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あら?「アレ」を使ったラーメンが増えている意外な理由

山路力也フードジャーナリスト
ラーメンは本来そういう食べ物だった。(写真:麺屋武蔵)

ニューヨークから上陸した「アラ」のラーメン

『YUJI Ramen Tokyo』(清澄白河)の「ツナコツラーメン」は、マグロのアラをスープに使う。
『YUJI Ramen Tokyo』(清澄白河)の「ツナコツラーメン」は、マグロのアラをスープに使う。

 2018年10月、清澄白河に一軒のラーメン店がオープンした。一見、ラーメン店というよりもカフェのような雰囲気を持つ店の名前は『YUJI Ramen Tokyo』(東京都江東区清澄3-3-25)。創業は2012年、本店はアメリカニューヨーク・ブルックリンにあり、2017年3月に『新横浜ラーメン博物館』へ出店し、一年半の営業を経て2018年9月にラーメン博物館を「卒業」。今回、ついに東京で路面店を出店することとなった。

 この店のラーメン「ツナコツラーメン」は、動物系の素材は使わずにマグロの骨、アラを使ったラーメン。店主の原口雄次さんは、長年アメリカで魚の卸に携わった「魚のプロ」。魚の魅力を伝えながらも良い素材がゴミとして捨てられていくのを見て、それを有効活用したラーメンは出来ないかと生み出した一杯が「ツナコツラーメン」だった。

 2014年には、ニューヨーク近海の魚を使った和食店『OKONOMI』をオープン。魚を丸ごと仕入れて、OKONOMIで使った魚のアラの部分をYUJI Ramenでラーメンに仕上げることで、食材を廃棄することのない「MOTTAINAI(モッタイナイ)」を実践している。

十年以上前からあった「アラ」のラーメン

『麺屋海神』(新宿)の「あら炊き塩らぁめん」はその日の仕入れで味が変わる。(写真:麺屋海神)
『麺屋海神』(新宿)の「あら炊き塩らぁめん」はその日の仕入れで味が変わる。(写真:麺屋海神)

 職人たちの弛まぬ努力によって進化し続けているラーメンの世界。日々新たな製法や新たな食材を使ったラーメンが生まれているが、ここ数年ラーメンの世界でじわじわと注目を集めている食材が「魚のアラ」だ。

 しかしながら、ラーメンの世界で魚のアラを使うケースはけっして目新しいことではない。札幌の場外市場で魚のアラと豚骨を炊いたスープで人気を集めている『あらとん』は2006年のオープン。鮮魚系ラーメンと注目を集めた『麺屋海神』も最初のオープンは2004年だ。いずれも今から十年以上前から、アラを使ったラーメンは存在し注目を集めていた。

 また最近の流行でもある「鯛出汁ラーメン」でも、スープには鯛の中骨などのアラを使っているし、「海老ラーメン」の多くも海老の頭や殻など料理では使わないで捨てる部分をスープの素材として活用している。いずれも広義的にアラのラーメンと言っても良いだろう。アラをラーメンで使うことは珍しいことではないのだ。

京都でも「アラ」のラーメンが登場

『麺屋なごみねこ』(京都)の「塩そば」は、系列の和食店で出た鯛のアラを使ってスープを取る。
『麺屋なごみねこ』(京都)の「塩そば」は、系列の和食店で出た鯛のアラを使ってスープを取る。

 京都では2018年に入って次々と「アラ」を使ったラーメン店がオープンして注目を集めている。1月にオープンした『メントメシ ザコヤ』の「旬華そば」は、その日の魚のアラによって味が変わるというもの。9月にオープンした『麺屋なごみねこ〜旬"はなれ〜』の「塩そば」は鯛のアラを使用したラーメンを提供している。

 この2軒の店に共通しているのは、どちらの店も本店が居酒屋や割烹などの料理店であるということ。本店の料理を作る時に出たものを流用することで、高級な魚であっても安く提供出来るだけでなく、食材のロスも防ぐことが出来ている。このスタイルは前述したニューヨークの『YUJI Ramen』と同じだ。

麺屋武蔵が取り組む「あら〜麺」とは

麺屋武蔵はフードロスの観点から魚のアラに注目した。(写真:麺屋武蔵)
麺屋武蔵はフードロスの観点から魚のアラに注目した。(写真:麺屋武蔵)

 宮城県石巻市の観光交流拠点施設である『いしのまき元気いちば』内にあるフードコート『元気食堂』で提供されている「あら〜麺」は、石巻産の鮮魚のアラを使ったスープを用いたラーメンで、東京の人気ラーメン店『麺屋武蔵』が監修として関わっている。

 開発のきっかけは、麺屋武蔵代表取締役の矢都木二郎さんが幹事を務める「料理ボランティアの会」での活動。東日本大震災で被災した宮城県石巻市を訪れた際に、他のシェフがメイン料理に使った魚のアラを使ってラーメンを作ったことが最初だ。その後も石巻市内の水産高校で調理指導を行うなどのサポート活動を続けている。

 市場内などで出た魚のアラを使ってスープを取り、その場でラーメンとして提供する。無駄な食材の廃棄を避ける「フードロス」の観点から生まれたのが「あら〜麺」だ。開発した麺屋武蔵でこのラーメンを提供していないのは、アラをそのために調達することに意味がないからだ。

ラーメンとは本来そういう食べ物だった

『たいめいけん』(日本橋)では洋食店で出た端材をスープに使用したラーメンを提供している。
『たいめいけん』(日本橋)では洋食店で出た端材をスープに使用したラーメンを提供している。

 老舗のラーメン店や中華料理店に足を運んで寸胴の中を覗いてみると、豚骨や鶏ガラの他に野菜クズなどの端材が入っていることが多い。そもそも動物の骨も含めて、ラーメンのスープには食べることの少ない素材や廃棄されてしまうものを使うのが常であった。だからこそ「安くて美味しい」ラーメンを提供出来た。ラーメンとは元来、食材の無駄を無くすことに親和性の高い料理だったのだ。

 それがいつしか、ラーメンの世界では素材を厳選することが当たり前となり、ラーメンの味や質が劇的に高まっていった。そのことが現在のラーメン文化を生み出していったのは紛れも無い事実だが、その一方で「ラーメンは安いもの」という消費者イメージも根強く、高騰していく製造原価を売価に反映させることは難しく、ラーメン店の経営を圧迫している現実もある。原価を下げるという意味においてもアラなどの端材をラーメンに使うことは理にかなっている。

 「国連食糧農業機関(FAO)」の調査によれば、世界では8億人以上もの人々が飢餓や栄養不足に苦んでおり、その数は年々増加しているという。その一方で廃棄される食品の量も増加傾しており、日本での一年間の食品廃棄量は食料消費全体の約3割に当たる約2,800万トンにのぼっている。フードロスの問題は看過出来ないところまで来ている。

 フードロスへの問題意識とともに、料理の世界で浸透しつつある「サスティナビリティ」への取り組みなどがリンクしていき、アラを使ったラーメンの再評価が高まっている。一過性のブームに終わることなくこの流れが続いていくことを願いつつ、今後も注視していきたいと思う。

※写真は筆者の撮影によるものです(出典があるものを除く)。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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