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【北京五輪フィギュア団体・銅メダル】いつもと役割が逆転した三浦と木原、ペアの新展開

野口美恵スポーツライター
フリーの演技後、感極まる2人(写真:エンリコ/アフロスポーツ)

フィギュアスケートの団体戦、日本は念願だった銅メダルを獲得した。メダルを決定させたのは、決勝2種目目で登場したペアの三浦璃来&木原龍一組だ。フリーで2位につけると、順位点9ポイントを稼ぎ、総合4位のカナダを突き放した。フリーダンスと女子フリーを残し、この時点でメダルが確定。過去2大会は5位で、メダルには遠かった日本の大躍進を、この2人が支えた。

初の五輪に三浦は「すごい、遊園地みたい」

北京に到着した2人。1月30日にメインリンクで初練習を終えた三浦の笑顔が、すべての象徴だった。世界各国のメディアが取材するためにまるで迷路のような通路が作られ、長いインタビューゾーンが続いてるのを見て、思わず言った。

「すごい、遊園地みたい。あらゆるところに五輪マークがあって、オリンピックに来られたんだなと思いました」。五輪を素直に楽しんでいることが伝わってきた。

一方の木原は「疲れがまだ抜けていないので今日は足慣らし。スタートポジションの調節や、照明の当たり具合などを確認しました」と、早くも本気モード。緊張感を感じさせた。

もともとは、ポジティブで楽観的にとらえる木原が、慎重派で緊張しやすい三浦を支えるというペア。9歳上の兄が、妹を守るような温かさがある。しかし現地入りした2人の表情は、いつもと逆だった。過去2大会で団体戦5位だった思いを背負い固くなる木原を、初の五輪を楽しむ三浦がほぐしていたのだ。

写真:YUTAKA/アフロスポーツ

三浦はガッツポーズ、木原は「本当にノーミス?」

迎えた団体戦ショート。曲は2人がスケートを愛する気持ちが溢れる『ハレルヤ』。すべての技術を、一つ一つていねいにこなしていく。2人がシンクロしながら行うスピンで、回転がズレる場面があったが、落ち着いていた。回転の途中から速度を調整し、回転をピタリと合わせた。

演技を終えた瞬間、三浦はガッツポーズ。「オリンピックという大きな試合で自分たちらしい演技がだせるかなと不安があったので大きなミスがなく、ほっとしたというガッツポーズでした」という。

しかし木原は笑顔になるどころか、緊張した顔のまま、不安そうに三浦に話しかけていた。「今日は、ノーミスかどうか分からなくて。いつもはお客さんが多いので拍手でだいたい分かるんですけれど。どこまで良い内容なのか自信がなかったんですけど、三浦さんが喜んでいたので『本当にノーミス?ノーミス?』と何度も聞いていました」

74.45点で自己ベストを更新する得点。三浦はこう振り返った。

「宇野選手とアイスダンスの演技は、自分達の試合前だったので生では見られませんでしたが、結果は見ました。団体戦で、少しでも力になれるように、私達ができることを出せば結果がついてくると信じていました」

いつも木原に頼っていた三浦が、何かひとつ芯のようなものを手に入れたのを感じさせた。

さらに微笑ましいやりとりもあった。「スピンの回転がズレたあと、どうやって合わせ直したのか」と聞かれると、木原はこう答えた。

「ズレたからどっちかがアジャストしようとするのではなくて、どこかで歯車は戻ります。スタンドスピンに入るとき、視界に三浦さんが見えるので、その時に三浦さんも見てくれていますが、最終チェックで最後に合わせているのは僕・・・」

すると間髪入れずに「いや!?」と三浦。あわてて木原が、フォローする。

「違うそうです。2人で合わせてます」

ちょっと“お姉さん”になった三浦の姿が伝わってくる一幕だった。

写真:長田洋平/アフロスポーツ

8年分の悔しさを晴らした木原、怖さに耐えた三浦

フリーも、2人の新たな成長があった。メダルの重圧がかかるなか、米国ペアと中国ペアはミスを連発。また男性が怪我をしていたロシアペアにも、ミスがあった。そんな状況のなか、三浦と木原は、しっかりと2人の世界に集中した。

曲は『Woman』。いつもなら木原が満面の笑みで滑り、三浦が緊張しながら「暗い曲なのに、なんで笑顔なの」と突っ込むというのが、2人の関係。しかし、やはり木原はどこかぎこちなかった。

3回転トウループを降りたあと、リフトに行くまでの繋ぎの要素では、三浦がすこし先に滑って行き、木原が慌てて追い掛ける。スロー3回転ループでは、三浦は低い姿勢でなんとか着氷に耐えたが、いつもと違う着氷だったために、ジャンプ後に進む方向が変わった。こういった場合は、男性側が先読みして女性に合わせていくのだが、木原は「予想していたサークルと変わってしまったので、追い付くのに時間がかかってしまって、情けなかった」という。

「前半で体力を消耗してしまう場所があって疲れていた」という木原。滑り終えると、最後のポーズのまま、感無量で動かない三浦を見て、1人で焦ってしまった。

「最後のポーズおわったあとに三浦さんが倒れてしまったように感じて、勘違いして『(転倒の)ディダクションが付いちゃうからはやく立って』と。疲れて周りが見えてなかったので、焦っていたんですけど。そんなことなかったので良かったです」。

立ち上がった三浦は、おでこに手を当てて目をギュッとつむり、喜びを噛みしめる。

「本当に良かった。この大きな試合で自分が滑りきれるかすごく不安だったので、その中で大きなミスなくまとめられたので、本当に良かったと思いました」

そして北京に来てから初めて、木原に「怖かった」と打ち明けた。

いつもなら、試合前から「怖い」と言って木原を頼っていたはずだ。しかし木原が8年分の思いを抱えている姿に気づいていたのだろう。演技が終わる瞬間まで、三浦はそれを自分の中で抱え、そして乗りこえた。

フリーは、139.60点の自己ベストをマークすると、中国、米国ペアをしのいで2位。団体戦のメダルを決定する、会心の演技だった。木原は言う。

「過去2大会に出させていただいていたけれど、過去2大会のチームメイトに凄く申しわけ無い気持ちがありました。ショートは力になれなかったかもしれないけど、ここで(2位で順位点)9点とれたのは嬉しい。8年悔しかった思いが少しは晴らせたのかなと思います」

いつもの凸凹コンビは、役割が逆だった。一歩階段をあがった20歳の三浦と、8年の思いを晴らした29歳の木原。団体戦でメダルをとったあかつきにはピザを食べる約束をしていたという2人。パワーをつけて、2月18、19日の個人戦へと進んで行く。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

スポーツライター

元毎日新聞記者。自身のフィギュアスケート経験を生かし、ルールや技術、選手心理に詳しい記事を執筆している。日本オリンピック委員会広報としてバンクーバーオリンピックに帯同。ソチ、平昌オリンピックを取材した。主な著書に『羽生結弦 王者のメソッド』『チームブライアン』シリーズ、『伊藤みどりトリプルアクセルの先へ』など。自身はアダルトスケーターとして樋口豊氏に師事。11年国際アダルト競技会ブロンズⅠ部門優勝、20年冬季マスターゲームズ・シルバー部門11位。

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