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10代から産婦人科の検診をおすすめする4つの理由 産婦人科医が解説

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

みなさんは、どんな時に産婦人科受診が必要だと思っているでしょうか?

妊娠がわかった時?月経痛がひどい時?月経不順がある時?

おそらくほとんどの方は、月経痛や月経不順などなにか異常がある時に受診をするか、妊娠をきっかけに初めて受診する場合が多いように思います。

というのも、産婦人科に対するイメージは「怖い」「恥ずかしい」「何をされるかわからなくて不安」など、どちらかというとネガティブなものが多いため、「妊娠や出産に関係ないなら、なるべく行きたくない」と考えている方も多いのではないでしょうか。

米国では「13〜15歳」に産婦人科の受診が推奨されています

日本では、産婦人科は他の内科などと比べて「ハードルが高い診療科」と思われてしまいがちですが、産婦人科の医師からすると、健康診断の定期健診と同じような感覚でもっと気軽に来てほしいものです。

実は、米国の産婦人科学会(ACOG)では、無症状であっても、初めての産婦人科受診の推奨年齢を13〜15歳としています。(文献1)

これは一体なぜなのでしょうか?

なぜ無症状でも13〜15歳に産婦人科を受診した方がいいの?

症状がなくても受診した方がよい理由は、以下の4つについて早めにチェックしておくことが、全ての女性の身体にとってとても大事だからなのです。

①正常に体が発達しているか?

およそ8歳から18歳までを思春期といいますが、この時期から女性ホルモンが活発に分泌され始め、女性らしい体つきに成長したり(二次性徴)、子宮や卵巣が機能し始めて月経や排卵が起こるようになります。

初経(初めての月経)の平均年齢は12歳頃で、14〜15歳になっても初経がみられないと、初経が遅れているとして精査・治療の対象となります。

②月経に問題はないか?

<月経不順>

10代は、卵巣の機能が未熟であるため月経が乱れやすく個人差も大きいですが、初経から約3年間での月経周期の正常範囲はおおよそ「22〜45日」、それ以降は「25〜38日」と定義されています。

その範囲を外れる場合、以下のような状態にないか精査が必要になる可能性があります。(文献2、3)

・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

・摂食障害

・甲状腺機能異常

・高プロラクチン血症

・卵巣機能不全

*多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)については以下の記事もご参照ください。

「女性不妊症の主な原因、多のう胞性卵巣症候群(PCOS)ってなに?将来の様々な病気のリスクにも」

<過多月経>

自分で経血量が多いかどうかを判断することは難しいかもしれませんが、夜用ナプキンを1〜2時間に1回以上取り替えていたり、レバーのような塊が出る場合は、通常より経血量が多い可能性があります。

その場合、以下のような疾患が隠れている可能性があるため診察が必要になります。

・子宮筋腫

・子宮腺筋症

・子宮のポリープ

・ホルモン分泌異常

・凝固機能異常(血液が止まりにくい状態)

など

<月経困難症・月経前症候群>

月経期間中は何も手につかないくらい月経痛がひどい場合、子宮筋腫などの器質的異常や子宮内膜症という病気が隠れているかもしれません。

月経前に気分が不安定になって日常生活に困る場合は月経前症候群(PMS)の可能性があり、漢方薬や低用量ピルなどで改善できる可能性があります。

「生理だから仕方ない」と我慢せずに、早めに産婦人科に相談することで、病気の悪化を防いだり、月経周期による体調の変化に翻弄されずに生活を送ることが可能になります。

*月経(生理)に関連する婦人科疾患については以下の記事もご参照ください。

「あなたの生理は大丈夫? 生理の裏に隠れる婦人科の病気に注意、早めの相談を」

③性感染症にかかっていないか?

思春期になると性的なことに興味が出るのは自然なことで、セックスなどの性的行動を行うようにもなるでしょう。

ただ、性交渉を行うことにはクラミジア、淋菌、梅毒などの性感染症にかかるリスクがあります。そして、性感染症に関する知識を持つ前に性交渉を行ってしまうと、特に感染の危険が大きくなります。

産婦人科では、正しい性感染症予防の方法を教えてもらったり、性感染症の検査を受けることができます。

④健康でいられるために必要な情報を持っているか?(避妊方法、HPVワクチン、子宮頸がん検診など)

正しい知識や情報を持っていることは、望まない妊娠や病気を予防することにつながります。望まない妊娠や癌などの病気は、そうなってしまってからよりも、予防する方が心や身体への負担がなく、お金もかからずに済みます。

例えば、避妊方法として日本で最も一般的なコンドームの避妊成功率は約85%(理想的な使用を常に守れない場合)しかない一方で、産婦人科で処方される低用量ピル(経口避妊薬)は、毎日飲み忘れさえしなければ避妊成功率は約99%と非常に高いのです。より確実な避妊のためには早いうちから低用量ピルを使用することが理想的と言えるでしょう。

また、10代の女性にとって子宮頸がんについて知っておくことはとても大切です。日本では毎年約11,000人の女性がかかり、約2,900人の女性が亡くなっています。(文献4)

子宮頸がんの主な原因はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染なので、最も有効な予防法は、初回性交渉の前にHPVワクチンを打つことです。そして異常(前がん病変)の早期発見のため、20歳以降は2年に1回の子宮頸がん検診を定期的に受けましょう(住んでいる自治体からお知らせが届きます)。

*HPVワクチンについては以下のウェブサイトもご参照ください。

「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」ウェブサイト

初めての受診では診察(内診)をしないことも可能です

実は、産婦人科受診では必ず診察(内診)をするわけではありません

例えば、避妊目的や月経前症候群(PMS)の治療目的の低用量ピルは、問診や血圧測定だけで処方することができます。

月経痛や不正出血など、原因を知るためにどうしても診察が必要なものは診察を行いますが、内診の代わりにお腹から超音波を当てる診察だけで済むこともあります。もし内診が不安であれば、医師に伝えてくださいね。

また、受診する時のコツとしては、聞きたいことや困っていることを予めメモしておくと、伝え漏れを防げたり、スムーズな診察の手助けになるでしょう。

受診のタイミングは、月経中・月経後などいつでも大丈夫ですが、月経痛など痛みに関して相談したい時は、なるべく痛みのある時期に受診していただくと原因をより特定しやすくなります。

このように、産婦人科が女性の健康のために貢献できることはたくさんあります。「病気でもないのに受診していいの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、私たち産婦人科医は「健康的に過ごせるように、若い女性にも産婦人科をもっと利用してほしい」と考えています。

何から話せばよいかわからなくても、まずは受診していただいて、お話しするだけでも大丈夫です。診察は必要があれば行いますが、ご自身の無理のないようにします。プライベートな話や家族には秘密にしたい話もできるように、対応することもできます。

ぜひ、お気軽に産婦人科を受診してくださいね。

参考文献:

1. ACOG. Your First Gynecologic Visit.

2. International evidence-based guideline for the assessment and management of polycystic ovary syndrome 2018.

3. ACOG Committee on Adolescent Health Care. ACOG Committee Opinion No. 349: Menstruation in girls and adolescents: using the menstrual cycle as a vital sign. Obstet Gynecol. 2006 Nov;108(5):1323-8.

4. 国立がん研究センターがん対策情報センター.「がん登録・統計」人口動態統計によるがん死亡データ(1958年〜2019年) .

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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