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『ぷよぷよSUN』で、サタンが日焼けのために太陽を巨大化! その27日後に起こる悲劇がモノスゴイ。

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

日焼けのために太陽を巨大化!

そんなビックリ事件が描かれたのは、ゲーム『ぷよぷよ』シリーズの第3弾『ぷよぷよSUN』のオープニングだ。

闇の貴公子サタンが、雑誌で「ギャルにモテモテ!小麦色の肌」という記事を見つける。小麦色の肌になろうと思ったサタンは、呪文を唱えてビームを発射。すると、太陽がぐわっと巨大化した!

その結果、地上には強力な太陽光線が降り注ぎ、飛んでいたハチは焼け焦げてポトリと落ち、川はたちどころに干上がって魚が困り……と、いろいろ迷惑な事態が起こる。

しかしこれ、その程度で済む話なのだろうか。サタンの小さな欲望が何を招くか、ちょっと考えてみたい。

◆地球の気温がドバっと上昇!

ゲームの画面で測ると、太陽の直径は3.5倍にもなっている。

太陽がこれほど大きくなるとは、サタンは具体的に何をしたのだろうか。科学的に考えられる可能性は2つある。

① 地球を太陽に近づけた

② 太陽を巨大化させた

①の場合、太陽が3.5倍の大きさに見えるのは、現在の3.5分の1の距離になったときだ。太陽と地球の距離は1億5千万kmだが、それが4300万kmになる。

太陽系でいちばん内側を公転する水星(太陽との距離は5800万km)より近くなるのだから大変だ。水星の表面温度は、昼間は350度にもなるが、われらが地球の温度はそれを上回って380度。空焚きしたフライパンですら300度だから、小麦色どころか、もう真っ黒焦げだ。

しかも、オープニング画面から考えると、そんなレベルでは済みそうにない。

画面では川がたちまち干上がったが、表面温度が380度になるほどの光を浴び続けても、そうはならない。たとえば深さが1mの川が干上がるのに、5日かかる。

つまり、太陽との距離が3.5分の1になるよりも、もっとすごい事態が起こっていると思われる。

したがって、②の「太陽を巨大化させた」可能性を探ってみよう。質量保存の法則を破ってしまうが、このヒト、サタンだからそれもアリかもしれないし。

サタンが太陽の直径を3.5倍に巨大化させたら、体積は43倍になる。密度が現在の太陽と同じとすれば、重さも43倍。すると、地上の暑さも現在の43倍に?

それでは済まないのが、この話の恐ろしいポイントである。

太陽は自ら光を放つ「恒星」の一つで、その光の強さは「重さの4乗」に比例する。重くなるほど、中心部の温度も圧力も高くなるため、光を生み出す仕組み(核融合)が活発に働くからだ。よって、太陽の重さが43倍になったら、光の強さはその4乗で、現在の340万倍になる。

こんなに強い光が降り注いだら、地表の気温は1万3千度に上昇。すると、ゲームの画面にあった川の水は、深さ1mでも1.4秒で干上がる計算になる。おお、ナットクの展開だ。

――などと喜んでいる場合ではない。気温が1万3千度にもなった地球は、ドロドロに溶けて、全生物が滅亡!

◆太陽系が全滅する!

滅亡しちゃったんだから、もうどうでもいいや~、と投げやりにもなるのだが、悲劇はまだ終わらない。

太陽の重さが43倍になれば、光の強さだけでなく、地球が太陽から受ける重力も43倍になるのだ。

これによって、地球は太陽にググ~ッと近づく細長い楕円軌道を描き始め、地球が太陽を公転する時間は、たった54日になる。つまり、1年が54日に。

その場合、太陽にいちばん近づくのは、その半分の27日後で、距離は太陽の中心から177万kmだ。でも、そのとき太陽の半径は70万km⇒245万kmと3.5倍増になっているのだから、地球は太陽に自らぶつかって、完全に消滅。太陽が巨大化して、1ヵ月ももたないのだ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

まだある。地球が太陽にぶつかるということは、より内側を回る水星と金星もぶつかる。水星は7日後、金星は17日後。

地球の一つ外側を公転する火星は、ギリギリでぶつからないが、太陽の重力を受けてバラバラになり、やっぱり蒸発する。

木星はバラバラにはならないが、現在の太陽-地球間の16分の1にまで近づくため、表面の温度が6万度に。木星は気体でできているから、瞬時に膨張して宇宙に拡散し、これも消滅するだろう。同じく気体の土星、天王星、海王星も、ほぼ同じ末路をたどると思われる。

そして太陽自身も無事では済まない。

太陽の30倍以上の重さを持つ恒星は、超新星爆発という大爆発を起こして、ブラックホールになる。ということは、重さが43倍になった太陽もその運命は避けられないわけで、つまり太陽系は全滅……!

なんと、サタンが「ギャルにモテモテ! 小麦色の肌」という記事を読んだばっかりに、太陽系が丸ごと滅んでしまうのだ。オソロシイ。

太陽を大きくできるような魔力を持っている人は、その後のことまで考えてから使っていただきたい。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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