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「日本人GKが育たない」は幻想か――韓国人GKがJリーグで重宝される理由

金明昱スポーツライター
2009年からセレッソ大阪一筋でプレーを続けているキム・ジンヒョン(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 今年もJ1リーグでは多くの韓国人GKが活躍した。

 数えてみると、J1各クラブに在籍している韓国人GKは、キム・ジンヒョン(セレッソ大阪)、チョン・ソンリョン(川崎フロンターレ)、クォン・スンテ(鹿島アントラーズ)、ク・ソンユン(コンサドーレ札幌)、ムン・キョンゴン(大分トリニータ)、キム・ミノ(サガン鳥栖)、ゴ・ドンミン(松本山雅FC)の7人。

 J1を制覇した横浜F・マリノスの朴一圭は日本出身の在日コリアンだが、韓国籍で外国人枠でプレーしている。

 さらに今季途中、ヴィッセル神戸からKリーグの蔚山現代に移籍したキム・スンギュも含めば、多い時で9人の韓国籍GKがいたことになる。

 そのキム・スンギュに今季J2を制覇し、来季からJ1となる柏レイソルがオファーを出したという。

 すでにJリーグで実績のあるキム・スンギュが再びJリーグに来るのか気になるところだが、なぜ、こんなにも日本で韓国人GKが重宝されるのか。

きっかけはC大阪のキム・ジンヒョン

 韓国人GKのJリーグ入りラッシュが続いた2017年。その理由について、韓国のサッカー担当記者に色々と話を聞いたことがあった。

 その時の話がとても興味深い。

 当時、中央日報のスポーツ記者、ソン・ジフン氏はこんなことを教えてくれていた。

「2009年からC大阪で活躍するキム・ジンヒョンがJリーグで成功を収めたことで、他クラブも韓国人GKに関心を持ち始めたと思います」

 韓国人GKへの関心が注がれるきっかけを作ったのがキム・ジンヒョンなのは間違いないが、何よりも必要なのはGKのスキルと能力。

 その中でソン記者は「体格の良さ」について指摘していた。

「J1にいる韓国人GKの平均身長は190センチ近くあるはずです。体格のいいGKが魅力的なのは間違いなく、試合でも有利であるのは明白でしょう」

 キム・ジンヒョンは192センチ、ク・ソンユンは195センチ、チョン・ソンリョンは191センチと確かに体格に恵まれたGKが多い。

 もう一つは「韓国のGKはビルドアップに優れている」という。

「Kリーグでもよく見られる光景なのですが、後方から選手に檄(げき)を飛ばしながらチームの士気を上げ、ディフェンスラインのコントロールにも指示する姿がよく見られます。試合中も強いリーダーシップが発揮されているのだと思います」(ソン記者)

今季ヴィッセル神戸からKリーグの蔚山現代に移籍した韓国代表GKキム・スンギュ。柏レイソルが獲得のオファーを出したと言われているが再びJリーグに復帰するのか(筆者撮影)
今季ヴィッセル神戸からKリーグの蔚山現代に移籍した韓国代表GKキム・スンギュ。柏レイソルが獲得のオファーを出したと言われているが再びJリーグに復帰するのか(筆者撮影)

KリーグでGKは韓国籍に限定

 韓国で優れたGKが育つのは、Kリーグの規定によるところも大きいと言われている。

 Kリーグでは韓国籍を持たないGKは登録できない。つまり、GKは無条件に韓国籍所有者だけとなり、外国人GKはプレーできないのだ。試合に出続けて経験を積むことで、選手のレベルは確実に上がる。

 しかし、なぜKリーグはこのような規定を設けたのか。その背景には、こうした規定ができる前まで、外国人GKがKリーグに大挙して押し寄せたことがあったからだ。

 Kリーグの歴史の中で、最も有名な外国人GKがいたのだが、その話を少ししておこう。

 旧ソ連出身のバレリー・コンスタンチノビッチ・サリチェフというGKが、1992年から98年までの7シーズン、一和天馬(現在の城南FC)でプレーした。

 チームのピンチを救うスーパーセーブを連発し、93年からリーグ3連覇の原動力となった。この活躍が引き金となり、他クラブが外国人GKを呼び寄せた結果、国内の優れたGKが試合に出られない状況が続いたという。

 韓国人GKを試合に出場させなければ育たないという危機感から、Kリーグは99年に外国人GKの保有及び出場禁止を決定。

 現在も規定はそのままなので、Jリーグのように外国人GKからポジションを奪われるような現象は起こらない。

 必然とライバルは国内選手となるので、試合に出られるチャンスが多いので経験値は上がる。韓国に優秀なGKが多い一つの要因と言える。

 余談だが、サリチェフの愛称は“神の手”。その後、2000年に韓国籍に帰化し、「シン・ウィソン(韓国語で“神の手”)」と改名。04年まで現役を続けたが、Kリーグでの8試合連続無失点記録は今でも破られていない。

韓国GKの海外移籍は必然と日本に?

 Jリーグが韓国人GKにオファーを出すのはその能力の高さを買っている部分が大きいのは間違いないが、韓国人GKにとって海外移籍市場がJリーグにほぼ限定されているような部分もある。

 韓国同様にGKを中国籍だけに限定している中国リーグには移籍できない。欧州クラブはそもそも競争が激しく、中東クラブも欧州から呼び寄せる傾向が強い。

 実際、韓国代表GKチョ・ヒョヌ(大邱FC)も欧州移籍を希望しているが、そのハードルはかなり高いようだ。すると目が向くのが必然とJリーグになる。

 以前、鹿島アントラーズのGKクォン・スンテが「(海外移籍の)チャンスはなかなか来なかった」と話していたが、今では韓国人GKを保有するJリーグクラブが増え続けているのは、目に見えてチームへの貢献度が高いからと言わざるを得ない。

キム・スンギュ「日本にも優れたGKはいる」

 ただ、そうなると「日本人GKが育たない」という声も聞こえてくるが、ヴィッセル神戸在籍時のキム・スンギュがこんなことを言っていた。

「韓国のGKがJリーグに多いからといって、日本のGKが劣っているわけではありませんし、優れた選手はたくさんいます。それに10年前のJリーグを見ても、外国人GKはそこまで多くなかったはずで。Kリーグの規模は大きくなくて、1部のチーム数は12チームと多くありません。韓国の場合は、外国人GKを呼ぶと、国内選手のポジションがなくなる可能性は大きかったはずです。Jリーグは J1からJ3まであるので、日本のGKが経験を積む場所はたくさんありますし 、一概に外国人GKが多いということで日本のGKのスキルが低くなるということは考えにくいと思います」

 現役代表GKの立場からの発言だけに、妙に説得力があった。

 環境を言い訳にせず、スキルを上げるためにたゆまぬ努力をすべきだという声にも聞こえてくる。

 来シーズンもJ1には多くの韓国人GKがプレーするが、すべての選手が所属するチームへの貢献、リーグ優勝を目指して必死に海外で戦っている。これからもその雄姿を見守ってほしい。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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