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「察してもらえるとは思いますが…」。稲垣啓太、大一番へコンディションは?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 ラグビー日本代表の稲垣啓太は、5月13日、東京・秩父宮ラグビー場で国内リーグワン1部・プレーオフ準決勝に先発する。埼玉パナソニックワイルドナイツの左プロップとして、横浜キヤノンイーグルスと戦う。

 国内タイトル2連覇中の強豪で主軸を張る通称「笑わない男」は、プレーをはじめとした各種事象を高い解像度で語ることで知られる。

 話をしたのは11日。埼玉県内での本拠地で練習を終えると、記者団に応じた。

 今回が久々の実戦であることを聞かれた際の言葉に、覚悟をにじませた。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——プレーオフへ。

「いい準備ができています。特別変わったこともやっていない。ここまできて何か新しいことをやることはない。何が大切になってくるか。いままで自分たちが積み上げてきたもののクオリティ、ディテールが、ファイナルラグビーで、1点差でも勝てばいい舞台で、出せるか、出せないか、クオリティが足りなければ、ディテールが足りなければ、ひとつのミスが失点となって、それが重なったら負けるでしょうし、その負けを僕らも知っている。…そういうことがないように準備している」

——本番で力を出すには。

「準備しかない。ただ漠然とした準備ではなくて、準決勝、何が必要か、チームとして何をしなくてはいけないか、というのが、全員が明確にわかっていれば。どんなに準備していても、何か80分のなかでミスは起こる。そのミスを減らすのがキーになるとは思うんですけど、何かミスが起きたとしても皆のやることがわかっていて、進むべき方向に戻れる。舵の修正が利くということですよね。修正できなければそのまま80分が終わってしまうでしょうし、修正できればより自分たちの進むべき道に近づいていく。そこだけです」

——稲垣選手の左プロップをはじめとした、タイトファイブ(前列5人)の役割について。

「スペースを作り出すこと。いかに(目の前の)ディフェンスをトラップできるか。そこ(自分たちのいる場所)に寄せられるか。そうすると外にスペースができる。そのやり方はたくさんありますが、複雑ではないです。シンプルなこと。そのクオリティでディフェンスを破ることができるのか。プレッシャーをかけることができるのか、相手を下げられるのか、減らすことができるのか、それがタイトファイブの役割です」

——稲垣選手は第14節を最後に実戦から遠ざかっています。

「行けと言われればやれる身体は作っているつもりです。…まぁ、察してもらえるとは思いますが、シーズン中に『怪我しました』なんてことを言う人はいないでしょうし、自分の身体を理解しながら、できるのか、できないのか、それだけです。その時にできることを、自分はやっている。自分の仕事はちゃんと身体を作り上げていくこと、いつ言われてもいけるように。どんな状態でも行けるのであれば、行く。だから常に、調子はいいと思います」

——対戦する横浜キヤノンイーグルスへの印象は。

「沢木さん、ですからね」

 ここでの「沢木さん」こと沢木敬介監督は、2016年度からの3シーズン、現東京サントリーサンゴリアスを率いて旧トップリーグを2度制覇。2020年、中位以下に低迷していたイーグルスの指揮官となるや、3シーズン目の今季初の4強入りした。

 緻密な攻撃設計と、選手へ献身を問う強烈な個性で知られる。

 稲垣は続ける。

「(イーグルスへの)印象といったら、皆さんもいろんなものをお持ちでしょうけど、アタックにおいて、凄くバリエーションを持っているチーム。皆さんもそう思っていると思うのですが、それもちゃんと準備してきたアタックのバリエーションであって。

以前(レギュラーシーズンでの直接対決時)は、サインプレーから失点を重ねました。そこに対して全てを準備することは、できないです。正直。何が来るのか、わからないので。

『何が来るかわからない! 何が来ても大丈夫なように準備しよう! すべてに対して!』

と、いうのは、不可能だと思っています。

ただ、いま自分たちがその時に何をしなければいけないかを予測すること、相手が何をしてくるかを予測すること、それを横の人間と共有すること。その一つの声掛けだけで、『あ、これ(相手の何らかの攻め)が来るかもしれない』と準備ができる。

疲れてくると、そうした声がなかなか出てこなくなる。それは全チームそう。日本代表でも疲れてくると、そうした声が出づらくなってくる。それ(疲れた後の声)を出せるのが、うちだと思っている。しっかりとやっていきたいです」

——沢木監督は、どんなコーチだと感じますか。2015年までは、日本代表で指導を受けていましたが(当時沢木がコーチングコーディネーターだった)。

「どういうイメージですか? みなさん」

——多くの人が評する「怖い」は、必ずしも正解ではないような。

「沢木さんは自分の役割を客観視する方です。皆、沢木さんに対してはすごく情熱的で、時には厳しいというイメージがあると思うのですが、2015年、(日本代表での)その役割はエディーさん(・ジョーンズヘッドコーチ)だった。沢木さんがそれをする必要はなかったんです。だから僕は2015年まで、沢木さんのそういうシーンを見たことがなかったです。

ただ、沢木さんが先頭に立つのであれば、そういったものを出す必要があるのでしょう。いまのイーグルスでは、自分の魂を体現しているんじゃないですかね。沢木さんが来て3年目ですか。チームカルチャーが浸透してきたんじゃないですか。試合を観ても、そう感じることがあります」

 聡明な闘将が引っ張るチームに対し、こちらも賢さと激しさで勝負する。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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