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増加するコロナ離婚の陰にある「モラハラへの気づき」

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:PantherMedia/イメージマート)

 私は兵庫県西宮市の「フェリーチェ法律事務所」で離婚弁護士として、日々さまざまな男女問題についてのご相談を受けています。

 日本の離婚原因のトップは、なんと言っても「性格の不一致」

 考え方や価値観が違うことで、すれ違いが生じ、離婚に至るというケースです。

 そんな中、最近、特に離婚原因として増えてきたと感じるのが、モラルハラスメント(略して「モラハラ」)―つまり、精神的暴力や嫌がらせです。

 フランスの精神科医、マリー=フランス・イルゴイエンヌが提唱した言葉だと言われていますが、今や日本語としてかなり定着してきました。

 多くの女性からご相談を受けていると、モラハラを行う男性との交際や結婚のリスクは、どんな女性にもあるのではないかと思います。

どんな女性もモラハラ男性と結婚する可能性はある

 つい先日も、クリニックで女医をしているという女性が相談に来られました。

 その女性は真梨子さん(35歳、仮名、4歳の娘の母)。

 有名なレディースクリニックで、産婦人科医として働いておられます。

 背が高くスラッとしていて、どことなく天海祐希に似た知的な雰囲気の素敵な女性です。

 ところが、真梨子さんは、夫の酷いモラハラに悩み、思い余って相談に来られたのです。聞くところによると、夫のモラハラは長女を出産した直後から始まったそうです。

「最初は、私の言うことにむきになって反論したり、機嫌が悪いと何を言っても無視すると言った程度だったんです。交際当時から多少その傾向がありましたので、あまり気にしないようにしていました。

 ところが最近、私に対する暴言がどんどんエスカレートしてきてしまって……。『この役立たず!』だの『死ね!』だのと言いたい放題で、止めてと言っても止めてくれません。

 それに、夫の暴言を聞いていた娘も、なんと一緒になって私に暴言を吐くようになってきたんです。もう、どうしていいかわかりません……」

 真梨子さんの夫は、外資系の金融機関に勤務するエリートサラリーマンです。5年前、友人のホームパーティで出会い、真梨子さんに一目ぼれをしたご主人からの猛烈なアプローチを受けて、交際が始まったそうです。

 おそらく周囲からは、素敵なご夫婦と思われていたことでしょう。

 しかし、現実の真梨子さんの結婚生活はまさに地獄のような毎日で、真梨子さんは離婚も視野にいれているとのこと。

 真梨子さんのような女性が、実は夫からの酷い暴言に日々悩んでいるなんて、一体誰が想像したでしょう?

 ただし、このようなご相談は、さほど珍しいことではありません。

 よく注意しないと、女性なら誰でも、モラハラ男性との交際や結婚のリスクがあります。それは、女性から見ても、魅力的だったり、性格がよかったり、キャリアを築いていたりする、聡明な女性でも同じです。むしろ私には確率が高いように感じることもあります。

コロナ禍で増えるモラハラやDV被害

 新型コロナウイルス対策による外出自粛や休業要請が行われる状況の中、将来への不安やストレスがたまり、配偶者からDVを受けたり、モラハラ被害にあったりといった相談がますます増えています。

【Japan Data】20年度のDV相談、早くも過去最多更新 : コロナ禍で在宅時間が増加 #コロナとどう暮らす

https://news.yahoo.co.jp/articles/f9d2a709ea0ebe49f5ea214896f8be25fc7da291

DV相談件数“最多”13万件超え 20年度、コロナ外出自粛で

https://news.yahoo.co.jp/articles/8490ff1277a7c5cbf3244974eb56d83caf31085f

「コロナ離婚」という言葉も現実味を帯びてきました。

 コロナ禍によって離婚の危機に至る夫婦は今後も増加する傾向にあることは間違いなさそうです。

 ただ、経済的な理由などいろいろ理由はあるとは思いますが、全てをコロナのせいにするのは、少し違和感があります。

 つまり、コロナ禍を機に離婚の危機に至る夫婦というのは、もともと離婚に至る原因が存在したケースが多いのです。

 いわば、コロナ禍によるステイホームによって、お互い顔を合わせる時間が長くなり、今まで蓄積していた不満が噴出しただけ。

 極端に言えば、遅かれ早かれ、離婚問題に直面する可能性が極めて高かった夫婦ともいえるのです。

 コロナがなければ、「なんか違うな〜」「一緒にいても楽しくないな……」と思いながら、30年くらい夫婦を続けていた可能性すらあるのです(熟年離婚の増加はその現れです)。

不満の原因は「モラハラ」や「DV」だった 

「なんか違う」という違和感ならまだいいのですが、前述のように、その不満が「モラハラ」「DV」であるケースも少なくないのです。

 ただ、女性が、「うちの夫はモラハラ夫だ」と自覚するのは難しいです。

 他人に「それってモラハラじゃない?」と指摘されたり「こんな夫はモラハラ夫だ!」という項目に当てはまったりといったことに直面して初めて「もしかしてうちの旦那はモラハラ夫なのかも……?」と考え始める方が多いのです。

 それというのも、モラハラ夫の特徴が「相手に対する支配」だからなのです。

 いわば夫から洗脳されているような状態なので、女性が自らモラハラの被害にあっていると気づくのは本当に難しいですし、モラハラをしている本人すら自分のやっていることが相手を傷つけていると気づいていないことがあります。

 私は、いわゆるコロナ離婚が増えた背景には、違和感のみならず、こうしたモラハラやDV被害に気づいた女性が多かったのではないかと思っています。

モラハラをする人の特徴

 さて、モラハラ夫の特徴は「支配」と言いましたが、他に見分ける方法はないものでしょうか?

