凄いレクチャーで知らなかった日本映画界の一面が良くわかりました。今後海外でもこういう情報を共有していきたいと思います。今日はどうも長時間にわたってありがとうございました。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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