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「黒ではなく白で」。「オールホワイツ」ことNZサッカー代表が白いユニフォームに込めた思い

斉藤健仁スポーツライター
オーバーエイジで参加している経験豊富なFWクリス・ウッド(左)(写真:ロイター/アフロ)

2020年東京五輪の男子サッカーで、初戦で韓国を1-0で下しルーマニアに引き分けるなどして3回目で初の決勝トーナメント進出を決めたのが、7月31日(土)にベスト4をかけて日本と対戦することになったニュージーランドだ。

FIFAワールドカップ(W杯)には1982年、2010年と出場している「オセアニアの雄」である。

オーバーエイジで参加しているFWクリス・ウッド(イングランド・バーンリー)はニュージーランドのStuff紙(7月29日付け)で「(準々決勝に出場することは)チームとしても国としても大きな成果であり、非常に嬉しく誇りに思う。このプレースタイルを信じ続ければもっといいサッカーができる。非常にポジティブで可能性に満ちたチームだ」と意気込んでいる。

◆たまたま白いユニにフォームを着ていたため「オールホワイツ」に

ただ多くの日本人が想像するように、ニュージーランドは「ラグビーの王国」であり、東京五輪の男子ラグビー(7人制)は銀メダルを獲得し、女子は優勝候補筆頭である。

ラグビーの代表チームは全身黒のいでたちで、「オールブラックス(All Blacks)」の愛称で親しまれている。オールブラックスは常にラグビーの世界ランク1位をキープし世界のラグビーシーンを席巻し続けており、ラグビー(15人制)のW杯では3度優勝を果たしている世界一の強豪だ。

サッカー代表もかつては、ラグビーや他のスポーツのニュージーランド代表同様に、黒いホームユニフォームを着ていたという。しかし1982年大会ワールドカップ予選時のアウェイ戦で、たまたま白いユニフォームを着ていた。そのためサポーターからの公募によって「オールホワイツ(All Whites)」という愛称に決まり、そのまま白がホームユニフォームになった。なおオリンピック代表は「オリーホワイツ(Oly Whites)」とも呼ばれる。

◆ラグビーの「オールブラックス」は世界最強を誇る

どうしてラグビーのニュージーランド代表が「オールブラックス」という愛称になったのかを簡単に説明しておきたい。

ニュージーランドが1907年にイギリスから独立する前の1893年に、ラグビー代表は黒いユニフォームに胸に白いシダの葉のエンブレムと規定されたようだが、実際にはソックスなどは他の色を着用していたという。

1905~06年にニュージーランドのラグビー代表選手がイギリス遠征を行い、34勝1敗という好成績を残した。その全員でパスをつなぐ華麗なプレーぶりを見たイングランドの記者が「まるで全員バックス(backs)のよう」と表現しようとしたところ、タイピングミスで「All blacks」としてしまった、という逸話もある。

この話の真偽はさておき、ユニフォームが黒かったニュージーランドのラグビー代表は、1907年にニュージーランドがイギリスから事実上の独立を果たした後も、黒のユニフォームを着用し続け、「オールブラックス」という愛称が定着して現在に至る。

◆白は銀白色をしたシダ(シルバーファーン)にちなむ

一方、「オールホワイツ」ことサッカーのニュージーランド代表だが、単純にラグビーの黒に対して白になったというわけではなかった。

ラグビーのオールブラックスやオリンピックのユニフォームの黒衣の胸に、白(銀)のシダの葉が輝いている。スポーツ界ではラグビーやサッカーだけでなく他の多くのニュージーランド代表のエンブレムにも使用されている、まさしくナショナルトレードマークだ。

シダはニュージーランドの大地に200種類を超えるほど自生しており、まるで木のように大きくなる「シルバーファーン(silver fern)」という種の葉の表は緑だが、裏は銀白色をしている。

