あの「キング・ケニー」が、バイクに乗って被災地復興を支援!
10月2日(月)、大分県湯布院町にあるバイク博物館『岩下コレクション』には、多くのファンが待ち構えていました。
午後1時半過ぎ、数十台のバイクのエンジン音が近づいてくると、
「ケニーだ、ケニーが到着したぞ!」
「この雨の中、本当に走ってきてくれたんだ」
誰からともなく歓声が上がりました。
この日、九州地方は朝から土砂降りの雨。けれど、彼はレインウエアに身を包み、妻のともこさんをタンデムシートに乗せ、滞在先である熊本県の山鹿温泉から湯布院まで片道約100キロの道のりを、約束通りバイクで走ってきたのです。
ケニー・ロバーツ-----。
レース好きなら、彼の名を知らない人はまずいないでしょう。かつてアメリカ国内選手権のAMAで活躍した後、オートバイの世界グランプリに参戦。1978~1980年にかけて3年連続でチャンピオンとなった、あの伝説のアメリカ人ライダー「キング・ケニー」です。
身体を落として膝をするハングオフスタイル、YAMAHAのイエローのマシン・YZR500にまたがる彼の華麗なライディングフォームは、今も多くのファンの目に焼き付いていることでしょう。
ケニー・ロバーツさん(65)は現在、サンフランシスコの郊外に住んでいますが、日本人女性と結婚したこともあり、大のニッポン好き。特に阿蘇山の大自然と素晴らしいワインディングをこよなく愛し、南阿蘇グリーンロードは2015年に「ケニーロード」と命名されました。
それだけに、東日本大震災や九州北部豪雨など過酷な自然災害に見舞われるたびに胸を痛め、さまざまなチャリティーイベントなどを行って復興への活動に力を入れてきました。
毎年10月に南阿蘇で開催されるイベント『ピースライド』には、これまでに何度もゲストとして参加。多くのライダーと触れ合いながら安全な運転と復興支援を呼びかけています。
この日もケニーさんは終始笑顔で、会場に集まったファン一人ひとりと記念撮影をし、握手をしたりサインをしたりしながら、和やかな時間が流れました。
実は、昨年の熊本大地震では、ここ湯布院も震度6の揺れを記録し、大きな被害を受けました。
岩下コレクションでも、展示されていた約200台の旧車や名車がことごとく転倒し、再起が危ぶまれるほどの甚大な被害を受けましたが、約1年の歳月をかけてようやく復旧。常設展示されている『ケニー・ロバーツコーナー』も蘇りました。
そんな中、今回は『岩下コレクション』で集まった熊本地震復興義援金9万3643円を、ケニー・ロバーツさん自らがバイクを駆って受け取りに行き、昨年に引き続き県知事に直接届けることになったのです。
この博物館の代表をつとめる岩下洋陽さんは、約40年にわたって世界中のクラシックバイクを700台以上集めたという日本屈指の二輪蒐集家。現在展示されているバイクは収蔵品のごく一部に過ぎないのですが、昔日の一般市販車のほか、市販・ファクトリーレーサーなど、展示物は多種多様です。
館内にはバイクのほかに昭和レトロの展示フロアも併設されており、バイク愛好家でなくとも楽しめる内容になっています。
サイン会の後、岩下コレクションの館内を見学したケニーさんは、『ケニー・ロバーツコーナー』をはじめ、自身が若い頃に乗っていたというバイクなどを興味深そうに眺めていました。
降り続く雨の中、再びレインウエアを着こんでバイクにまたがるケニーさんの後ろ姿を見送りながら、インタビュー記事で読んだ、彼のこんな言葉を思い出しました。
「今でも『君はすごい経歴の持ち主なんだから、王のように振る舞うべきだ』と言う人もいる。でもそんな気にはならない。(中略)くだらない見栄を張ったり、余計なことに時間を取られるぐらいなら、私はバイクに乗っていたいよ。バイクに乗っていれば『ワオ!』と楽しんでいられるんだからね」(『ゲッカンタカハシゴー第1号』三栄書房より)
あの伝説の名ライダー、ケニー・ロバーツさんが、60代半ばを過ぎた今もなお、大雨の中、颯爽とバイクにまたがり、そして被災地の復興支援のために純粋な気持ちで尽力してくれている、その姿は大勢のライダーたちの表情を明らかに変え、一体感を生み出します。
バイク販売台数が低迷しているという暗いニュースが流れる日本ですが、本当にバイクが好きな人だからこそ発信できるパワーには底知れぬものがある……、ケニーさんの存在は、そのことに気づかせてくれたような気がします。