Yahoo!ニュース

大阪IR誘致に地元の反対運動は国へ。強引な計画の矛盾噴出

幸田泉ジャーナリスト、作家
IR誘致に向け土木工事が進む夢洲(大阪市此花区)=2022年4月24日、筆者撮影

 大阪府市が大阪湾の人工島「夢洲」(大阪市此花区)に誘致を目指すIR(カジノを含む統合型リゾート)に対し、誘致計画阻止の運動が止まらない。カジノ誘致の是非を問う住民投票を求めて大阪府内で約20万筆の署名を集めた直接請求署名運動は、7月29日、大阪府議会が住民投票実施を否決して終了した。しかし、署名に取り組んだ「カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会」は、活動趣旨を「カジノ反対」から「カジノ白紙撤回」にステップアップさせて運動を継続する。8月末、山川義保・事務局長らが上京して観光庁に大阪IRの「区域整備計画」(大阪府市とIR事業者が共同で作成したIRの具体的な計画)を認可しないよう請願書を提出する予定だ。

 地域政党「大阪維新の会」(国政政党は「日本維新の会」)が与党の大阪では、自民党系の地方議員や元官僚が「IR・カジノ反対」に立ち上がったのも特徴だ。自民党大阪市議、元大阪府副知事らが呼び掛けて6月に設立された「NO!大阪IR・カジノ」は、来月にも国に対して大阪IRの問題点を訴え、認可しないよう要請する。

 大阪府と長崎県が申請しているIRの区域整備計画は、国土交通省が設置する「審査委員会」で有識者らの審査を受ける段階にある。IR建設予定地の地元で、住民が合意しているかどうかも審査項目になっており、大阪でのこうした動きが審査にどう影響するか注目される。

新型コロナでがらりと変わった大阪IR

 「住民投票をもとめる会」が3月~5月に行った署名運動では、街頭で署名集めをしていると、通行人から「海外の富豪が大阪に来て大金を使ってくれる。カジノのどこが悪い」と反論されることがしばしばあったという。確かに、もともと大阪IRは海外の富裕層を呼び込むのを目的としており、大阪府民の頭の中に「かつて」の構想は根強く残っている。

 2017年3月、大阪府市の両首長、地元財界、観光ビジネスの専門家らで作る「IR推進会議」が始まり、2019年末に「大阪IR基本構想」をまとめた。大阪への外国人旅行者数がぐんぐん伸びていた時期で、2018年の約1142万人は2011年の7倍増だった。インバウンドの波はまだまだ大きくなるという見通しの下に、IR推進会議の議論は、「夢洲を国際観光拠点にする」とし、富裕層の心をつかむため高級志向だった。「世界最高水準のIRを作る」とぶち上げ、外国人旅行客にもっと大金を使わせるため、金持ちの遊び場として「24時間営業のカジノ」は必須アイテムだった。

 しかし、新型コロナウイルスの出現で事情はがらりと変わった。今、国の審査を受けている大阪IRの「区域整備計画」は、カジノに興じる年1610万人のうち1067万人は国内客と見込んでいる(開業3年目)。これほどの客が大阪のカジノに押し寄せるのか大いに疑問だが、仮に実現しても主たるターゲットは国内客だ。全国のパチンコファン、パチスロファンを結集させるつもりか、デジタルゲームマシンを6400台も並べる計画になっている。ドレスアップした紳士淑女の社交場というよりは、巨大なパチンコ店の様相である。

世界最高水準は看板倒れ

大阪IR計画の問題点を記者会見で述べる「NO!大阪IR・カジノ」の呼び掛け人ら(右端が小西禎一・元大阪府副知事)=2022年6月20日、大阪市政記者クラブで、「NO!大阪IR・カジノ」提供.
大阪IR計画の問題点を記者会見で述べる「NO!大阪IR・カジノ」の呼び掛け人ら(右端が小西禎一・元大阪府副知事)=2022年6月20日、大阪市政記者クラブで、「NO!大阪IR・カジノ」提供.

 「NO!大阪IR・カジノ」は、主として保守層に大阪IRの抱える問題を広め、国に認可しないよう訴えるのを目的として設立された。呼び掛け人には、自民党大阪市議団の川嶋広稔・幹事長、小西禎一・元大阪府副知事、野村友昭・元堺市議、田中誠太・元八尾市長らが名前を連ねる。

 小西・元副知事は大阪IRに反対する理由を「国際観光拠点とは名ばかりで、国内客を対象にしたカジノに過ぎない。日本国内の各地で消費されていた金がカジノに使われて、米国のカジノの資本に吸い取られる構図だ。経済効果どころか、日本経済に大きな打撃になるだろう」と述べる。

 2019年末に大阪府市が作成した「大阪IR基本構想」では、IRの年間来場者を延べ2480万人とし、そのうちカジノへの来場者は590万人、うち国内客は約430万人としていた。しかし、2020年初めから見舞われたコロナ禍をはさんで2021年末に出来上がった区域整備計画では、IRへの年間来場者は1987万人(開業3年目)で、うちカジノ来場者は1610万人(うち国内客は約1067万人)。