この銀白色のシダは国章の右に描かれている先住民のマオリ(左は白人の女性)に大きく関係している。マオリは、白人より前に海を渡ってポリネシアからニュージーランドに渡ってきた民族で、現在でも人口の10%ほどがマオリの人々だという。

なおオールブラックスが試合の前に踊ることで、世界的に有名な「ハカ(Haka)」は、マオリの戦いの踊りだ(サッカーではFIFAの規定で試合前に踊ることが許されておらず、勝利後に踊るときもある)。

マオリは、白人より前に海を渡ってニュージーランドに渡ってきた民族であり、衣食住すべてにおいてシダの葉を使っていた。特に夜、戦いや狩りに行くときに仲間に対しての道標や灯りとして、シダの裏が月や星のあかりで白銀色に光るシルバーファーンを用いていた。いつしかこの白銀のシダはマオリにとって前へ進む精神や勝利を導く象徴的な存在となったという。

つまりオールホワイツの白はシルバーファーンの白(銀)なのだ。当然サッカーでも黒のアウェイユニフォームのときは、シダの葉模様のエンブレムの色は白となる。

2018年のコモンウェルスゲームズで、国旗とともに銀シダの旗を持つトライアスロンの選手たち
2018年のコモンウェルスゲームズで、国旗とともに銀シダの旗を持つトライアスロンの選手たち写真:ロイター/アフロ

◆サッカー人口がラグビーに迫っている

「オールホワイツ」というサッカー代表の愛称が付いた1980年代のサッカーファンから見れば、同じフットボールでもサッカーがラグビーと同じオールブラックスを名乗るのは早い、と思ったのかもしれない。

だが、最近はサッカーとラグビーの競技人口がさほど変わらなくなってきいる。実際に2020年、セカンダリースクール(14~18歳)年代では、サッカー人口(23,274)が、ラグビー(15人制)人口(24,731)に迫ってきている(複数の競技をしている選手の数も含む。※NZSSSCのデータによる)。

そのためサッカーファンの中には、愛称は今のままでもよいが、より強そうに見えるためにもサッカーのホームユニフォームも黒に戻そうという意見もあるという。

ちなみに、女子サッカーのニュージーランド代表の愛称は、かつては白いユニフォームにちなんで「スワンズ(Swans)」だったが、2007年からシダの葉にちなんだ「フットボールファーンズ(Football Ferns)」となった。

他にもバスケットボール代表は「トールブラックス(Tall Blacks)」、ホッケー代表は「ブラックスティックス(Black Sticks)」、ソフトボール代表は「ブラックソックス(Black Socks)」、そして、ニュージーランドが世界最強として知られる女子専用の競技ネットボール代表は「シルバーファーンズ(Silver Ferns)」、女子ラグビーの代表チームは「ブラックファーンズ(Black Ferns)」だ。

◆「黒ではなく白で」世界へ

「オールホワイツ」は1982年のFIFAワールドカップでは3連敗、2010年大会は3分けと1勝もできなかったが、2017年、2019年のFIFAU-20ワールドカップではグループリーグを突破しベスト16に進出するなど強化が進んでおり、U-24チームの東京五輪のベスト8はニュージーランドサッカー史上最高の成績となった。

2010年ワールドカップ出場を決めたプレーオフで得点を決めたFWロリー・ファロンが、試合後「White is the new Black」と書かれたTシャツを着て喜びを表現していた。サッカーも国際舞台で活躍し、ラグビーのオールブラックスに追い付きたいという願いが込められたメッセージである。

ラグビーの男女の代表が東京五輪で活躍する一方、女子のサッカー代表はグループリーグで3連敗し敗退してしまった。初のベスト4をかけて戦う男子のニュージーランド代表の夢はまだ道半ばである。

白(銀)シダに込められた思いを胸に、「黒ではなく白で」ニュージーランド国民だけでなく世界を驚かせることができるか。

初のベスト4を目指す「オールホワイツ」
初のベスト4を目指す「オールホワイツ」写真:ロイター/アフロ

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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