Yahoo!ニュース

あなたの生理は大丈夫? 生理の裏に隠れる婦人科の病気に注意、早めの相談を

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

生理による心身への影響はとんでもなく大きい

生理(月経)は、一部の生まれつきの病気がない限り、全ての女性にとって切っても切れない存在です。みなさんは生理についてどんなイメージを持っているでしょうか。

「男性にはないのに女性だけが毎月悩まされてずるい」

「痛みや量が人それぞれで、辛さを共感してもらいにくい」

「楽しみなイベントや大事な試験などに被らないかいつも不安」

など、ネガティブな思いを持っている方も少なくないでしょう。

一方で、

「妊娠できる準備ができている、という身体からのサイン」

「タイミングや量などで体調のバロメーターになってくれている」

など、ポジティブに考えている方もいらっしゃるかと思います。

生理は、もともと「妊娠の準備ができたけど、妊娠しなかった場合の子宮のリセット」と言える現象です。つまり生理は「妊娠と表裏一体の存在」なのです。

なお、妊娠・出産回数の減少、栄養状態の改善、寿命の改善などの影響により、この数百年で「生涯に経験する月経の回数」は10倍ほど(400〜500回程度)に増えていると考えられています。

とてつもないことです。

ちなみに、日本で実施された調査研究では、「月経に伴う各種症状による1年間の社会経済的負担は約6800億円」と推計されています。(Tanaka E, et al. 2013)

このくらい大きな影響を社会に与えている重要なテーマとも言えるでしょう。

そんな生理を上手に「活用」して自分の健康を守ろう

このように、平均的には一生で数百回訪れる生理という現象をどのように扱っていくかは、女性のライフスタイルや生活上の満足度に大きく影響します。

生まれ持った機能であるため、自分の意思で簡単になくせるものではありません。

しかし、現代では生理に伴う様々な不調への対策はいくつもありますし、逆に「味方」につけて自分自身の健康を守ることに繋げることだってできます。

本記事では、多くの女性が抱える「生理」に注目し、その変化や異常がどんな婦人科の病気に繋がっている可能性があるか、わかりやすく説明します。

そして、このようなことを知っていただいた上で、ぜひ「かかりつけ産婦人科」を持っていただき、ご自身の健康維持に役立てていただけたら嬉しいです。

症状①「生理痛がひどくて、痛み止めが手放せない。。」

生理といえば、痛みが辛い、という方が多いでしょう。

日本では月経のある年代の女性の中で、概ね3人に1人は生理のときに何らかの辛い症状を感じていると報告されており、生理痛はその代表です。

ひどい月経痛は「生理期間中に痛み止めが手放せない、または生活に支障が出るような生理痛」と考えてください。なお、医学用語ではこのような生理痛を「月経困難症」と呼びます。

痛みのほかに、吐き気、下痢、めまい、だるさ、頭痛などを伴うこともあり、そのパターンは個人個人によって異なります。

「年齢を重ねるほど痛みが強まっている」に要注意!

多くの女性は思春期のうちに強い生理痛を持つようになり、通常、最初の生理から4~5年以内に重くなります。ただし、生理の痛みは女性が年齢を重ねるにつれて小さくなると考えられています。

つまり、年々痛みが増している場合には注意が必要で、以下のような婦人科の病気が隠れていることがあります。

・子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)

・子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)

それぞれの病気についてはあとで詳しく説明しますが、どちらの病気も

・誰にでも起こる可能性がある

・閉経するまで年々悪化していくことが多い

・不妊症の原因になることがある

・妊娠〜出産にも影響を与えてしまう

・病気が進んでしまった場合は手術が必要になることもある

といった特徴を持っています。

例えば、

・20歳を過ぎて生理痛が年々悪化している

・産後に生理が戻ってしばらくしたら生理痛が強まってきた

などのような場合には、早めに産婦人科で検査し、上記のような病気が潜んでいないかチェックすることが大切。

将来の妊娠や出産、手術の必要性などに大きく影響するかもしれないのです。

治療薬や対処法を知っておきましょう

なお、生理痛への対処法は以下のようなものがあります。詳しくはこちらの記事(産婦人科オンラインジャーナル)もご参照ください。

・痛み止め

 →特にNSAIDsと呼ばれる成分が有効です(例:ロキソニンなど)

