サトテルが金沢に来た!4年ぶりの阪神タイガースとの交流試合《日本海リーグ・石川ミリオンスターズ》
■4年ぶりの開催に今季最多の2,618人が来場
実に4年ぶりの開催となった。石川ミリオンスターズにとって毎年の“恒例行事”だった阪神タイガースとの一戦だが、コロナ禍によって2020年から3年間は開催できなかった。だから北陸のタイガースファンも、この日を首を長くして待っていた。
前日には佐藤輝明選手の参加が判明したことにより、さらに約400枚のチケットが売れたという。球団事務所、球団関係者、金沢市民野球場の電話は鳴りっぱなしで、スタッフは対応に大わらわだった。
心配なのは天候だけだった。日本海側の天気は変わりやすく、しかも梅雨どきだ。ただ、2021年に人工芝化したグラウンドは水はけもよく、少々の雨なら開催できるのは心強かった。実はこの人工芝にもタイガースが関わっていると、ミリオンスターズの端保聡社長は明かす。
「10年以上前ですが、タイガースさんとの試合が開始直前のゲリラ豪雨で中止になったことがあったんですよ。それも2年連続で!」と振り返る。雨は一過性だったが、そのあとのグラウンドが水浸しで使いものにならなくなっていた。「人工芝なら(試合が)できたねということで、市にお願いしたんです」と、タイガースがきっかけで人工芝化が実現したと語る。
このようにミリオンスターズとタイガースとの結びつきは強く、「今年のタイガースの活躍で、より多くのお客さんにも来てもらえた。おかげさまです」と、今季最多となる2,618人の観客数に端保社長も頬を緩めていた。
■試合経過
さて、試合は二回に動いた。先発のアントニオ・サントスから井上広大がレフトへソロ弾を放ってタイガースが先制した。試合前練習のフリー打撃でもサク越えを連発していた井上は、状態のよさをそのまま発揮した。
さらに三回にはエラーと四死球に乗じたタイガースが3点を追加、五回にも1点、六回にも4点を加点。いずれも四球がらみだった。
一方、ミリオンスターズも意地を見せる。四回2死から阿部大樹が四球で出塁するや初球にスチールを敢行。みごとなスタートに捕逸を誘って三塁まで進むと、植幸輔のセカンド強襲ヒットでホームに還ってきた。
七回裏が終わると同時に突如スコールのような大雨に見舞われ、1-9で降雨コールドゲームとなった。注目の佐藤輝明は「4番・サード」でスタメン出場し、1安打と1犠飛で1打点を挙げていた。
◆ランニングスコアとバッテリー
阪神|013 014 0=9
石川|000 100 0=1
阪神…○森木(5)・鈴木(2)―中川
石川…●サントス(2)・井澤(0.2)・藤川(2.1)・青山(0.1)・村上(1.2)―植
■試合後の後藤光尊監督
タイガースとは4月18日(鳴尾浜球場⇒その試合)に続いて今季2度目の対戦となるが、約2か月後の今回、ナインに変化や成長は見られたのか。試合後、後藤光尊監督に話を聞いた。
「ピッチャー陣はちょっといいもの…というか、持っているものは出せるようになってきたのかなという感じはした。まだまだフォアボールの多さだったりとかはありましたけど」。
2/3回を3四球1死球で3失点(自責は0)の井澤宇敬投手の名前を挙げ、「井澤は今日はいいものが見えた」と出力の高さを讃え、「あれをなんとかまとめられるように。今日出たものを自分でどう理解しながら課題を克服していくか」と、今後にいい形でつながることを期待していた。
攻撃陣に関しては「独立の選手はどうしてもストレートを狙いたがる傾向がある。ベンチから見ていて『このカウントなら変化球、スライダーかな』と思うところを簡単に見逃してしまう」と“配球の読み”を課題に挙げる。
「当然、まっすぐは弾かなきゃいけないんですけど、バッテリーもバッターの動きを見ている。やっぱりカウントによっては変化球も狙いにいくとか、そういう工夫が必要」。
好例として挙げたのが、五回2死一、二塁で打席に入ったタイガースの片山雄哉選手だ。カウント1-2からファウルで粘ってフルカウントにもち込み、タイムリーを放った。
「追い込まれてからインコースのまっすぐをファウルで逃げて、いいところの変化球をセンター前にもっていってっていう。すごくよかった。やっぱりあのへんが違いかなというところ。変化球を待ちながらまっすぐをファウルして、変化球に食らいついていく。ああいう姿を見て、自分たちに足りないと思えるかどうか」。
