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「映画に出た若者にカタロニアの青い空を見てほしい」。『獣道』の内田英治監督が語る日本の光と影とは?

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
ホラーでもなくファンタスティックでもないが闇を描いて選出された。写真は映画祭提供

シッチェス映画祭レポート3回目。映画祭の3、4日目、10月7日と8日の2回にわたって内田英治監督の『獣道』が上映された。スペインではあまり知られていない日本の暗部をコメディタッチに取り上げたこの作品。舞台挨拶時の「映画に出た若者たちにカタロニアの青い空を見てほしい」という内田監督の言葉が印象的だった。自身の経験を交えて、大人に利用される日本の若者の現状をスペインメディア2社(CineAsia、Asiateca)と私に語ってくれた。

「凄く嫌になった。いいじゃんどっちでも!」

――私が内田監督のことを好きなのは、常にインデペンデントムービーのスタンスを守ってきたところなんですが、これまでに流行の漫画の実写版を撮ろうとか、コマーシャル側の誘惑には負けなかったんですか?

「僕はテレビがスタートなのでインデペンデントを始めた方が最近なんですね。もともとはオリジナル脚本ではなくてプロデューサーが用意した脚本を撮っていたのですけど、それが結構ストレスになるんでインデペンデントの方に入ったんです。だから14年間映画を撮ってきて半分くらいはタレントがメインのコマーシャルなものです」

――特別なきっかけがあったんですか?

「7年前にアクションムービーをやったんです。プロデューサーが凄くうるさい人でシューティングのシーンがあって(銃は)こう(下から上ではなく上から下へ)動かすんだ、と言われたんですね。その時、僕は凄く嫌になったんです。いいじゃんどっちでも!(笑) 日本のテレビだとプロデューサーの力が強くて、監督も俳優も彼が全部決めるシステムなんです。その“ピストル事件”の時に予算が小さくてもいいから、自分の脚本で映画を作りたいとインデペンデントの道に入ったんです」

「日本の光と影が女の子に集約をされていた」

――『獣道』についてお伺いします。これ実話がベースになっているんですよね?

「このストーリーを思いついたのは元アダルトビデオ女優の子に会ったのがきっかけです。その子にティーンエージャーの頃の話を聞いたら、お父さんが宗教を転々としていて彼女自身も宗教施設で育っていた。実はこれ日本では結構多くて、周りに聞いたら同じようなケースが3人くらい出て来た。まず、宗教施設で育ったというのに興味を持って映画にしようと思いました。

で、その彼女は、映画でも描かれていますけど、親に捨てられて不良の家で万引きをしながら何年か暮らした後、中流家庭に引き取られまた何年か暮らしている。何と言うか、日本の光と影がその女の子に集約をされていたんですね。だから、これはとても面白いなと」

――実際の不良少年たちも出ているということなんですが。

「山梨の暴走族の子たちです。あのオートバイはなかなかないんです。スペシャルなんで、本人たちに持って来てもらったんです。ただ、困ったのは撮影の日に現場に行ったら警察官が一杯いて、撮影クルーの車のナンバーとかを写真に撮っていた(笑)。現場のプロデューサーに電話が来て撮影を止めてくれと。そんな事件もありました」

「若者にはお金を使わない。選挙権がないから」

――光と影とおっしゃいましたけど、映画では光よりも影の方が多かったと思います。日本の若者はああいう残酷な状況に置かれているとお考えだということですか?

「地方はそうだと思います。アメリカやヨーロッパと同じで若者たちは欲求不満が凄く溜まっているから右傾化している。安倍首相の支持基盤もああいう子たちが多いんですよね。そういうのも面白いと思いました。

映画の中でもあるんですけど、でんでんさん演じるやくざの親分は、高齢者なんで国の税金を一杯使っている。なぜなら彼は選挙権を持っているから。でもティーンエージャーにはお金を使わない。選挙権がないから。映画の中でその親分が『年を早くとった方がいいよ』とコメントするのはそういうことです。

僕はブラジルで生まれ育ったんです。10歳で初めて日本、大分に来て、中学の時の同級生の80%くらいああいう子たちだった。その不良たちのカルチャー――服装もオートバイも――が日本だけの特殊なものでそれをいつか映画にしたいと思っていたんです」

――内田さんもああいう年代があったわけではないですか。今の若者の方がより過酷な状況にあるとお考えですか?