・経口避妊薬

 →避妊目的に使うピルには生理痛軽減効果があります

・治療用ピル

 →低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(LEP製剤)と呼ばれるホルモン剤

・子宮内デバイス

 →日本ではミレーナという製品が使用できます

・その他

 →下腹部や腰を温める、適度な運動習慣など

症状②「多い日って日中に何枚もパッド交換するの普通だよね?」

通常の生理周期では、通常4~8日間で平均大さじ2~4杯分(約30~60ミリリットル)の血液が失われます。しかし、一部の女性では出血量がとても多いことがあり、医学用語では「過多月経」と呼ばれます。

生理中に大さじ5~6杯(約80〜90ミリリットル)以上の出血がある人は注意が必要で、特に大さじ10杯(120〜150ミリリットル程度)以上の出血は過多月経と考えられます。これが毎月続くと、慢性的な貧血に繋がり、体力の低下や全身のだるさ、寝つきが悪いなどの不調の原因となります。

過多月経を疑う他のサインとして、

・生理の最も多い日には、1~3時間おきにナプキンやタンポンを交換する(経血を吸収しきれない)

・7日以上出血が続く

・大量出血のため、ナプキンとタンポンを同時に使用する

・夜間にナプキンやタンポンを交換する

・親指大の血の塊が混じる

なども注意が必要です。

「出血が多いけど貧血の症状はない」という人こそ要注意

慢性的な貧血は、だんだん身体が慣れてしまうもの。

献血や怪我などで急に血液を失ってしまうと、ふらつきやめまい、だるさを感じやすいですが、毎月繰り返す貧血ではその影響を普段は感じにくくなってしまいます。

しかし、これは決して「大丈夫」なわけではなく、身体には確実に影響が出ています。

実際に、健康診断で毎年貧血を指摘された女性が、婦人科を受診して過多月経の診断となり、治療をして貧血が治ると「今までの生活が嘘だと思うくらい身体が軽くなった」というケースが少なくありません。

生理中に大さじ5~6杯以上の出血がありそうだな、もしくは他のサインのいずれかがあるなと思った方は、ぜひ一度婦人科で診てもらいましょう。

過多月経を起こす婦人科の病気

それでは、生理の出血が多い場合に何が原因なのでしょうか。

例えば以下のような可能性が考えられます。

・機能性出血(無排卵周期など)

・子宮筋腫

・子宮腺筋症(しきゅうせんきんしょう)

・子宮内膜や頸管のポリープ

・(稀ですが)悪性腫瘍

いずれの病気も産婦人科を受診し、内診や超音波検査などをしなければ診断ができません。

また、子宮筋腫や子宮腺筋症は閉経までの間、年々悪化してしまうという特徴がありますので、見つかるのが遅ければ遅いほど、病気が進んでしまいやすいため要注意です。

詳しくはこちらの記事(産婦人科オンラインジャーナル)もご参照ください。

治療法や対処法は原因によって異なるため診断が重要

過多月経の治療は、その原因によって大きく変わってきます。

ときにはホルモン剤を使用することもありますし、ポリープや子宮筋腫などがあればそれを切除する必要があるかもしれません。

このため一言では説明できませんが、まず重要なのは「出血を多くしている原因がないか検査して、貧血の有無もきちんと確認する」ことです。

学校や職場の健康診断で貧血を指摘されたことがあったり、日頃から生理の量が多いと感じていたり、慢性的なだるさや立ちくらみを自覚していたりする場合には、早めの産婦人科受診をお勧めします。

症状③「生理中よりも始まる前の方が調子悪いから、生理のせいじゃないんだよね?」

これまでは生理期間中の痛みや出血量について触れましたが、「生理が始まる前に調子が悪くなる」ことも、実は生理と大いに関係します。

「月経前症候群(PMS)」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

PMSとは「Premenstrual syndrome」の略で、「生理が始まる前の3~10日くらいの間続く、精神的あるいは身体的症状」です。生理が始まると、すぐに症状が改善したり消えたりすることも大事なポイントです。