かつては独立リーガーだった片山選手がなぜドラフト指名され、NPBの世界で5年間プレーできているのか。その“差”に気づけという。
そんな中、唯一の得点に絡んだ二人に相好を崩す。まず2死から四球で出塁し、盗塁を決めた阿部選手だ。
「阿部の中では変化球が多いっていうのがあったので、結果まっすぐでしたけど、ああいう根拠をもって走ってくれると意図が伝わる。あれはいいスタートを切ったし、よかったかなと思います」。
そして、その阿部選手をホームに還したのは植選手だ。「なんとか引っ張り込んでね、根性を見せてくれたのでよかった」。
後藤監督は、そういう姿をどんどん見せてほしいのだ。
また、タイガースの応援の迫力に選手のテンションが上がっていたと、後藤監督は明かす。「1軍は甲子園で試合をしてるけど、我々はファームをしっかり応援する」と阪神タイガース応援団「富山応援団」が駆けつけ、楽器と声援でにぎやかに盛り立てていたのだ。
「試合中に吉田に『どうや、楽しいやろ?』って訊いたら、『めっちゃ楽しいです』って(笑)。こういう舞台で、いや、もう一つ上の舞台でやるようなイメージを持ってくれたらいい。通用しないなりに体感はしてくれたのかなという気はするので。本当に地鳴りがするくらい、すごい応援だった。ああいうのを経験できたのは、選手にとってよかった」。
公式戦でも常々ミリオンスターズ応援団「百万石青星会」の応援は選手たちをおおいに勇気づけてくれており、選手も感謝している。ただ、この日は観客数がケタ違いに多かったことでにぎやかさが増し、よりタイガースの応援が印象づけられたようだ。
試合前の両応援団による応援合戦も、選手たちのワクワク感を高めてくれていた。
ミリスタナインにとって、さまざまな経験ができた一日だった。練習も熱心に見て、NPBの選手の飛距離を目の当たりにした。
ただ、「見て『すげぇなぁ』じゃ、ダメなんですよ」と後藤監督は釘を刺す。そうだ。WBCの決勝戦前に大谷翔平選手がミーティングで「憧れるのはやめましょう」と言ったように、憧れていては超えられないということだ。「超えてやる」という気概がないと、NPBには行けない。「すげぇ」と見られる側になってくれと、後藤監督は願っている。
■各選手のコメント
◆アントニオ・サントス
《2回 2安打(1本塁打)、1三振、1失点》
「前の試合(ドラゴンズ・ファーム戦)では100%の力が発揮できなかったから、毎日練習して、今日はそれを修正したのでスライダーなどがよかった。
(若虎打線?)相手どうこうより、自分がベストを尽くすことを頑張りました」。
◆藤川一輝
《2・1/3回 3安打、1三振、2四球、1失点》
「初めてNPBの応援団がいる中で投げられたので、自分が応援されているようで気持ちよかったですね(笑)。
試合が続いている中で疲労もありましたけど、気持ちで向かっていけたかなと思います。でも佐藤輝明さんに打たれちゃったんで、悔しいです。実力不足ですね。
佐藤さんには絶対に全部まっすぐを投げたろうと思っていました(笑)。まっすぐで追い込んで1ボール2ストライクになって、チラッと変化球がよぎった分、まっすぐが甘いところにいっちゃったのかなと思います。でも、対戦は楽しかったです、非常に。
自分の調子は上がってきているので、自分のこと以外にもチームとしてできることがあるんじゃないかと思っています、もう2年目なので。チームとして調子を上げられるようにしていきます」。
◆阿部大樹
《2打数0安打、1三振、1四球、1盗塁、1得点》
「(4月の対戦では森木投手から2安打)前回はめちゃくちゃまっすぐが多かったけど、今回はまっすぐをとらえきれなくて…。1打席目のピッチャーゴロは悔しかったですね。2打席目は変化球が多かったけど、そこでフォアボールを選べたのはよかったかな。
武器が足だと思っているので、絶対に初球からいこうという気持ちでした。もうガツガツいこうかなっていう。
去年、濱将乃介(現中日ドラゴンズ)がほんとに初球から全部走っていて、ああいう姿勢を見習わないといけないというのはずっと思っていた。ガツガツいこうという気持ちだけです!