 ビジネスシーンと娯楽が合体したIRは、ビジネス客からファミリー層まであらゆる人が楽しめる場所とされている。ところが大阪IRの区域整備計画の中身を見ると、来場者の8割はカジノ客であり、その7割近くは国内客だ。

 カジノに軸足を移した大阪IRは、目玉だったはずの「MICE」(国際会議、国際見本市などのビジネスイベント)のプランは縮小。大阪IR基本構想では「日本最大の複合MICE施設の整備」をうたい、面積は10万平方メートル以上としていたところ、区域整備計画では「世界最高水準のIRを目指す」としながらも、MICE面積は2万平方メートルしかない。ICCA(国際会議協会)基準の国際会議は、大阪IRと大阪市内の既存施設を合わせて年30件(開業3年目)の開催を目指すとしているが、2016年度には大阪市内でICCA基準の国際会議は31件開催されており、大阪IRの効果はないということになる。小西・元副知事は「世界最高水準のIRは看板倒れもいいところだと区域整備計画で自ら告白しているようなもの」と指摘する。

湾岸の埋め立て地に摩天楼計画

 大阪IRが地元の自民党市議団までが反対する事態になっているのは、区域整備計画の内容とともに、建設場所「夢洲」の問題がある。夢洲は大阪湾岸の埋め立て地であり、建物もなく居住者もいない。周囲を海に囲まれた更地でどうとでもデザインできるため、大阪IR基本構想では「世界最高水準のIR」と大風呂敷を広げた。

 夢洲は廃棄物、浚渫土砂、建設残土の最終処分地で、2040年ごろまで処分地として利用し、埋め立て完了後は大阪港の物流拠点となるはずだった。ところが2014年、当時の松井一郎・府知事(現・大阪市長、日本維新の会代表)が、夢洲をIRの誘致場所にすると政策転換したのだ。当時、夢洲はまだ埋め立て中のうえ、何千室も客室がある超高層のホテルを建設する想定などしていない軟弱地盤だ。さらに、廃棄物や浚渫土砂という埋立材から土壌汚染は明らかで、当然ながら地盤沈下も避けられない。こうした地盤の悪条件のためか、2019年末に始まった大阪府市のIR事業者公募に応じたのは、MGMリゾーツとオリックスの共同事業体だけだった。

 2020年にIR事業者が実施した夢洲の地盤調査で、地震の際に液状化する恐れが発覚する。そこから、吉村洋文・大阪府知事と松井・大阪市長が言っていた「IRは民間投資であって税金は使わない」という話はどこかへ吹っ飛んだ。事業者側の意向に応じ、大阪市が夢洲の所有者として、土壌汚染対策、液状化対策などを実施することになり、今年3月の市議会で約790億円の債務負担行為が議決された。

夢洲は公金投入の底なし沼?

まだ埋め立てができていない夢洲の南側部分=2022年4月24日、筆者撮影
まだ埋め立てができていない夢洲の南側部分=2022年4月24日、筆者撮影

 ただし、地盤沈下対策については、まだ大阪府市とIR事業者との間で協議中とみられ、具体的な対策内容や費用負担は明らかになっていない。一般的な埋め立て地の地盤沈下対策とは、建造物を支えるのに十分な強度を持つ支持地盤まで杭を打ち込み、軟弱な埋立層が圧密沈下しても建造物が傾かないようにするものだ。しかし、夢洲のある大阪港周辺は海底深く存在する固い洪積層が沈下する極めて珍しい地盤であり、この点はIR事業者側も把握している。埋立層の沈下だけでなく、長期に渡る洪積層の沈下にまで大阪市が責任を持つとなれば、いくらかかるのか想定すらできない。

 小西・元副知事は「大阪府市とIR事業者との基本協定(2022年2月15日締結)では、地盤沈下も含めて土地に関するあらゆる課題は大阪市が対処すべきこととされていて、市の負担がどこまで増大するか分からない。大阪市は底なし沼に足を踏み入れるようなもの。IRは地方財政に寄与するどころか、打撃的な負担をもたらすだろう」と危惧する。大阪IRはカジノの売り上げに応じて国と大阪府、大阪市に納付金があるが、その一方で大阪市がジャブジャブと公金を投入するようでは、大阪市民の間で「いったい誰のためのIRなのか」という根本的な問題が顕在化するのは間違いない。

 大阪IRは、大規模集客施設の建設には全く不適切な夢洲を誘致場所にしたのをはじめ、大規模開発を求める財界の意向をバックに政治主導で強引に進められてきた。IR事業者側の調査による液状化の恐れの判明、大阪市の公金投入、カジノ中心の区域整備計画、約20万筆の住民投票を求める署名……。無理を重ねた矛盾が噴出している。国がこれらの問題に蓋をして、既定路線として大阪IRを認可するのであれば、2021年8月の横浜市長選で菅義偉首相(当時)が推す候補を破ってカジノ誘致反対の候補が当選したように、大阪政治にも地殻変動が起こるだろう。

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

幸田泉の最近の記事