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シャワー1回に必要な水は100リットル。なぜ100リットルで100回も浴びられたのか?

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
災害時の避難所などで活躍するWOTA BOX(著者撮影)

自然災害時に20カ所以上の避難所で2万人以上が利用

 環境省が、環境分野のイノベーション活性化のために創設した「環境スタートアップ大賞」の表彰式が、3月17日、CIC Tokyo(東京都港区)で行われ、WOTA株式会社が、事業成長が期待されるスタートアップに贈られる「事業構想賞」を受賞した。

 同社のビジョンは「人と水の、あらゆる制約をなくす。」こと。前田瑶介代表は受賞後のスピーチで、「近年、通信インフラ、エネルギーインフラは小型でパーソナルなものになったが、水道インフラだけは大規模集中型のままだ。操作には熟練の技術もいる。当社は、小型で誰でも取り扱える水のインフラを目指した」と語った。

スピーチする前田代表(著者撮影、以下同)
スピーチする前田代表(著者撮影、以下同)

 「WOTA BOX」は、上下水道がつながっていない場所でも水を使うことができる。災害時の避難所をはじめ、スポーツイベントやレジャー施設などでの利用を想定している。2019年、台風19号で被災し、下水処理施設が機能停止した長野市では、6か所の避難所に計14台が導入された。

 使用済みの水をろ過し、繰り返し水を使う。

 シャワーであれば、100リットルの水で100回浴びられる。

 日常生活を考えると、一般的なシャワーからは1分間に10リットルの水が出る。10分浴びれば100リットルだ。

 つまり、普通なら1人が1回で使ってしまう水を、何度もきれいにして繰り返し使うので、100人(100回分)が使える。災害で上下水道施設が止まっても、発電機と水があればシャワーが使える。給水車などから100リットルの水を補給すれば、被災した100人がシャワーを浴びることができる。

 給湯器やシャワーブース、脱衣所をセットにした「屋外シャワーキット」も販売。WOTA BOXと屋外シャワーキットとのセット価格は、498万円(税別)。これまで自然災害時に、20カ所以上の避難所で2万人以上が利用した。

WOTA BOX
WOTA BOX

 WOTA BOXは幅820×奥行き450×高さ933ミリメートル、重量は82キログラム。内部には排水をろ過する装置がある。

WOTA BOXの内部
WOTA BOXの内部

処理された水はWHOの水質基準を満たす

 シャワーなどで使用した水が再びきれいになる仕組みは以下のとおり。

 まず、排水は、ゴミポケットで大きなゴミが取り除かれる。

 次に、活性炭膜、逆浸透膜など6本のろ過フィルターを組み合わせて、小さなゴミ、せっけんの成分、細菌、ウイルス、金属イオンなどを段階的に取り除く。

 水処理の現場では、長年の経験を頼りに人が五感を駆使して調整するが、AIがセンサーで得た情報を元に、どのような水処理をすべきかを自動的に判断し、機械を制御する。

 最後に、紫外線の照射や塩素による殺菌・消毒も行う。

 このようにして処理された水はWHOの水質基準を満たしている。

 また、水道を必要としない独立型の手洗い機「WOSH」も開発した。こちらも98%以上の水を再利用できるため、20リットルの水を一度補充すれば、連続で500回以上の手洗いができる。

SDGs6(安全な水と衛生をすべての人に)達成に寄与するか

 筆者は、前田代表の話を聞きながら、こうした装置が国内外の水問題解決に寄与するのではないかと考えた(ここからは私見である)。

 日本では全国的に水道事業が疲弊している。浄水場や水道管の更新がままならない自治体が増えている。小規模自治体では点在する小集落の水インフラを、これまでのような大規模集中型の仕組みから、WOTA BOXのような小規模分散、循環型の仕組みに変える(もしくは部分的に併用する)ことで、上下水道の施設を大幅に削減できる。

 循環型の仕組みは、水が不足するから新たにダムなどの水源を確保しようという発想も変わるだろう。現在、家庭で1人が1日に使う水の量は、平均214リットル(東京都水道局/令和元年度)だが、きれいにして繰り返し使うことができる。

 ポツンと一軒家のような場所でも、少量の沢水などが確保できれば、水を得ると同時に生活排水を減らせるので環境への負荷が低減できる。

さらに言えば、世界的には水不足に苦しむ地域がある。水がわずかな地域では、コロナ禍でも手洗いができずにいる。上の図からわかるように、世界の3割の人は水道をもっていない。水源まで水をくみに行っている。

 こまめに手を洗うことが、新型コロナの感染を防ぐ最も重要な方法の1つだが、後発開発途上国(開発途上国のなかでも特に開発が遅れている国)では人口の約4分の3が、水と石けんを使うことのできる手洗い設備を使うことができない。

 こうした地域でも、電気をいかに確保するか、膜フィルターの交換をどうするか、現地にあった価格にできるかなどの課題を克服していけば、SDGs6(安全な水と衛生をすべての人に)達成に寄与するかもしれない。

 災害時で実力は実証済みだが、小規模集落のインフラ、海外の水不足の地域などでも活躍が期待できる。そのとき「人と水の、あらゆる制約をなくす。」だろう。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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