応援団、えぐいっす、まじで。自分の力以上のものが出るっていうか、ずっと興奮してて。守備やってても、めちゃくちゃ楽しかったです。思い出にしちゃいけないと思うんですけど、すごく残る試合です。楽しかったです」。
◆植幸輔
《2打数1安打、1四球、1打点》
「やっぱり結果を残さないとNPBに行けないので、どうにかスカウトの目に留まるようにとやっていました。
2アウトから阿部さんが出て、1点欲しいと思ってたんで、ストレートに押し負けないようにと。ファウルの2球が押されてたんで、遅れないようにタイミングを取りました。
1打席目はダメ(左飛)やったんですけど、2打席目でなんとか1本(セカンド強襲安打)出せたのでよかったと思います。
NPBとの対戦で、自分がどこまでできるのかというのをスカウトの人たちに見せられるので、いいアピールができた。この経験を活かして、公式戦でもしっかり結果を残して、目に留まる選手になりたい」。
■YouTubeでも驚きの再生回数
公式戦と同様に、この試合もYouTubeで生配信されたが、その視聴者数も記録的だったという。「同時視聴者数のマックスが1,700人弱。通常、多いときでも1試合150人とかなんですよ。だから10倍以上ですね。やはり佐藤輝明選手が打席に入るときに、瞬間的に200人、300人と伸びましたね」と、担当の谷口一馬さんは驚きを隠せない。
「再生回数的には3万回以上回っていて、今もまだ伸びています。通常だと試合が終わった時点で2千回いかないくらいなので、もう圧倒的に多いですね。タイガースの人気はすごいです。佐藤選手も」。
現在も視聴可能なので、NPBを目指すミリオンスターズの選手たちのことも、ぜひチェックしてみていただきたい。ちなみに解説は元タイガースの投手であり、現在はスカウトをしている筒井和也氏だ。筒井スカウトの“初解説”も楽しめる。(石川ミリオンスターズのYouTubeチャンネル)
■積極的にNPBとの試合を組む
今年は「日本海リーグ」として富山GRNサンダーバーズと2球団だけの“ミニマムリーグ”で活動している石川ミリオンスターズ。公式戦は40試合(16試合消化)で、それ以外にNPB球団のファームとの試合を組んでいる。
両球団からの選抜チームが“ショーケース”として遠征に赴くこともあれば、5月の北海道日本ハムファイターズ戦や今回のタイガース戦のように“興行”として相手に出向いてもらうこともある。9月20日には埼玉西武ライオンズとのゲーム(金沢市民野球場)も予定されている。
「新リーグになって、なるべくNPBとの試合を多くしようとやっています。選手にとっても恵まれた環境だと思いますね。それを理解できているか。今日の試合の反省も含めて、選手たちには『NPBに行きたいからここにいる』ということをよく考えてほしい」と端保社長は語る。
球団としての興行であるのはもちろんだが、同時にNPBを目指す選手たちにできうる限りのものを提供してやりたいという思いがあるのだ。
「これからも積極的に展開していきたい。理想をいえば、月に1回くらい、こういうゲームができればね」。
今回、初めて球場に足を運んだという人もいた。これをきっかけにミリスタファンになり、末永く応援してもらいたいと、端保社長は期待している。
(表記のない写真の撮影は筆者)