Yahoo!ニュース

日本林業復活の秘策は、違法木材対策にあり!

田中淳夫森林ジャーナリスト
奈良・興福寺で再興中の中金堂。使われる巨木はアフリカからの輸入材だ

奈良の興福寺と言えば、五重塔から阿修羅像まで国宝がズラリと並ぶ天下の名刹だが、現在中金堂の再建を進めている。

そこには直径80センチを超える巨木の柱が文字取り林立している。が、その木はアフリカケヤキ、正確に言えばアパという熱帯木材だ。写真のとおり、赤身が強く日本の寺院としては異質の雰囲気が漂っている。

寺側によると、カメルーンの木材市場に出荷されたものを何年もかけて買い集めたものだという。正当な取引だから問題ないというのだが……。それらの巨木は、おそらくアフリカ全域から集められたのだろう。違法伐採ではない、あるいは環境破壊をせずに伐採されたと断言できるだろうか。当時のカメルーンは政情不安が続いていて、とても正確なチェックが行われたと思えない。

日本は、中国に次ぐ世界2位の木材輸入国だが、同時に違法木材の輸入大国だと指摘されている。違法木材とは、各国の森林保全のための国内法を無視した伐採で得た木材のことで、違法木材の貿易が森林破壊を後押ししているという声は強い。

違法木材の貿易は、すでに地球サミット(1992)の頃から問題視され、森林保全のための世界森林条約の締結が議論されていた。しかし輸出国の反対も強く、森林原則声明に落ち着いた。1997年のデンバーサミットで、再び欧州諸国を中心に世界森林条約の締結に向けて動き出した。ロシアやカナダも賛成し、いよいよ具体的になってきたが、議長国のアメリカが反対(もちろん日本は追随)。その代わりに持ち出したのが、条約内容を矮小化した違法木材の取引禁止だった。

それでも何も対策を取らないよりはよい。その後、各国は取引の規制に動き出し、年々強化してきた。アメリカでは2008年(改正レイシー法)、EUでは2013年(EU木材法)に違法木材の輸入が禁じられるようになった。オーストラリアでも 2014年に同様の法律が施行されたばかりだ。消費国である欧米を中心に規制の動きが急速に広がっている。

だが日本の違法伐採対策に関連した規制は、2006年制定のグリーン購入法による「政府調達における合法木材の優先購入」だけだ。これは公共事業に関わる木材だけだし、あくまで「合法木材の優先」だ。民間には努力義務を推奨するのみで、法的拘束力はない。

日本も、早急に違法木材対策を強化すべきだろう。日本の輸入木材で違法伐採されたと見込まれるものは、少なく見積もって9%とされているが、グレーな木材はもっと多い。熱帯木材の輸出国によっては、輸出の過半が合法性に疑問のある木材だという。それらを大量に輸入しているのだ。

にもかかわらず、政府は違法木材の輸入規制に不思議なほど動きが鈍い。このままだと世界中から批判が強まりかねない。

合法か違法かを明確にしようとすると、木材のトレーサビリティを厳密に調べなくてはならず、非常に手間かかかる。必要量の確保も大変になるだろう。だから大量にグレーな木材を使っている合板業界や製紙業界などが反対しているとも聞く。

だが少し見方を変えると、日本の林業界にとって違法木材の締め出しは、非常に有意義なのだ。

現在の日本林業が苦しい理由は、国産材価格の下落だ。ひと頃の半額以下となってしまい、いくら木材が売れても、それでは採算が取れないと森林経営を諦める林業家も増えている。

しかし違法木材を締め出せば、足りない分の調達が国産材に向かう可能性が高い。国産材の大半は人工林から伐りだされており、合法的だ。そして国産材の引き合いが多くなれば、価格は上昇するだろう。

NGO等が2013年に出した試算では、トレーサビリティのないマレーシアと中国からの合板輸入が9%ずつ減少すると仮定すると、国産合板価格が 7.22%上昇し、国産の合板用丸太需要が 15.67%増加するという推計が出た。

当然、合板用の国産材価格にも跳ね返るのは必然だ。製紙チップについては触れていないが、国外調達が厳しくなるだろう。

つまり違法木材を締め出せば、日本林業に薄日が射すのだ。日本林業を救うために外材輸入にセーフガードを発動しろとか、高関税をかけろという声があるが、自由貿易の原則に逆らわずとも外材輸入を抑え、しかも地球環境に貢献することができるわけだ。経済的にも倫理的にもプラスなのである。

それなのに政府は及び腰だ。誰に遠慮しているのだろうか。

もちろん、問題はある。違法木材を取り締まっても、その穴を国産材で埋められるとは限らない。もしかして海外から合法証明付き木材が入ってくるだけかもしれない。あるいは需要そのものが、非木材製品に取って代わる可能性もある。そして国産材そのものも、明確な合法性を証明することができるのか。

日本の合法証明は、木材業界団体が出している。いわば身内の認定だ。世界的には、第三者機関の証明でないと通用しない。全国には一か所で100ヘクタールを超えるような大規模皆伐地が増えているが、これらは合法的に伐採されたのだと聞くと無力感に囚われる。

しかし、まず違法木材の締め出しを行うところからスタートする。

国会では、議員立法で違法木材対策を行う動きも起きている。今後の動きを注視したい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

田中淳夫の最近の記事