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台風22号から変わったサイクロン「ブルブル」南アジアに上陸へ

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
赤外衛星画像。中央はブルブル、右は台風24号。 (出典元: インド気象局)

物事の方向性が決まる分かれ目を「分水嶺」といいますが、台風の分水嶺は、東を日付変更線、西を東南アジアに持ちます。もし台風が日付変更線を越えれば、ハリケーンになりますし、もし東南アジアのマレー半島やインドシナ半島を越えれば、サイクロンに名前が変わるのです。

元台風22号(国際名: マトモ)は、この西の分水嶺を越えて、サイクロンとなりました。

非常に稀な経路

台風22号は先月30日、ベトナム中部に上陸、弱まって温帯低気圧へと変わり、インドシナ半島を横断、インド洋に到達しています。その後再発達し、6日にサイクロン「ブルブル(Bul-bul)」と命名されました。ブルブルはパキスタンの言葉で、鳥の名前に由来すると思われます。

22号のように、台風からサイクロンへと変わった「越境サイクロン」は過去にも少数ながらあります。

例えば今年1月1日に発生し、観測史上初めての元旦台風と話題になった台風1号(国際名: パブーク)も、マレー半島を通過して、サイクロンへと変わりました。この場合は、台風のまま越境しているので、サイクロンになっても国際名は「パブーク」のままでした。このようにマレー半島は細長いので、台風はひょいと横切ってインド洋に抜けることがあります。

しかし22号のように、インドシナ半島をまともに横断し、陸上で台風の性質を失ったにもかかわらず、インド洋で再び息を吹き返してサイクロンになった台風はほとんどありません。

アルジャジーラによると、そのような台風は過去に4例しかないといいます。さらに22号のように、最大風速35m/s以上の強さまで発達したものは2例のみとのことです。

今後の進路

インド気象局発表の予想進路図に筆者加筆
インド気象局発表の予想進路図に筆者加筆

現地時間9日未明時点のブルブルの最大風速は42m/sで、サイクロンの階級で上から3番目に強い「ベリーシビア」の勢力となっています。これは「強い台風」の強さに相当します。

今後やや勢力を強め、10日朝にはインドとバングラデシュの国境付近に上陸する可能性があります。

この辺りは海抜が低く、高潮に脆弱な地域です。1970年にサイクロン・ボラ(Bhola)がバングラデシュを直撃した際には、熱帯低気圧による死者数としては世界最多となる30万~50万人が亡くなりました。バングラデシュの国土の50%は海抜7メートル以下です。高潮の予想は2メートルで、これに波や満潮などの影響が加わるため、被害が心配されます。

活発なインド洋北部

今年インド洋北部は、記録的なサイクロンシーズンを迎えています。年平均の4.5個を超える7個のサイクロンがこれまでに発生したばかりか、サイクロンの総エネルギーは観測史上最大といわれています。

特に10月は、この海域における観測史上2番目の強さとなったスーパーサイクロン「キャー」が発生、さらに同時期にサイクロン「マハ」も発生しました。

インド洋北部のサイクロンシーズンは12月まで続くため、さらに記録が塗り替えられる可能性があります。

*追記(11/11)*

サイクロン・ブルブルは9日夜インドの北東部ウエストベンガル州に上陸しました。上陸時の勢力は上から3番目に強い「ベリーシビア」でした。2百万人が避難を余儀なくされ、インドとバングラデシュでは死者が出ています。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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