実は、軽いPMSは多くの女性が持っていて、規則的な月経周期を持つ女性の3/4が影響を受けていると考えられています。

PMSの原因はまだ全てが解明されていませんが、単に「女性ホルモンが多い/少ない」などではないと考えられています。PMSに悩む女性では、女性ホルモンの値は正常範囲であることが多いのです。

感じる症状の種類は10種類以上!個人差も大きい

生理の開始前に感じる症状には様々なものがあり、その数や組み合わせは個人個人によって大きく違うことも特徴の一つです。

<精神神経症状>

・情緒不安定やイライラ

・抑うつ、不安

・眠気

・集中力の低下

・よく眠れない

<自律神経症状>

・のぼせ、ほてり

・食欲がでない

・過食

・めまい

・だるさ

<身体的症状>

・腹痛

・頭痛

・腰痛

・手足や顔のむくみ

・お腹や乳房の張り感

なお、生理開始前に強い精神的症状(とても怒りやすい、過敏になる、抑うつが強いなど)が出る場合は、月経前不快気分障害(PMDD)と呼ばれる状態かもしれません。

幸い、PMSの症状の多くは効果的にコントロールできる

ここまで読んでくださった方の中には、「私、PMSなのかもしれないけど、こんなの治せるの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、幸いなことに、さまざまな治療やセルフケアを行うことで、多くの女性のPMS症状を効果的にコントロールすることができるのです。

まず、自分自身でできるセルフケアについてご紹介します。

・定期的な運動

・リラクゼーション

・ビタミンやミネラルの補給

・カフェイン、アルコール、タバコを控える

・自分の症状とリズムを把握し、生活上のストレスを減らす

これらのセルフケアは、全員に必ず効果的というわけではありませんが、症状を和らげることが期待できます。そして、副作用はほとんどないため、まず試みてみる価値があるでしょう。

それでも十分に症状が改善しない場合は、次の選択肢として治療薬を検討してみましょう。

主な治療薬は、以下の通りです。

<ホルモン剤>

・経口避妊薬(低用量ピル)

・低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)

これらの薬は副作用が少なく、飲むのをやめればその後の妊娠に悪い影響を与えません。

<対症療法>

・鎮痛剤(痛みに対して)

・選択的セロトニン再取り込み阻害薬 [SSRI](精神的な症状に対して)

<漢方薬>

個人の体質に合わせて処方されます。

(例)当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遥散、桃核承気湯、女神散、抑肝散など

PMS/PMDDについて、詳しくはこちらの記事(産婦人科オンラインジャーナル)もご参照ください。

「早期発見」が大切!そのために日頃の生理を「活用」しよう

婦人科の病気は、子宮や卵巣がお腹の中になって自分では見えないこと、そして女性ホルモンという「なんとなく」しかイメージできないものが影響していることなどから、自分自身で異常を発見することは難しいもの。

そして、他人と比べることも少ないので「自分の症状や具合は正常範囲なのかどうか」がわかりにくく、つい受診を後回しにしてしまいがちです。

ところが、今回の記事で紹介したように、生理に関連したトラブルを引き起こす病気の多くは、「閉経までの(生理が来ている)間は年々悪化してしまう」という特徴を持っており、発見が遅れるほど治すのが難しく、また妊娠や出産にも影響を及ぼしてしまいます。

・生理痛がつらい

・実は量がかなり多い

・生理の前にいつも体調が悪くなる

などの症状が思い当たる方は、ぜひ一度、早めに産婦人科へ相談してみてくださいね。

*本記事では、月経のことを「生理」と表現しますが、医学用語等では「月経」と表記します。

*本記事は「生まれつきまたは何らかの事情で生理が来ない女性」や「妊娠できないことに悩む女性」のことも十分に考慮した上で、「月経に関連する医学的助言」を目的として書かれたものです。その点、ご了承ください。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

参考文献:

・UpToDate. Patient education: Painful menstrual periods (dysmenorrhea).

・UpToDate. Patient education: Heavy or prolonged menstrual bleeding.

日本産科婦人科学会. 月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS).

・UpToDate. Patient education: Premenstrual syndrome (PMS) and premenstrual dysphoric disorder (PMDD) .

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

重見大介の最近の記事