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離れて眠ることで離婚の危機を回避⁉「睡眠離婚」とは―離婚弁護士が解説

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:アフロ)

1 はじめに

私は兵庫県西宮市で家事事件を中心に扱う法律事務所を経営している弁護士です。私のもとには大小さまざまな相談事が持ち込まれます。夫婦関係では、些細な日常生活の積み重ねが離婚につながることも多く、そうした相談から「睡眠離婚」という言葉を知りました。

2 睡眠離婚とは?

以前、「コロナ離婚」という言葉が流行しましたが、今度は「睡眠離婚」―。そんな言葉は、初めて耳にしたという方も多いのではないでしょうか。

そもそも「睡眠離婚」とは日本固有のものではなく、昨年度、米誌ウォールストリートジャーナルが米国内で「睡眠離婚」が流行していると報道して話題になったものです。米睡眠医学会(AASM)の調査によると、米国の夫婦の35%が「各自の空間で眠っている」と答えているそうです。

参考:https://vpoint.jp/world/korea/228377.html#google_vignette

https://forbesjapan.com/articles/detail/65745

日本でいう「夫婦別寝室」とよく似た概念ですが、夫婦関係の破綻を意味するネガティブなものではなく、むしろ正常な婚姻生活を行う夫婦が睡眠だけ別の空間で取ること「睡眠離婚」と言います。ポジティブな意味での「睡眠離婚」と、ネガティブな「夫婦別寝室」は、いわば真逆の概念と言えるでしょう。

私の所にも睡眠をめぐる相談は寄せられます。

妻は極度の冷え性で、真夏でも夜にクーラーをつけるのを嫌がります。私は、暑がりの方ですから、冷房の効いた部屋で熟睡したいのですが、許してもらえず…。屋内でも熱中症になるケースもあるし、なにしろ暑くて眠れたものではありません。仕事にも差し支えますので夏だけでも別室で休みたいのですが、 昨年妻に提案したところ、「そんなに私と一緒に寝るのが嫌なの⁈」と涙ながらに詰め寄られてしまい、 離婚問題に発展しそうになりました。(40代会社員男性)

夫のいびきが酷くて、一度気になるとなかなか寝付けません。ずっと我慢してきましたが、よく考えると家事や育児に積極的だったわけではないですし、正直なところ、我慢の限界です。子供も無事に巣立ちましたので、離婚を切り出そうかと迷っています。もう夫のいびきを聞くだけでも鬱になって、夫の存在自体が許せないというところまできています(50代主婦女性)

夫は、夜勤のある仕事で、夜遅く帰ってくる日々。私は正社員として、結婚してからも仕事を続けています。朝は子供たちの食事の支度をして、幼稚園や保育園に送って行ったあとに、1時間ほどかけて通勤しており、夫とは生活の時間が全く合っていません。夫自身には不満はないのですが、夜遅くに寝室に入って来られるとどうしても目が覚めてしまいますし、朝はこちらがバタバタしていますので、逆に迷惑をかけているのではないかと気になっています。下の子が生まれてからセックスレスですし、寝室を別にしたら、レスの状態が続いて、いつか離婚なんてことになるかもしれないと不安です。(30代会社員女性)

同じような悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

睡眠が原因で夫婦仲に亀裂が生じかけていると言ったケースは、意外にも多いのです。そんな夫婦間のトラブルの解決策として寝室を別にする「睡眠離婚」は有用かもしれません。

今回は、この「睡眠離婚」のメリット・デメリットを考えていきたいと思います。

3 睡眠離婚のメリット

大きなメリットとしては、「睡眠離婚」をするによって、自分の好みの空間でゆっくり熟睡できるということです。

冷暖房の温度でもめることもないですし、部屋の明かりをつけたままで本を読んだり、スマートフォンを触ったり、深夜まで仕事をしていても基本的に文句をいわれることはありません。

そもそも夫婦は育った環境も違いますし、好みは人それぞれですので、眠りの環境が違うことはいわば当たり前。

ところが、相手に気を遣うあまり、ひたすら我慢しているとストレスがたまり、体調を崩すことも十分あり得ます。

この点、寝室を別にすると、相手のいびきや寝言で寝付けなかったりすることは少なくなり、良質な睡眠が確保しやすくなるでしょう。

体調も良くなりますから精神的に安定し、生活や仕事が充実したり、夫婦関係が円満になることが期待できます。

また、夫婦の生活リズムが違う場合に、お互い相手を起こしてしまわないか、などと余計に気を遣う必要がなくなります。小さなお子さんがいるようなご家庭では、子供がぐずったり、子供が夜泣きしたりすることもあるでしょう。そんな時に相手に気を遣わず、子供の世話に集中することができると余計なストレスが減ります。飲み会などで相手が遅く帰ってきても、お子さんが目を覚ますといった心配もなくなるでしょう。

以前、週末だけ同居する「週末婚」が話題になりました。平日は別々に生活して、週末だけ夫婦生活を送る結婚の形態ですが、新婚当時の新鮮さが長続きしたり、日常の些細な喧嘩が減ったりするなど、一定のメリットがあります。離婚寸前の夫婦が試しに週末婚をしたら、修復できたというケースもあります。

住居が二重になるという経済的なデメリットもあるのですが、「睡眠離婚」は週末婚の縮小版と考えてみてもいいかもしれません。

住居を別にしていなくても寝室を別にすることで、お互いのプライバシーを尊重することができますし、一人の時間を確保することも可能になります。

4 睡眠離婚のデメリット

夫婦の寝室を別にすることで、スキンシップや会話が減り、そのままセックスレスになる可能性があるということです。これは見過ごせないデメリットです。

日本は、パートナーにセックスを求めるのが極めて難しいセックスレス大国とも言われています。

寝室を別にすることで、自分からセックスを求めることが難しくなることは十分考えられますし、自分からセックスを求めて断られると、いくつになっても、たとえ夫婦であったとしても恥ずかしいものです。

さらにセックスレスが離婚のきっかけに発展することも多いにあり得ます。

「睡眠離婚」はセックスレス、ひいては離婚のきっかけになるという危険をはらんでいることは否定できません。

5 おわりに

写真:アフロ

夫婦仲が破綻寸前のネガティブな「夫婦別寝室」ではなく、夫婦関係を良好にするためのポジティブで前向きな「睡眠離婚」

お互いに我慢せず、それぞれの好みの環境で睡眠の質を上げ、生活や仕事の質も上げるという意味で、結果的に夫婦の離婚危機を解決することも期待できそうです。

コミュニケーションやスキンシップさえおざなりにならなければ、「睡眠離婚」はとても役に立つ提案だと思います。

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

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