大正時代から4代続けて天皇陛下に献上 脂の乗った新ブランド魚「淡路島えびす鯛」を売り込め!
食の宝庫として知られる兵庫県の淡路島で2021年秋、新たなブランド魚「淡路島えびす鯛」が誕生した。大正、昭和、平成、令和と4代の天皇陛下へ献上された歴史がありながら、北の「明石鯛」、南の「鳴門鯛」に挟まれて今ひとつ知名度が低かった島のマダイを、ご当地グルメとして推そうという試みが、県や地元の漁業、飲食店関係者らによって始まった。
「淡路には、大正天皇から4代続いて献上されている素晴らしいタイがあるのに、なぜかあまり日の目を見ていない。『淡路島えびす鯛』を全国的にPRしていきたい」
2021年10月8日、兵庫県南あわじ市の吉備国際大学南あわじ志知キャンパスで開かれた「淡路島えびす鯛」のご当地グルメお披露目会。主催者としてあいさつした食のブランド「淡路島」推進協議会の亀井浩之会長(兵庫県淡路県民局長)が力を込めた。
古代から「御食国(みけつくに)」と呼ばれ、皇室や朝廷に海産物などを納めてきたという淡路島。食料自給率はカロリーベースで100%を超える。海の食材も豊富で、春はサクラマス、夏はハモ、冬はトラフグとスター食材がそろう。
ところが、夏のハモと冬のトラフグの間、秋にメインとなる魚介類がない。そこで県や島内の漁協、観光業者などでつくる協議会が目を付けたのが、島で水揚げされる天然マダイだ。
世界三大潮流の一つ、鳴門海峡をはじめ、明石海峡、紀淡海峡と流れの速い3つの海峡に囲まれた島は、餌となるエビやカニが多いこともあり、身の締まったおいしいマダイが水揚げされる。特に9~11月は、冬の寒さに備えて栄養を蓄えるため、脂が乗っておいしさを増す。
大嘗祭などで「干鯛」にして献上
さらに、島の南西部にある南あわじ市の丸山漁港で水揚げされるマダイは、大正、昭和、平成、令和の4代にわたり、天皇陛下の即位の際の大嘗祭などで「干鯛」にして献上されてきた。
南あわじ漁業協同組合の小磯富男・代表理事組合長は「大正時代のタイを古い写真で見たが、ものすごくきれいな形で残っていた」と話す。2019年の令和の大嘗祭の際は、姿、色、形の良い太ったマダイを選び、背びれを高くして尾びれの形を整えるなど、生きた鯛に見えるように苦心したという。
この良質で、歴史もあるマダイを秋のメイン魚介にしようと、漁業者と飲食店、行政が一丸となり、2020年6月ごろからブランド化事業に乗り出した。古くから島の人々が信仰する、海においては海上安全・大漁、陸では商売繁盛・幸福を招き入れる神である「蛭子(ひるこ<えびす>)神」から、ブランド名を「淡路島えびす鯛」とした。
伝統料理から王道、ペットフードまで
地元のホテルや飲食店など約50事業者が、淡路島えびす鯛を使ったメニューを開発。島の伝統料理である「宝楽焼き」や「鯛そうめん」、「鯛の活け造り」から王道の酒蒸し、あら炊き、独創的な鯛そうめんバーガー、ペット用祝い焼鯛まで、多彩なグルメが出そろった。
10月8日のご当地グルメお披露目会には、約10事業者が参加した。丸ごと1匹をアサリと煮込んだ「えびす鯛のアクアパッツァ パッケリ添え」は、ショートパスタのパッケリがだしを吸っておいしそう。特産のタマネギやタイのあら、焼いたイセエビの殻でだしを取ったトマトベースの「伊勢海老とえびす鯛の和風ブイヤベース」は見た目もゴージャスだ。
厚めにカットした切り身を淡路米の上に載せ、土鍋で炊き上げた「淡路島えびす鯛の和風パエリア」はお米のつやが美しい。他にも宝舟をイメージした「しあわせ宝舟鯛めし」、カラッとフライで味わう「あわじ島鯛&チップス」、写真映えしそうな「淡路島えびす鯛はんぺん」など、島の料理人が腕を振るったメニューが発表された。
淡路島えびす鯛おひろめ隊で一般社団法人淡路水交会の東根壽会長は「淡路島えびす鯛は、私たち漁業者が自信を持って提供し、飲食店や宿泊施設が自信を持ってお届けする。ぜひ淡路島に食べに来てほしい」とPRする。
漁業者と飲食店、行政が一丸となって推す「淡路島えびす鯛」は、鳴門鯛や明石鯛に負けない島のスター食材となるか。今後の展開に期待したい。
撮影=筆者(一部提供)