 モラハラはほぼ治らないので、事前に見抜いておくことが重要です。

 以下、モラハラ男性の特徴をあげておきます。

□ 自分を正当化し、悪いのは人のせいにする

□ 頭の回転が速く、話がうまい

□ 自分の意見を押し通す

□ 会話のキャッチボールができない

  いつのまにか自分の話になっている

□ 周囲の目を気にする

  とにかく外面がいい

□ 他人を見下してくるような振る舞いが非常に多い

□ すぐに激高して暴言を吐く

□ 周囲から「頼りがいがある人だ」と思われている

□ 高学歴で高収入の職業に就いているが、重度のストレスを抱えている

□ 親から愛されて育っていなかった

□ 親の希望を押し付けられ、ひたすら良い子を演じてきた

 モラハラ男性を見抜く大きなポイントの一つに、上に記載した「他人を見下してくるような振る舞い」というものがあります。立場の弱い相手に極端に強く出るというもので、飲食店などでびっくりするくらい激高したり、お店で店員さんに居丈高な振る舞いをする人は特に要注意です。

モラハラを受けてしまう女性とは

 私は、多くの女性が離婚問題に関する相談に来られる際に、「ご主人の一体どこがよかったのですか?」「どこを好きになって結婚を決意したのですか?」「彼のどこがそんなに好きなんですか?」などといった質問を必ずしてきました。

 そうしたところ、モラハラ男性と交際・結婚する女性には、一定の傾向があることがわかったのです。

 まず前提として、誰が見ても魅力にあふれた素敵な女性は、モラハラ男性のターゲットにされやすいということが挙げられます。

 モラハラ男性というのは、束縛傾向があるなど支配欲が大変強く、同性に対しても常にマウントを取りたがります。人の気持ちなどお構いなしですし、本当に負けず嫌いな人が多いです。

 そのような性格の持ち主は、他の男性が恐れ多くて手を出さないような高嶺の花の女性にも臆さずにアプローチしますし、周囲の男性に勝つことに満足感を覚えます。

「トロフィーワイフ」という言葉がありますが、素敵な女性を連れて歩くことが自分のステータスだと考えていて、自分の価値を高めると思っているのです。

 自分が一番可愛いので、他人の感情や言動をそれほど重視しません。

 恥じらったり照れたりすることなしに、この女性をモノにしたいと思ったら、猛烈にアプローチをしかけてきます。断られてもめげずに何度もアタックしてくるので、女性が根負けすることも多いのです。

 このように書いてしまうと、なんて嫌な奴だ、こんな性格の男性を好きになったりすることなんてありえない!と思うかもしれません。

 ですが、このようなタイプの男性は、恋愛の初期には、大変魅力的に映ります。

 いわゆる「胸キュン」という現象も、男性の強気なアプローチに対して起こりやすかったりします。少女漫画の主人公には、わりとこのようなタイプが多いのではないでしょうか?

 私も少女漫画が大好きで今でもよく読みますが、職業柄、「この主人公って将来、モラハラ彼氏になるのでは……?」なんて考えてしまうこともあります。

 次に、モラハラを受けやすい女性というのは、冷静で現実的な性格ではなく、どちらかというとロマンティックな(乙女な部分のある)優しい性格の持ち主だという傾向があります。

 モラハラ男性は、自分が支配・コントロールできそうな相手を本能的に察知して近づいてくるので、そのような女性はターゲットにされやすいのです。

 ロマンティックな優しい性格の女性は、冷静に相手の言動を注意して観察したりせず、「素敵」「かっこいい」「頼りになる」と言ったフワッ〜とした感情で、純粋に相手を好きになってしまいがちです。

 つまり、相手がモラハラ男性だなんて想像もせずに、無防備に好きになってしまうのです。そして、好きな男性の言動が支配的であっても、愛されていると誤解して、全て鵜呑みにしてしまうのです。

 これが悲劇の始まりです。

まとめ

 コロナ禍で明らかになったパートナーの「モラハラ」と、急増するコロナ離婚

 モラハラ男性と結婚した女性がよく言われるのが、

「結婚する前はとっても素敵な彼氏だったんです!少し俺様なところはありましたが、男らしくて頼りになりました。それが、結婚してから、私に対して酷い暴言を言うようになって……。彼の言う通りにできない私が悪いんですけど……」

 と言った泣き言。

 実は、これは全て「至らない私が悪い」とモラハラ男性が思わせているだけなんです。

 モラハラ男性の暴言によって一時的に自信をなくしているだけで、一般的にみたら、冒頭に出てきた真梨子さんのようにとっても素敵な女性だったりします。

 もっと自分に自信を持って大丈夫!と励ましたくなります。

 とは言え、モラハラ男性と一緒にいると、自分だけの力で自信を回復するのは難しいかもしれません。

 日常生活の中で毎日のように人格否定発言を繰り返しされていたら、自信など持てるはずがないからです。

 相手の自信をなくして支配・コントロールする―これがモラハラの本質です。

 また、一緒に生活している中で共依存になってしまい、暴言を吐かれながらも離れられなくなっているケースもとても多いのです。

 モラハラは治りません。

 これってモラハラかな?と思ったら、一度、専門家に相談することをお勧めします。

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

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