「知ってほしいですね。ただ彼らは知らずに、その情報がないんで。まったく知らないまま大人になって子供を産んで……。本当アメリカとかイギリスと同じ状況だと思います。若者たちにこの映画も見て欲しいんですけど、映画を見る文化がないから、出た暴走族の子たちも見に来ないんですよ。大人たちにうまく利用されているということが少しでもわかればいいんですけど。やっぱり情報もないし知ろうとする文化もないから。

例えば、あの主役の女性がキャバクラで働いていますけど、田舎だと本当に13歳とか14歳でキャバクラ嬢とか普通にいますよ。年齢嘘ついて。こういう問題を真面目にやると多分、誰も見ない映画になるんで(笑)。だからああいうコメディにしました。だから実は凄い社会派映画です(笑)」

――でも、完全なコメディ映画ではないですよね?

「本当はもっと悲惨なんです。あれでもだいぶライトにしたんです」

――もっと悲惨なんですか?

「凄い悲惨です。本当の話は。このまま映画にしたらみんな引くから、日本どういう国だ?と思うだろうから、ライトにしました」

――でも、それは若者全員に言える状況ではないですよね? 日本の若者がみんなそうだというとそうではない。

「それはそうです。地方の裕福ではない層ということです。都市部と地方の差が情報も含めて非常に大きい。いずれはアメリカのようになるんだと思います」

「帰る場所がないから自殺なんてしてしまう」

――悲惨な状況の責任は大人にありますよね?

「もちろんそうです。やっぱり選挙権を持っているおじいちゃん、おばあちゃん重視のお金の使い方になっている。教育にまったくお金をかけていない」

――政府の責任はもちろんですが、映画では親の責任についても厳しく指摘しています。もっとも、日本は1日に14、15時間働き、週末も日曜日が休めればいい方、夏休みが4日間だけというシステムですから、そのシステムを変えないと家庭も変えられないかもしれませんね。

「真面目な話になってしまいますが、日本には欧米のキリスト教のような強い枠がないから、家族が宗教代わりです。僕が子供の頃までは、特にお父さんが強かったんですよね。でも、今は家族が崩壊したので心の拠り所がなくなった。昔はいくら働いても良かったんです。家族というベース、帰る場所があったから。今は帰る場所がないから働いたら働いた分ストレスになって、自殺なんてしてしまう。

――私たちCineAsiaでは日本人の実習生を受け入れているのですが、最終日が近付いてくると彼らは、日本に帰りたくないって泣くんです。

「今映画の世界も問題になっています。日本の映画の現場では18時間撮影していますから。エンタテインメントの世界は働き過ぎとパワハラ、“働かさせ過ぎ”が問題になっています。それでも、みんなが14時間働くならいいんですよ。でも問題なのは大きい会社の人は9時間で帰っちゃう。若い現場の人たちが18時間働いて大きい会社の人にお金を作っている、という構造が一番問題なんです」

「あまり未来がない。だからハッピーにした」

――映画はハッピーエンドでしたが、あれは実話がそうだったのか、それとも内田さんの意向でそうなったんですか?

「本当はアンハッピーエンドだったですよ。実話の方もそうだし脚本もそう。撮影ももうしていたんですよ。いつもそうなんですけど撮影している時に考えが変わってきちゃうんです。前の映画『下衆の愛』の時は逆でハッピーエンドをアンハッピーにしました」

――とはいえ、凄くハッピーというわけでもなく、このストーリーについてはこの終わり方で良かったんでしょうね。

「そうですね。映画界もそうですけどあまり未来がないじゃないですか。だからせめて映画の中ではハッピーにした方がいいんでしょうね。シッチェスに住んでいた方が絶対ハッピーエンドですよ」

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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